表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/121

死の運命

 フランシーヌは、ふらふらしている私の肩を優しく叩き、力強く言う。


「まずはわたくしが、会社をある程度の形にします。それから、お姉様にも色々動いてもらって、ローゼン家の人脈を活用させてもらいますわ。何事も適材適所であり、ことを成すには機――つまりタイミングが重要。ですからお姉様はその『機』が来るまで、英気を養っていてくださいまし」


 商売の専門家にそう言われては、素人はもう、すっこむしかない。

 私は頷き、「それじゃ、よろしく頼むわね」と言ってから、部屋を出た。


 そして、クレメンザ邸を後にする。


 外に出ると、眩しい太陽が目に飛び込んできて、私は思わず手で光を遮った。


 季節は六月半ば。

 日本と違って梅雨のないこの世界では、今の時期でもかなり日差しが強い。


 帽子かサングラスでも持ってくればよかったかな。


 確か、昔テレビで、六月の紫外線は真夏に負けないくらい強いから、早めの対策が重要って言ってたもんね。まあ、ちょっと歩けばすぐうちに帰れるんだし、あんまり神経質になることもないか。


 そんなことを思いながら、私は石畳の上を歩いて行く。


 さて、まだ時刻はお昼前だ。職業安定所設立について、もっと長い話し合いになるかと覚悟してたのに、随分と時間が余ってしまった。


 ……これからどうしよう。


 とにもかくにも、フランシーヌを味方にすることには成功したのだし、あとはのんびり過ごしてもいいわけだが、ここ最近、ずっと忙しく過ごしてきたので、いきなり半日以上自由な時間ができると、何していいか分からないわね。


 その時、自分のお腹が、はしたなくも「くうぅ」と音を立てた。


 結構大きな音だったので、私は頬を染め、周りを確認する。

 よかった、誰もいない。


 それにしても、たいした運動もしてないのに、随分とお腹がすいている。


 あっ、そうか。

 フランシーヌに『異世界転生』について説明するのに、鈍い頭をフル回転させて、いつも以上のエネルギーを使ったからだ。


 よし。

 これからのことは、とりあえず屋敷に帰って、お昼ご飯を食べてから考えよう。


 そう決意すると、空腹にいてもたってもいられなくなった私は、小走りに石畳の上を駆けだした。


 だが、それが良くなかった。


 私はすっかり忘れていた。

 ハイヒールで石畳の上を走ると、もの凄く転びやすいことを。


「あっ!? おっ!? あっ!? ああぁぁぁーっ!?」


 ヒールの最下部――トップリフトが、石畳の溝にはまり、走り出した勢いそのままに足を取られ、私は思いっきりバランスを崩した。


 結果、正面からずっこけ、このままでは頑強な石畳に、顔面から突っ込むことになってしまう。


 やばい。

 これはやばいわよ。


 この勢いで地面と顔面が激突したら、恐らく――いや間違いなく前歯全損。

 それに、鼻の骨折も避けられないだろう。


 いや、それどころか、もしかしたら死んじゃうんじゃないの?


 そうだ、たぶんそれが、一番確率が高い。

 だって私、凄い勢いで転んじゃったんだもの。


 ああ。

 嘘でしょ。


 せっかく、少しずつ運命が良い方向に転がりだし、これからだっていうのに。


 やっぱり、ミリアムに課せられた死の運命からは、逃れられないのかしら。い、いや、今のは、私の不注意が全面的に悪いのかもしれないけど。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ