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特別な愛称

 そう言って、どこか熱っぽい瞳でこちらを見つめてくるフランシーヌ。


 その瞳には、なんていうか、純粋な好意とは違う、欲望のようなものが含まれていて、私はフランシーヌとは違う意味でゾクゾクッとし、少々顔を青くした。


 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、フランシーヌはぴったりと私に寄り添い、甘く囁く。


「お姉様も、わたくしのこと、本当の妹のように思ってくださってかまいませんことよ。……そうですわ! これからはわたくしのこと、『フラン』と愛称で呼んでくださいまし」


「えぇ……なんで?」


「なんでって、お互いに、他の人には呼ばせない特別な愛称で呼び合うって、とっても素敵で、ロマンチックじゃありませんこと?」


「そういうもんかな……」


「そういうもんですわ」


「うん、じゃあ、わかった……あなたの言う通りにするわ……」


「ちょっと、お姉様。そこは早速わたくしの愛称を呼び、『フランの言う通りにするわ』という場面ではありませんの?」


「はぁい……フランの言う通りにしますぅ……」


 もう反論するのもしんどくなってきた私は、フランシーヌの指示通りに言い直した。……な、なんか、凄く疲れた。でも、へばってる場合じゃないわ。これから職業安定所設立について、具体的な話をしないと。


 私は気を取り直し、愛称で呼ばれてご機嫌のフランシーヌに向き直る。


「さて、互いの呼び名も決まったことだし、本格的に職業安定所設立についての話に入りましょう」


「ああ、それについては、私の方で全部やっておきますから、お姉様はもうお帰りになって結構ですよ」


「はっ?」


 フランシーヌは事も無げに言ってから立ち上がり、パンパンと手を叩いた。


 すると、黒い服を着た使用人とおぼしき男たちが数名部屋に入って来て、フランシーヌは彼らにあれこれと指示を始める。やがて、黒服の使用人たちは頷き、きびきびとした動作で部屋を出て行った。


 呆気にとられる私を放っておいて、フランシーヌは自身の顎に手をやり、「これで土地と建物の確保はOK」と呟いてから、何かを思案している。


 ……もの凄く真剣な表情だ。

 それは私が初めて見る、フランシーヌの『商人』としての顔だった。


 フランシーヌは、職業安定所設立について、細かいことは何も考えていなかった私とは違い、己の知識と経験を総動員させて、具体的な実効策を考えているのだろう。


 なんとなく声をかけるのがためらわれ、私はちょこんとソファに座ったまま、フランシーヌの顔をぼぉっと眺めていた。すると、私がまだ部屋の中にいることに気がついたのか、フランシーヌは少々呆れたように言う。


「お姉様、何をしていますの? もう帰ってもいいって、先ほど言ったじゃないですか」

「い、いや、でも、私も共同経営者なんだし、何かお手伝いを……」


 言ってから、ド素人の私に何の手伝いができるというのかと思ったが、フランシーヌは私を馬鹿にすることなく、たおやかに微笑んだ。


「そのお気持ちだけで充分ですわ。まずは土地建物の確保、最低限度の従業員の選定、それから役所に対する会社設立登記を済ませなければなりませんから、まだお姉様のお手を借りる段階ではありません」

「そ、そうなの……」


 手を借りる段階どころか、私の能力では手を貸しようがない。


 もうちんぷんかんぷんだ。

 そもそも、登記っていうのが、よくわかんないし。

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― 新着の感想 ―
[一言] 賢くて、少し腹黒のドS妹さんがゲットだぜ! しかし今回はどちらと言うと、仲良く成った事より、本来のミリアムさんが可哀想だと思う気持ちの方が強いですね。。。 なお、フランさんが全部引き受けまし…
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