表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/121

これからの行動次第

「……本当の話だったとしたら、ちょっとだけ嬉しいかな」

「どうして?」

「だって、お母様みたいに、優しくて素敵な人でも、昔は短気で、粗暴な面もあった――つまり、多少は問題のある人格だったってことでしょ? でも、今は国中の皆に好かれてるわ。それって、人は変われるってことよね」


 お母様は、静かに頷いた。

 私も頷いて、言葉を続ける。


「だったら、町の皆に嫌われている私だって、これからの行動次第で、皆に好きになってもらえるかもしれないって思えて、なんだか、勇気が湧いてくるの」


 私は、本当にそう思っていた。

 都のほぼ全員に嫌われている最低最悪の悪役令嬢と、若い頃ちょっと短気だった程度の聖女では話の次元が違うが、それでも、お母様のことを思うと、前向きな気持ちになれる。


 そこで、お母様はブラシをサイドテーブルに置き、後ろから私を抱きしめた。


「そうね。人は、いつだって、自分の決心次第で、変わることができるのよ。どんな辛い状況でも、強い決意と覚悟があれば、必ず運命は良い方向に転がっていくと私はいつも思っているの。だから、あなたならきっと、誰からも愛される素敵な女の子になれるわ……」


 私はお母様の愛情と優しさを体いっぱいに感じながら、静かに頷いた。


 ひさしぶりの母娘水入らず。

 とても温かく、素敵な時間だった。



 そして、夜。

 私は町娘の服装に着替え、『犬のしっぽ亭』に向かった。


 何故かというと、フェリスのことが気になったからだ。


 時刻は午後7時。

 お酒を飲みにくるお客さんと、夕飯を食べにくるお客さんが殺到し、『犬のしっぽ亭』が一番忙しくなる時間だ。


 フェリスはもうすっかり仕事を覚え、あらゆる業務を、私よりもテキパキとこなしているのだが、それでも、私が抜けて、ただ一人の従業員となったことで、てんてこまいになってないか、心配でたまらなかった。


『犬のしっぽ亭』に到着した私は、にぎやかな声であふれる店内を、外の窓からそっと覗き見る。そこには、溌溂はつらつとした様子で、生き生きと働くフェリスの姿があった。


「ありがとうございましたー♪ またお越しください♪」


 店を出るお客さんに対し、太陽のような笑顔で挨拶をするフェリス。


 ……なんだか、今日の彼女は、いつもより眩しく見える。私は『犬のしっぽ亭』の外壁に寄り掛かるようにして、しばらく、ぼーっとフェリスを眺めていた。


 そうするうち、自然と、口から独り言が漏れた。


「フェリス……成長したわね。最初は、複数の注文が一度にきただけで、大慌てだったのに。今じゃすっかり、ベテラン店員の風格ね……私も鼻が高いわ……」


 外から酒場の窓に張り付いて、後方彼氏づらで、ぶつぶつと喋っている私の姿は、道行く人たちからすれば、さぞ不気味だろう。


 だが、成長したフェリスの姿を見ていると、万感の思いを抑えきれない。

 私は少しだけ声のトーンを落とし、相変わらずぶつぶつ呟きながら、フェリスを生暖かく見守り続けた。


「あっ、駄目よ、駄目駄目っ。あのおじさん、何、フェリスのお尻を触ろうとしてるのよ。駄目よ、駄目だってばっ! ……ふぅ、さすがフェリス。腰をずらして、華麗に回避したわね。騒いで店内の空気を悪くすることなく、ごく自然にセクハラをスルーする完璧な店員ムーブ……見事だわ……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、最近の更新はお疲れ様です! うん、なるほど、聖女のお母様は生みの親じゃなかったか。確かに単純な家庭関係じゃないね、ミリアムさんが影響を受けたのもおかしくないでしょう。でも、実は本…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ