ひさびさの母娘水入らず
で、現在私は、自室にてお母様に髪をとかしてもらっている。
ひさびさの母娘水入らずだもん。
これくらい甘えてもバチは当たらないよね。
器用なクリステルお母様は、エッダに負けないくらいブラシの使い方がうまい。
心地よさにうっとりしていると、お母様は吐息混じりの言葉を漏らした。
「本当に綺麗な髪ね……同じ金髪でも、私の髪よりキラキラと輝いて、まるで黄金のよう……」
私の髪色は、いわゆるゴールデンブロンドであり、お母様のプラチナブロンドより、確かに色の主張は強いかもしれない。でも、髪が放つ輝きの美しさなら、お母様の方がずっと上だ。何より、プラチナブロンドの方が上品な感じだし。
今思った通りのことを、私はほとんどそのまま口にする。
「でも、お母様の髪の方が、上品な感じで素敵だと思うわ。キラッキラの金髪って、人によっては下品に見えることもあるみたいだし」
「そんなことないと思うけど……。でも、もしも誰かが、あなたの金髪を下品だなんて言ったら、私が出て行ってやっつけてあげますからね」
お母様はそう言うと、ブラシを持つのとは反対の手で、シュッシュとパンチを打つような仕草をした。そのおちゃめな動きを私は鏡ごしに見て、思わず吹き出してしまう。
「あはは、気持ちは嬉しいけど、『聖女』であるお母様が、怒って殴り合いの喧嘩なんかしたら、国中大騒ぎになっちゃうわ」
私と同じように、お母様も、おかしそうに笑う。
「うふふ、そうかもしれないわね。でも、『聖女』だって、時には怒ることくらいあるのよ」
「そうなの? お母様が怒ったところなんて、もう何年間も見てないけど……」
「それはまあ、私もいい大人ですから、人前で腹を立てる姿を見せたりはしませんよ。何より『聖女』として活動していると、国の中でも、外でも、皆さんとても気を使ってくれますし、不快なことに遭遇する機会もほとんどありませんからね。とてもありがたいことです」
「不快なことに遭遇しなければ、腹が立つこともない……か。それはそうかもしれないけど、やっぱり、お母様は人間ができてるから、嫌な目に遭ったとしても、『こんなの大したことじゃない』って思って、平常心で我慢できてるんだと思うな」
「そうかしら?」
「うん。『聖女』の仕事って、長い間家を開けなきゃいけないことも多いし、状況に応じて奇跡の力をコントロールしなきゃいけないんだから、大変なこともいっぱいあるだろうし、私だったらきっとストレスが溜まって、ちょっとしたことでイライラしちゃうかも。やっぱりお母様は凄いわ」
「ふふ、ありがとう。でもね、私、これでも昔は、かなり気が短かい方だったのよ。あなたがさっき言ったみたいに『殴り合いの喧嘩』をして、皆を驚かせたことだってあるんだから」
「ええ~? それ、本当の話? 冗談でしょ?」
この優しいクリステルお母様が、激怒するところも、暴力を振るうところも、とても想像できない。ずっと前に一度だけ、お母様が機嫌を壊したところを見たことがあるが、それでも、子供のようにムスッと頬を膨らませ、ちょっぴり拗ねた態度をとるだけだった。
私の問いに対し、お母様は悪戯っぽく微笑んで、今まで以上に優しく髪をとかしてくれる。
「さてさて、本当の話かしら、それともただの冗談かしら」




