四六時中おそばに
ま、まあいいわ。
エッダにならバレても、別に問題ないし。
せめて他の使用人たちには見つからないように、私はエッダとフェリスを抱き寄せるようにして『大浴場』の脱衣場に駆けこむと、エッダに、フェリスを連れてきた経緯を説明した。
「なるほど、そういうことでしたか。さすがはミリアム様……なんてお優しい……その慈悲深さ、まるで古の伝説に登場する女神様のようです……」
うっとりとした、夢見るような瞳でそう言うエッダ。
……一ヶ月前の誘拐未遂騒動以来、この子はすっかり、ミリアムの信奉者になっていた。まあ、私を好いてくれるのは嬉しいし、大変ありがたいことなのだが、最近は、その『好意』が少々行き過ぎているのではないかと思うことも多々ある。
どう行き過ぎているのか具体的に申しますと、近頃のエッダは、私が屋敷の中にいる時は、四六時中そばを離れないのだ。
そこのあなた。
『公爵令嬢おつきのメイドが、四六時中そばに控えているのは当たり前なのでは?』と思ったことでしょう。
私が今言った『四六時中』には、入浴中、睡眠中、そしてあろうことか、トイレの最中も含まれているのです。
入浴中は、まあいいのよ。
ミリアムの長い髪を一人で洗うのは一苦労だから、器用なエッダに手伝ってもらうと助かるしね。
睡眠中も、まあいいのよ。
夜中に目を覚ましたら、薄暗闇の中、ベッドのそばに立ち尽くしたままのエッダが『じぃっ』とこっちを見てて、死ぬほどビックリしたこともあるけど、そんなことは、大したことではない。
問題はトイレの最中よ。
エッダはね、私が用を足す際、『警護をします』と言って、同じ個室に入ってくるの。どうやら、盗賊に襲われた時、守られるばかりであったことを非常に気にしているようであり、次に何かあったときは、『命に代えてもミリアム様をお守りします』と息巻いているのである。
一応、することをしている最中は、むこうを向いていてくれるのだが、ほら、同じ個室内だから、その、音とか、匂いとか……ねえ、あるじゃないの。いくら同性とはいえ、これはねえ、ちょっとねえ……
しかし、私を警護するために、最近では剣術まで習いだし、日々血の滲むような特訓をしているエッダに、『トイレくらい一人でやらせてくんない?』とはとても言えず、今日にいたるというわけである。
さて、話を現在に戻そう。
エッダは私の服を脱がせながら、ホッとしたように言う。
「今日はローゼン公爵閣下が公務の為に出張しておられますから、ようございましたね。そうでなければ、エントランスで鉢合わせになってもおかしくありませんでした」
ブラウスがなくなり、スカートも下ろされ、下着にも手をかけようとしたエッダに対し、私は「下着は自分で脱ぐわ」と言うと、自分でブラジャーを外しながら、言葉を続ける。
「ふふふ、私も見た目ほど馬鹿じゃないのよエッダ。今日はお父様がいないって知ってるから、安心してフェリスを正面から屋敷に入れたのよ。なんせ、お父様の『平民嫌い』は筋金入りだものね。いや、ほんとに、最初に出迎えてくれたのがエッダで良かったわ。他の使用人にフェリスが見つかってたら、お父様に告げ口されてたかもしれないもの」