表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/121

商売のスペシャリスト

 ふぐぐ……この毒舌メイドめ。

 最近は、前に比べてすっかり優しくなったけど、時々こうして私をいじめて楽しむのよね。


 ヒルデガードはコホンと咳ばらいをし、襟を正すと、話を元に戻す。


「とにかく、本気で職業安定所設立を考えておられるなら、誰か、商売に詳しい方をブレーンにしなければならないでしょう。何より、役所に対して登記等もしなければいけませんから、専門知識を持つ人は不可欠です」

「な、なるほどね。確かに、高い専門知識を持つ有能なパートナーは絶対に必要だわ。でも、そんな人、私の知り合いにいたかしら……」


 腕を組み、うんうんと唸っていると、ヒルデガードが事も無げに言う。


「何をそんなに悩む必要があるのですか? いるじゃないですか、一人。商売のスペシャリストが」


「えっ、誰? 私、そんな凄い人、知らないけど……」


「ほら、あの方ですよ、ミリアム様の取り巻きの一人の、えっと……名前、なんでしたっけ? 成り上がりの商人の娘で、成金なりきん丸出しの、馬鹿みたいな縦ロールの髪型をした……」


「ああ、フランシーヌのことね。……馬鹿みたいな縦ロールって、あなた、ほんとに口が悪いわね……」


 フランシーヌとは、ヒルデガードがいま述べた通り、ミリアムの取り巻きの一人であり、乙女ゲーム『聖王国の幻想曲ファンタジア』本編でも、事あるごとにミリアムをヨイショするために現れるので、割と記憶に残るサブキャラクターである。


「そうそう、フランシーヌ様でした。あの方はミリアム様の犬同然ですから、一声ひとこえかければ、会社設立くらい、すぐに手伝ってくれると思いますよ。それこそ、忠犬気取りでね」


 犬同然って。

 忠犬気取りって。

 そこまで言うか。


 ヒルデガードの言葉には、隠すつもりもない敵意を感じる。


 まあ、無理もないか。

 ミリアムが増長した原因の一つが、取り巻きたちの過剰なヨイショだものね。


 ミリアムにきちんとした教育をしようと努力していたヒルデガードからすれば、取り巻きのリーダー格であるフランシーヌは、まさに目の上のたんこぶであったことだろう。


 フランシーヌの話をしているうちにイライラしてきたのか、ムスッとした様子のヒルデガードに苦笑しながら、私は言う。


「でも、商売のスペシャリストは、フランシーヌのお父さんであって、フランシーヌは別に、頭がいいってわけでもないんじゃないの? だってあの子、パズルでも、チェスでも、一度も私に勝ったことないのよ? まあ、そこそこ良い勝負になったこともあるけど、最終的には私の完全勝利で、いつも『ミリアム様にはかないませんわ~』って言うし」


 ヒルデガードの整った鼻から、ほんの少し、呼気が漏れた。

 それは、「ふん」と笑ったようにも、「ふう」と嘆いているようにも聞こえる、ささやかな吐息だった。


「あれは、わざとですよ」


「わざと?」


「何年か前に、一度、ミリアム様とフランシーヌ様がチェスをしているところを拝見しましたが、フランシーヌ様は完全に盤上の状況を把握していました。そして、適度に良い勝負を演じ、最後もごく自然な流れで負けることで、ミリアム様を良い気分にさせ、ご機嫌を取ろうとしたのです」


「そ、そんなぁ~! いくら私だって、相手がわざと手を抜いたら、すぐにわかるわよ! 適度に良い勝負を演じるなんて、できるわけないじゃない!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ミリアムさん、予想以上に凄く天然ですね!萌えますw でも貴族令嬢としては大丈夫でしょうか心配かも?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ