新しい夜明け
やれやれ。
私、眠りは深いタイプだから、普段はこんな時間に目が覚めることはないんだけどなあ。変な夢を見ちゃったせいで、早く起きすぎちゃった。
完全に目が冴えてしまったし、二度寝はできそうにない。
私はため息をつき、両側から私にしがみつくようにして、穏やかな寝息を立てているフェリスとエッダを見る。
ふふっ、二人とも、可愛い寝顔ですこと。
……夢の中の二人のウェディングドレス姿、綺麗だったな。
ヒルデガードのウェディングドレス姿も、バッチリ決まってて、流石だった。
そんなことを思っていると、カーテンの隙間から、淡い朝日が差し込んでくる。
夜明けだ。
私は改めて、先ほど見たばかりの夢について、考えてみた。
まあ、変な夢といえば、変な夢なんだけど、同じ『婚約破棄』でも、ゲーム内でミリアムが辿る末路のように、悲惨な目に遭って死ぬのに比べたら、可愛くて優しい女の子たちに囲まれて幸せに暮らせるって、まるで天国みたいな話よね。
もしかしてさっきの、このままの生活を続けていると、いずれそうなるっていう暗示――正夢だったりして。
……
…………
………………まっ、それもいいか。
もともと、破滅の運命を回避したくて、色々頑張ってたんだしね。
私は、フェリスとエッダの柔らかい髪を、左手と右手で静かに撫でる。
泣きたくなるくらい、心地よい感触。
二人を起こさないように、私は呟いた。
「それじゃ今日も、皆に愛される公爵令嬢になるために、一日頑張りますかね」
窓から見えるお日様は、しだいしだいに高く上がっていき、眩しいほどに輝いていた。
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それから、瞬く間に一週間が過ぎた。
フェリスは今、比較的治安の良い地域に下宿先を見つけ、一人暮らしをしている。
私としては、フェリスにずっと、うちの屋敷に住んでもらっても構わなかったのだが、自立心の強いフェリス自身が『流石にそこまでお世話になるわけにはいかない』と言うので、彼女の気持ちを尊重することにした。
そして、私は今も『犬のしっぽ亭』で働き続けている。
……『犬のしっぽ亭』から貰えるお給料では、ヒルデガードの給金を支払うことができないことがハッキリ分かった以上、すぐにでも別の金策を考えたほうが賢明であり、いつまでもここで働き続けるべきではないのかもしれない。
しかし、これまで、店長さんにもおかみさんにも随分と良くしてもらったし、自分の目的に合致しなくなったからと言って、すぐに『ハイさよなら』と店を去るのは、あまりにも不人情だ。せめて段階を踏んで辞めるのが、正しい社会人の在り方だろう。
だから私は、『あと一ヶ月ほどしたら店を辞める』ということを、あらかじめ店長さんに伝え、今日もこうして、酔っ払いの皆様を相手に給仕を続けているというわけである。
フェリスもこの一週間で、そつなく仕事をこなせるようになったので、もう少しすれば、充分彼女一人でもやっていけるようになるだろう。その頃になったら、正式に店を辞めて、また新しい金策を考えるとしよう。
さて、現在時刻、夜の9時30分。
『犬のしっぽ亭』の、ラストオーダーの時間だ。
私は声を張り上げ、まだ店に残っているお客さんに通達をする。
「ここでオーダーストップでーす」
ふう。
今日も疲れたわ。
でも、フェリスがいてくれるおかげで、前よりはずっと楽だ。
活動報告にも書きましたが、感想にてご指摘があり、サブタイトル「~生き残るためなら逆ハーレムもありですわ~」を「~生き残るためなら百合ハーレムもありですわ~」に変更しました。