表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/121

ひさびさの母娘水入らず

 で、現在私は、自室にてお母様に髪をとかしてもらっている。


 ひさびさの母娘水入らずだもん。

 これくらい甘えてもバチは当たらないよね。


 器用なクリステルお母様は、エッダに負けないくらいブラシの使い方がうまい。


 心地よさにうっとりしていると、お母様は吐息混じりの言葉を漏らした。


「本当に綺麗な髪ね……同じ金髪でも、私の髪よりキラキラと輝いて、まるで黄金のよう……」


 私の髪色は、いわゆるゴールデンブロンドであり、お母様のプラチナブロンドより、確かに色の主張は強いかもしれない。でも、髪が放つ輝きの美しさなら、お母様の方がずっと上だ。何より、プラチナブロンドの方が上品な感じだし。


 今思った通りのことを、私はほとんどそのまま口にする。


「でも、お母様の髪の方が、上品な感じで素敵だと思うわ。キラッキラの金髪って、人によっては下品に見えることもあるみたいだし」

「そんなことないと思うけど……。でも、もしも誰かが、あなたの金髪を下品だなんて言ったら、私が出て行ってやっつけてあげますからね」


 お母様はそう言うと、ブラシを持つのとは反対の手で、シュッシュとパンチを打つような仕草をした。そのおちゃめな動きを私は鏡ごしに見て、思わず吹き出してしまう。


「あはは、気持ちは嬉しいけど、『聖女』であるお母様が、怒って殴り合いの喧嘩なんかしたら、国中大騒ぎになっちゃうわ」


 私と同じように、お母様も、おかしそうに笑う。


「うふふ、そうかもしれないわね。でも、『聖女』だって、時には怒ることくらいあるのよ」


「そうなの? お母様が怒ったところなんて、もう何年間も見てないけど……」


「それはまあ、私もいい大人ですから、人前で腹を立てる姿を見せたりはしませんよ。何より『聖女』として活動していると、国の中でも、外でも、皆さんとても気を使ってくれますし、不快なことに遭遇する機会もほとんどありませんからね。とてもありがたいことです」


「不快なことに遭遇しなければ、腹が立つこともない……か。それはそうかもしれないけど、やっぱり、お母様は人間ができてるから、嫌な目に遭ったとしても、『こんなの大したことじゃない』って思って、平常心で我慢できてるんだと思うな」


「そうかしら?」


「うん。『聖女』の仕事って、長い間家を開けなきゃいけないことも多いし、状況に応じて奇跡の力をコントロールしなきゃいけないんだから、大変なこともいっぱいあるだろうし、私だったらきっとストレスが溜まって、ちょっとしたことでイライラしちゃうかも。やっぱりお母様は凄いわ」


「ふふ、ありがとう。でもね、私、これでも昔は、かなり気が短かい方だったのよ。あなたがさっき言ったみたいに『殴り合いの喧嘩』をして、皆を驚かせたことだってあるんだから」


「ええ~? それ、本当の話? 冗談でしょ?」


 この優しいクリステルお母様が、激怒するところも、暴力を振るうところも、とても想像できない。ずっと前に一度だけ、お母様が機嫌を壊したところを見たことがあるが、それでも、子供のようにムスッと頬を膨らませ、ちょっぴり拗ねた態度をとるだけだった。


 私の問いに対し、お母様は悪戯っぽく微笑んで、今まで以上に優しく髪をとかしてくれる。


「さてさて、本当の話かしら、それともただの冗談かしら」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ