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母親として

 ……なんでこんな、人払いのような真似をするんだろう?


 そう思っていると、お母様は座ったまま、ゆっくりと上半身を倒していく。

 やがて、コツンと音がして、お母様の額がテーブルについた。


 ……これは。

 この姿勢は。

 まるで、テーブルを地面に見立てて、土下座しているようだ


 何故お母様がそんなことをするのか分からず、私は困惑しきった声で問いかけた。


「お、お母様? 何を……」


 お母様は顔をあげずに、滔々と語りだす。


「ごめんなさい、ミリアム。私、あなたの振る舞いを見て、母親として、いつも『いさめなければいけない』と思っていたけど、結局、一度だって、あなたをちゃんと叱ったこと、なかったわね……」


 それは、その通りだった。


 ずっと前にも述べたが、この屋敷内でミリアムの横暴を諫めようとするのは『メイド長』ヒルデガードだけであり、お父様も、お母様も、お兄様も、とにかくミリアムに対して激甘なのである。……まあ、クリステルお母様がミリアムに強く出られないのは、ちょっと理由があるのだが。


 テーブルに額をこすりつけるようにしながら、お母様はなおも話を続ける。


「私、本当の母親じゃないから、あなたに面と向き合う勇気がなかったの。あなたにお説教をして、『他人のくせに口出しするな』なんて言われたら、きっと私、立ち直れないから……」


「お母様……」


「おうちの外では、『聖女』だのなんだのと持ち上げられてるけど、実際の私は、こんなに情けない、気の小さい女なの……私が母親としてしっかりしていれば、きっと、もっと早くにあなたを正しい道に進ませてあげることができたはずだわ……ごめんなさい……本当にごめんなさい……」


「そんな、お母様、謝らなくていいから、頭を上げて……」


 私はいつの間にかお母様に駆け寄り、その体を抱き起こした。


 ……先ほど言いかけた、『クリステルお母様がミリアムに強く出られない理由』とは、今お母様が口にした通り、彼女が『ミリアムの本当の親ではない』ということである。


 ミリアムの生みの親である、前のローゼン公爵夫人は、ミリアムがまだ幼い頃に、病気で他界した。それからしばらくして、お父様はクリステルお母様と再婚したのだ。


 ……前のローゼン公爵夫人には申し訳ないが、正直言って、彼女に対する思い出のようなものは、全く頭に残ってない。『生みの親より育ての親』ということわざがあるように、私にとっての『母親』は、クリステルお母様ただ一人だ。


 それなのに、ミリアムの悪辣な振る舞いのせいで、お母様をこんなに悩ませていたなんて。


 私は涙ぐみながらお母様にしがみつき、これまで以上の決意を口にする。


「ごめんなさいお母様……私、もう二度とお母様を悲しませたり、悩ませたりしないわ。きっと……ううん、必ず、誰からも愛される、理想的な公爵令嬢になってみせるから……」


 お母様は頷き、私の手に手を重ねる。

 彼女の愛情が、手の温もりを通して、私の心に染み入るようだった。



 そして、昼食は終わった。


 カスティールお兄様は結局、ランチまでに帰ってくることはできなかった。

 ああ見えて天才魔導師であるお兄様は、色々とやらなければならないことがあって、忙しいのだろう。


 ふふ、かわいそうだから、あとで一緒にアフタヌーンティーをしてあげようっと。

以後、隔日更新となります。

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