だいたいのことはわかりましたわ
私は思わず、ビクリと肩をすくめた。
反論する間もなく、フランシーヌは言葉を続ける。
「本当のことを言うと、最初に小さく頭を下げた時点で、おかしいとは思っていましたの。『いつものミリアム様』なら、たとえ死に際であっても、わたくし程度のものに頭を下げて頼みごとをしたりしませんもの。それが、二度も頭を垂れたんですのよ? こんなの、あなたが本物のミリアム様であったなら、絶対にありえないことですわ」
参ったわね。
この子、本当に鋭いわ。
私はポツリと、「そうね」とだけ言った。
「あなたいったい、何者ですの? そのお顔も、声も、完全にミリアム様に瓜二つですけど、双子の姉妹……あるいは、魔法か何かで変化しているのかしら?」
こうなっては仕方ない。
変に作り話をするより、私が別の世界からの『転生者』であることを、正直に語った方がいいだろう。……信じてもらえるかは分からないけど。
私は「ふぅ」とため息を漏らし、それから、自分の持てる全ての智識を動員して、『異世界転生』と、私が『転生者』であることについて説明した。
フランシーヌは腕を組み、しばしば「へえ」「ふうん」と相槌を打ちながら、私の話を聞き続けた。そして、やっとのことで説明が終わると、鈍い頭をフル回転させて使用したせいで、私はヘトヘトになってしまった。
う、運動をしていなくても、頭をフルに使うと、呼吸って荒くなるものなのね。
私は肩で息をしながら、額の汗を拭い、フランシーヌに問いかけた。
「……ど、どう? 今の私の説明で、『異世界転生』について理解してくれた?」
「ええ、まあ。要領を得ない説明で、少々難解ではありましたが、だいたいのことはわかりましたわ」
ハデハデな真っ黄色の縦ロールヘアーを指で弄びながら、フランシーヌは言葉を続ける。
「つまり、『本来のミリアム様』の人格は消滅し、今は『あなたという別人の人格』が上書きされ、あなたは破滅の運命から逃れるために、善行を積んで、皆に愛される人物になりたい……とまあ、そういうことなのでしょう?」
私は、大きな安堵のため息を吐いた。
凄い。
フランシーヌは『だいたいのことはわかりました』どころか、現状を100パーセント完璧に理解している。……私の説明は、自分で言うのもなんだけど、稚拙で、とてつもなく分かりにくいものだったというのに。
この子、本当に頭がいいのね。
いや、単に頭がいいだけではなく、奇想天外な出来事を素直に受け入れることができる、柔軟な思考をしている。
素直に感心していると、フランシーヌは突然うつむき、小さな肩を震わせた。
……本来のミリアムの人格が、実質上死んでしまったようなものだと知って、ショックを受けているのだろうか?
そうよね。
このフランシーヌは、ミリアムのお気に入りだったし、妹分と言ってもいいだろう。それなりに付き合いも長いわけだから、ショックを受けて当然よね。
私は、フランシーヌを慰めるため、何か声をかけようとし、唇を開いた。
しかし、私の口から出た言葉は、打ち消された。
フランシーヌの大笑いによって。
「あはっ、あははっ! あーはっはっはっはっは! そっか、そっかぁー! あのクソ女の人格! 本当にこの世界から消え果てちまったんですのね! あはぁっ! さいっこう! こんなに笑えること、そうそうありませんわ! ざまぁないですわね! あーはっはっはっはっはっはっは!」