奇妙な夢
こりゃ、今日はいい夢が見れそうね。
ふぁ~あ……疲れのせいか、少し目を閉じてるだけで、すぐに眠気が襲ってきたわ……
それじゃ二人とも、おやすみなさい……
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その夜私は、奇妙な夢を見た。
場面は、乙女ゲーム『聖王国の幻想曲』のクライマックス。
今まさに、ミリアムの婚約者である『聖騎士アルバート』様が、屋敷にて『婚約破棄』を言い渡すシーンだ。何度もゲームをプレイした私は、この場面で発せられる台詞を、ただの一文字だって間違えずに暗記している。
ストーリーがググっと急展開していくからワクワクして、何より、傲岸不遜、悪辣極まるミリアムに対し、誠実で心優しいアルバート様が、とうとう怒りをあらわにするところがたまんないのよねー。ほんと、何度見ても飽きないわ。
目の前で名シーンが見られる期待と興奮から、ウキウキの笑顔ではしゃいでいる私に対して、アルバート様は真剣な瞳で言い放った。
「公爵令嬢ミリアム・ローゼン、きみとの婚約を破棄させてもらう!」
はぅっ!?
そ、そうだった。
はしゃいでる場合じゃなかった。
今は私がミリアムなんだから、アルバート様の怒りの矛先は、私に向けられてるんだったわ。
はあぁ……まさか、私自身がミリアムとなって、アルバート様に婚約破棄を言い渡される日が来るなんてね……まあ、これ、ただの夢だから、別にいいんだけどさぁ……
いや、よくない。
全然よくない。
たとえ夢でも、アルバート様に嫌われるなんて耐えられない。
私は、彼の長い足に縋り付くようにして、涙ながらに理由を尋ねた。
「どうして!? どうしてなの、アルバート様!? いったい私の、何が気に入らないの!?」
そんなもん、すべてに決まっとるやろがい。
と思ったが、アルバート様は優しい笑みを浮かべ、静かに首を左右に振った。
「僕は、きみのことを嫌ってなどいないよ。むしろ、好いているし、きみには幸せになってほしいと思う。婚約を破棄するのは、きみのためなんだ」
……何、この台詞。
ゲーム本編では、どんな選択肢を選んでも、あり得ない台詞だ。
通算何十時間もプレイした私が言うんだから間違いない。
「私の……ため?」
「そうだよ。だって、きみには素敵なフィアンセが、こんなにたくさんいるじゃないか。彼女たちと契りを結び、共に生きていくことこそが、きみにとって一番の幸せになると、僕は信じている」
そう言ってアルバート様は、私の背後を指さした。
そこにいたのは、よく見知った乙女たち。
ウェディングドレスを着たフェリス。
同じく、ウェディングドレスを着たエッダ。
なんと、ウェディングドレスを着たヒルデガードまでいる。
えっ、ちょっ、なにっ?
まさか、彼女たちと、結婚しろってこと?
た、確かにこの国では、同性婚は禁止されてないけど……いや、でも、重婚は流石に駄目じゃなかったっけ?
いやいやいや、そんなこと言ってる場合じゃない。
何にしたって、唐突すぎるでしょ!?
「こんなの、おかしくない!?」
そう叫んだとき、私は夢の世界から、現実に帰還していた。
興奮にやや荒くなった息を落ち着けて、時計を見る。
現在、深夜(いや、もう早朝と言うべきか)5時15分……時刻的には、もうそろそろ夜明けだ。