表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/121

眼前に迫る石畳

 地面に激突するまでのコンマ数秒間、私はほとんど一瞬で、今まで述べたようなことをあれやこれやと考え、まさに眼前に石畳が迫った刹那、恐怖から瞳を閉じた。


 ……

 …………

 ………………おや?


 痛くない。

 衝撃もない。


 もしかして、転んだと思ったのは、私の勘違いだったのかしら?


 私は、恐る恐る目を開ける。


 目の前には、石畳。


 どうやら、転んだことは間違いないらしい。

 だが、倒れた私と地面の間に、不思議な空気の層があり、その、空気のクッションとでも言うべきものが、私を守ってくれたようである。


 ……これ、魔法だわ。

 確か、『風属性の魔法』で、『エア・ウォール』……って名前だったかな?


 でも、本来の『エア・ウォール』は、空気をガッチガチに固めて、名前の通りの強固なウォールを作る魔法のはず。こんなふうに、ふかふかのクッションみたいにするには、天才的な魔力コントロールが必要だわ。


 そんなことを思っていると、私を包んでいた柔らかな空気のクッションは、ゆったりと上昇し、私を優しく起こしてくれた。


 凄い。

 まるで人間の手で、丁寧に起こしてもらったみたい。

 なんて繊細な魔法のコントロール技術だろう。


 いったい、どこの大魔導師様が私を助けてくれたのかと、キョロキョロ周囲を見渡す。すると、遠くに人影が見えた。きっと、あの人影が、私を助けてくれた魔法使いに違いない。


 ますますもって凄い。

 あんな遠距離から、的確に難しい魔法を使って、人助けができるなんて。


 魔法の才能に乏しい私にとっては、まさに神業である。

 私は、今度こそ転ばないように、だけどなるべく急いで、遠くにいる人影へと近づき、お礼を言おうとした。


 だけど、途中で人影の正体に気がつき、踵を返して逃げ出した。

 何故かというと、その『人影』が、私の良く知る人物だったからだ。


「どうして逃げるんだい!? ミリアム!?」


『人影』は、心外そうな声を上げて、私を追いかけてきた。


 フゥッと、強い風が吹く。


 驚いて、ちょっとだけまばたきをすると、その、ほんの一瞬で、『人影』は私の前にいた。恐らく、風魔法の応用で空を飛び、先回りしたのだろう。


 私は走って逃げていたので、その『人影』の胸に、ぽふっと飛び込んでしまう。

『人影』は、嬉しそうに微笑み、私を抱きしめた。


「つかまえたよ、我が愛しい妹ミリアム。鬼ごっこをするなら、靴は替えた方がいい。また転んだら危ないからね」


 ……そう。

『人影』の正体は、私の兄であり、この国でも五本の指に入る魔法の天才、『カスティール・ローゼン』だったのです。


 カスティールお兄様は、私とよく似たふわふわの金髪をそよ風で揺らし、爽やかに微笑んで、これ以上ないほど優しい眼差しを向けてきた。


 読者の皆様の中には、実の兄に助けてもらったのに、お礼も言わずに逃げた私のことを、なんて薄情な奴だと思う方もおられるでしょう。


 違うのです。

 助けてもらったことは、とても感謝しているのです。

 でも、すぐに逃げなければならなかったのです。


 何故かと言うと……


「ぎゃー! お兄様! ストップ! ストップ!」


 カスティールお兄様は、私よりも20cm近く高い長身を折り曲げ、私に口づけを迫ってきた。……彼がキスの対象として狙い定めているのは、額や頬ではない、なんと、実の妹の唇である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ