一級品の洗体
エッダは、しなやかな手にボディーソープをまぶし、風呂椅子に座った私の背中を、丁寧に擦りあげた。彼女の洗体は、さながらマッサージのようでもあり、長い立ち仕事で疲れた腰回りが、ゆったりと揉みほぐされていく。
「はうぅ……そこそこ、いい感じ……あっ、そこ、もっと下……」
「もっと下と申されますと……この辺りでしょうか?」
「ぅん……そこそこ、あ~、気持ちいい……あふうぅぅ……」
心地よさに、自然と呆けた声が出る。
私の反応が嬉しいのか、エッダが小さく微笑んだのが、後ろを見なくても、首筋にかかる吐息でわかった。
それにしても、見事なマッサージだ。
ほとんど指示をしなくても、エッダはするすると手を滑らし、見事に私の揉んでほしいところを刺激してくる。
私は甘い吐息を漏らしながら、素直な称賛の言葉を贈った。
「やっぱりエッダのマッサージは一級品ね。たとえメイドを辞めても、マッサージ師として一生食べていけるわよ」
そこでピタリとエッダの手が止まった。
どうしたのかしら?
と思っていると、突然、背中に柔らかな感触。
……どうやら、エッダが抱きついてきたらしい。
かつて、あの盗賊たちにも褒められた、小柄な割に豊満なエッダの体。
その柔らかさと温もりに、少々ドキドキしながら、私は上ずった声で問う。
「あ、あの、エッダさん……? どうかした……?」
後ろから抱きつかれているのに『どうかした?』というのも間抜けな問いだが、他にどう尋ねればいいというのか。
しばらくして、エッダは囀るように、か細い声を漏らした。
「『メイドを辞めても』なんて、例え冗談でも、おっしゃらないでください……私は、生涯ミリアム様のおそばで、メイドとしてお仕えしたいと思っています……」
あー……そういうこと。
それほど深く考えずに、誉め言葉のつもりで使った『メイドを辞めても』というフレーズが、随分とエッダの気持ちを揺すってしまったようだ。
……そうよね。
私のために、一生懸命尽くしてくれているエッダに対して、たとえ、褒めるための言い回しであったとしても、使うべき言葉ではなかったわね。
今更ながら、自分のデリカシーの無さを恥じ入るばかりである。
私は、腰のあたりに回されたエッダの手に自分の手を重ねて、囁いた。
「ごめんなさい、エッダ。私、あなたを傷つけようと思って言ったわけじゃ……」
「もちろん、承知しております。私の方こそ、メイドとしての立場もわきまえず、ミリアム様に指図するような口をきいてしまい、申し訳ありません……」
エッダはそこで、一度言葉を切り、私の首筋に顔を埋めるようにしながら、話を続ける。彼女の吐息がうなじをくすぐり、なんともこそばゆい。
「でも、自分がミリアム様のおそばを離れることを想像したら、とても悲しくて、寂しい気持ちになり、言葉を抑えられなかったのです……どうか、どうか、お許しください……」
「い、いや、許すも許さないも、全然怒ってないから……」
そこで、すぅ、すぅと、何かを吸うような音が聞こえた。
数秒して、エッダが、私の首筋の匂いを嗅いでいるのだと気が付き、一瞬で顔が赤くなる。
こ、これは恥ずかしいっ。
もの凄く恥ずかしい……