今までにない想い
瞳を閉じ、しばらく今日あったことを反芻していると、私以外、誰もベッドに入ってこないことに気がつき、瞼を開く。
フェリスは立ち尽くしたまま、『自分はこれからどうすればいいのだろう』と言うように、キョロキョロとあちこちを見渡していた。
「何してるの、フェリス? 寝ましょうよ。ほら、ベッドにどうぞ」
そこで初めて、自分が私と同じベッドに誘われていることに思い至ったのか、フェリスの顔がボッと赤くなった。
「ま、まさか、ミリアムと同じベッドで寝るの? どうして?」
「どうしてって……この部屋、他にベッドないし……」
「じゃ、じゃあ私、床で寝る……わぁ……なんてピカピカで、素敵な床……こんな床で寝れるなんて嬉しい……」
蚊の鳴くような声でそう言うと、床に寝そべろうとするフェリス。
私は慌ててベッドから起き上がり、彼女の腕を引いた。
「いやいやいや、大事なお客様を床で寝かせるわけにはいかないでしょ! ほら、照れてないでこっちにおいでったら」
そのまま、フェリスの小柄な体をベッドの中へと連れ込んだ。
気がつけば、私の体でフェリスを受け止めるような形になり、ほとんど抱き合っているのと同じ状態である。
自分の手の中にフェリスの温もりと柔らかさを感じ、彼女の髪の香りが、鼻腔を満たしていく。どこかぽぉっとした気持ちで、私はフェリスの瞳を見つめた。
フェリスは私の視線を受け、弱々しく目を逸らす。
その仕草が可愛くて、胸の奥で、今までにない想いが芽生えたような感じがした私は、フェリスに何かを囁こうとする。
だがその時、強い視線が、チクチクと後頭部に突き刺さっていることに気がついた。
気になって、振り返る。
視線の主は、エッダだった。
彼女は、何やら複雑そうな顔で、私とフェリスが抱き合う姿を見ていた。
エッダはいつも、私が眠るまで、直立不動でベッドの脇に控えている。
当然ながら、普段はもっと落ち着いた表情をしており、こんなふうに、明らかに感情が揺れている様子を見せることはない。
……もしかしてこの子も、私のふかふかベッドで眠りたいのかしら?
そりゃそうよね。
いつもは、部屋の隅に設置した寝袋で寝てるんだから。
せっかくだ、今日は三人で寝よう。
スペースは充分あるしね。
「ねえ、エッダ。あなたもいらっしゃいよ。たまには一緒に寝ましょう?」
私の誘いに対し、エッダはもの凄い勢いで、首を左右に振った。
「そ、そ、そ、そのようなこと、とんでもないですっ! 私ごときが、ミリアム様と寝所を共にするなんて、命令されない限りは、あってはならないことです!」
あ、ふーん。
そうなの。
『命令されない限り』は、駄目なんだ。
じゃあ、命令しちゃお。
いいよね。正式な意味でのエッダの『主人』はお父様だけど、一応私も、エッダの『ご主人様』であることには違いないし。
「そっかー、じゃあ今晩は、私と一緒に寝なさい。これ、命令だから、逆らっちゃ嫌よ♪」
悪戯っぽくそう言うと、エッダは「あうう……」と唸ってから、先程のフェリスそっくりに、赤面して頷いた。
かくして、ベッドの上。
私はフェリスとエッダに左右からサンドイッチにされる形になった。
ふむむ。
寝所にて美少女に挟まれるこの感覚。
思ったより悪くない。