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敬語はもうおしまい

 自分で言ってから、小さな子供同士じゃあるまいし、『出会って一日で友達』っていうのも、ちょっと馴れ馴れしいかなとも思ったが、人と人が友達になることに、正式な条件などない。何年近くにいても心を許せない相手もいれば、ほんの数分話しただけで絆を感じる相手だっている。友情って、そういうもんだろう。


 フェリスも、私の言葉に特に異存はないようで、黙って話を聞いてくれている。その沈黙を友情の肯定だと判断した私は、話を続ける。


「それでね、私、思うんだけど、友達同士ってね、助けてもらったからって、かしこまって、何度も頭を下げたりしないもんだと思うのよ。だって、友達を助けるのって、当たり前のことじゃない? だから、えっと、つまり何が言いたいのかっていうとね、あんまり私に対して、ペコペコしないでいいってことなのよ」


 そんな私の持論に対し、フェリスは一度だけ「でも……」と言いかけたが、すぐに口をつぐんだ。……たとえ純粋な謝意であっても、私が『もういい』と言っている以上、何度も主張することは、むしろ無礼であると気がついたのだろう。賢い子ね、本当に。


 少し硬くなってしまった空気を和らげるために、私は努めて笑顔を作った。


「あはは、で、その、せっかくだし、私のことを『さん』づけで呼んだり、敬語を使うのも、そろそろやめてほしいのよね。だって、私たち同い年なんだしさ。私も、フェリスちゃんに『ちゃん』をつけるのやめるから、あなたも私のこと、『ミリアム』って呼び捨てにしてくれると、嬉しいかなーって……あっ、でも、町では『ミリア』って呼んでね」


 フェリスは、もう『でも……』とは言わなかった。

 瞳を閉じ、しばらく沈黙した後、恥ずかしそうにはにかんで、たどたどしく言葉を紡いでいく。


「じゃ、じゃあ、えっと、ミ、ミリアム……今日は色々、ありがとう。これからも、私と仲良くしてくれる……?」


 言い切ってから、ますます赤くなるフェリスの頬。

 敬語をやめ、私の本名を呼び捨てにしたという事実を、自分の口から出た言葉が音となって耳に届いたことで、強く意識してしまったのだろう。


 それにつられて、なんだか私も恥ずかしくなり、鏡を見なくても、自分の頬が赤くなるのが分かった。照れくさい気持ちをごまかすように、今までで一番力強い調子で、私は言う。


「もちろんよ。これからもよろしくね、フェリス」


 それから私とフェリスは、赤い顔でお互いを見合わせて、面映ゆさから、くすくすと笑った。開かれた窓から吹き込んでくる五月の風が、火照った頬を軽く撫で、とても心地よかった。



 そんなこんなで、いつのまにか時間は、午後11時45分である。

 このままでは日付が変わってしまう。


 夜は眠りの時間だ。

 いつまでも起きているとお肌に悪いし、すみやかに就寝しないと。


 私はにこやかに微笑んで、フェリスに声をかける。


「さて、睡眠不足は乙女の大敵だし、もう寝ましょうか」


 言葉のすべてを言い切らないうちから、私はバスローブの襟元を緩めて、ふかふかのベッドに横たわった。高級ベッド独特の柔らかなスプリングが、小さな音を立てて、私の体重を優しく受け止めてくれる。


 はぁ……今日は本当に疲れたなぁ……

 でも、充実した一日だった。

 フェリスと仲良くなれたし、ヒルデガードの本当の気持ちを知ることもできたしね。

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