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ミリアムの孤独

 フランシーヌの述べた、『あの傲慢女を好きな人なんて、この世にいますの?』という台詞を思い出すと、取り巻きにすら好かれていなかったミリアムの孤独を身にしみて感じ、どういうわけか、瞳にはうっすらと涙がにじんだ。


 ああ……

 そうか……


 わかった。

 私、ミリアムに同情してるんだ。


 悪役令嬢として、ゲームプレイヤーはもちろん、この都に住む皆に嫌われる運命を背負って生き、誰とも愛情や友情を築けずに、『私』という人格に上書きされて消えてしまった哀れな少女を、かわいそうだと思っているのね……


 私は、今頭に浮かんだばかりの想いを、簡潔な言葉にして、口から出した。


「そんなにミリアムのことを悪く言ったら、あの子がかわいそう……」


 言い終えた途端に、目尻から涙がこぼれた。


 自分でも、意外だった。

 今だって別に、ミリアムのことが好きになったわけではない。

 それでも、あふれる涙を止めることができなかった。


 突然泣き出した私を、フランシーヌは困惑半分、呆れ半分といった感じで見ていたが、彼女は再び私の隣に座ると、スッと距離を詰め、ハンカチで涙を拭ってくれた。


 それから、苦笑して言う。


「あなた、泣き虫ですのね。本来のミリアム様とは大違いですわ」

「い、いつもはこんなふうに、泣いたりしないわ。あなたがたくさん酷いことを言うから……」

「あら、わたくしのせいですの? すぐ人のせいにするところは、ミリアム様に似ていますわね」


 フランシーヌはクスクスと笑ってから、言葉を続ける。


「わたくし、先程散々ミリアム様のことを悪く言いましたけど、一つだけ、優れていると認めるところがありましたわ」

「えっ、それ、どんなところ?」


 私が聞き返すと、フランシーヌはこちらに手を伸ばしてきた。

 それから、人差し指と親指で私の顎を挟み、クイッと持ち上げながら言う。


「この美貌ですわ。ふわふわの金髪に、透き通った青い瞳。端正な顔立ちは、まるで絵画のよう。背も高く、スタイル抜群。……このルックスで、心根の優しい人だったなら、きっと好きになれただろうなって、いつも思っていましたわ」


 確かに、ミリアムは外見だけなら、まさに『理想の公爵令嬢』である。

 まあ、そのたぐいまれなる美貌が、ミリアムを増長させる一因でもあったのだろうけど……


 フランシーヌは、私の顎に当てていた指を上方に滑らし、頬を撫でるようにしながら話を続ける。


「このすべすべで柔らかいお肌……いったいどういうお手入れをしたら、こんなふうになれるのかしら? あなた、毎日どんなスキンケアをしていますの?」


「スキンケアって言われても、私、別に変わったことはしてないわ。肌のためにしてることなんて、ゆっくりお風呂に入ってから、ぐっすり寝てるだけよ」


「ふうん、そうですの。やっぱり、生まれが違うと、お肌も違うということかしら。それにしても、本当に綺麗な頬……食べちゃいたいくらいですわ……」


 そう言うとフランシーヌは、ぺろりと舌なめずりをした。

 まるで、獰猛な肉食獣が、獲物を前にしたような顔。


 私は急に、フランシーヌのことが怖くなり、首をねじって彼女の手から顔を離そうとする。

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