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エッダの忠誠心

 もちろん、いずれは言わなければならない日が来るだろう。


 それも恐らくは、そう遠くない未来に。

 だからそれまでの短い間くらいは、ね。

 フェリスにとっての、素敵な人でいさせてほしいって思っても、いいよね。


 そんなわけで、私とフェリスは正門からローゼン公爵邸に入る。

 門番が屋敷のドアを開け、邸内でまず出迎えてくれたのは、あの赤毛のメイド、エッダだった。


 私専用に仕えている三人のメイド、『ドリー、セラ、エッダ』の中で、もともとエッダはリーダー格だったのだが、一ヶ月前の誘拐未遂騒動以降は、完全に私につきっきりとなり、他の二人の分もお世話をするというので、ドリーとセラは配置転換となり、お兄様のメイドとなった。


 エッダはメイド服のスカートをちょこんと持ち上げ、恭しく礼をする。


「ミリアム様、本日も遅くまで、お疲れさまでした。お風呂にいたしますか? それとも、先にお夜食を召し上がりますか?」


 夏に咲く花のような笑顔で、新妻みたいなことを言うエッダ。

 彼女は、『メイド長』ヒルデガードが私に出した再雇用の条件を知っているので、私が町で働きやすいように、陰に日向にと、いつもサポートしてくれているのである。


 ……エッダは私専用のメイドではあるが、結局のところ、ローゼン家から給金を貰っている立場なので、直接的な主人は、ローゼン公爵――私のお父様ということになる。


 そのため、私の行動をお父様に報告する義務があるのだが、私が下町の酒場で働いていることがお父様に知られてしまったら色々と大変なので、エッダには嘘の報告をしてもらっている(ちなみに、私は朝から晩まで、高名な講師の住む遠く離れた町で、ピアノとバイオリンとバレエのお稽古をしていることになっている)。


 エッダがお父様に嘘の報告をしてくれているおかげで、私は気兼ねなく一日中、『犬のしっぽ亭』で働くことができるのだ。


 正直者のエッダのことだ。私のためとはいえ、主人に嘘をついたりするのは、きっと嫌だろう。それでも、お父様より私を優先してくれる彼女の忠誠心には、本当に頭が下がる思いである。


 私はエッダに笑顔を返し、『今日もクタクタよ』とでも言うように、大げさに肩をすくめるジェスチャーをした。


「ただいま、エッダ。まず、お風呂に入るわ。ゆっくりと湯船につかって、一日の疲れを流さないとね」

「かしこまりました。それでは、大浴場に参りましょう」


 エッダに先導され、私とフェリスは屋敷の西側にある大浴場に向かう。


 さて、ここで、私と共に屋敷に入って来たフェリスに、エッダがなんの反応もしないのを、不思議に思われる方もいらっしゃるでしょう。


 それも当然なのです。

 私の長身で、フェリスの小柄な体を隠すように移動してるからね。


 色々と理由があって、この屋敷に『平民』のフェリスを入れるのは、ちょっとまずいのよ。でもこれなら、四方八方から人が来ない限りは、誰にも見つからずに屋敷内を進めるはず。


 フェリスは私の行動の意味については分かっていないようだったが、私がフェリスの体を隠そうとしていることにはすぐ気づいたらしく、身を屈めて、私にあわせてくれていた。


 そして、粛々と長い廊下を進み、大浴場まであと10メートルほどとなったところで、エッダが口を開いた。


「……あの、ミリアム様。先ほどから、お尋ねしようと思っていたのですが、そちらのお客様は?」


 私は、ずっこけた。

 奮闘むなしく、どうやら最初から、フェリスのことはバレていたらしい。

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