二人の私
そもそも、私がいったい、フェリスの何を知っているというのだろう。
ゲーム自体は相当やり込んだが、選択肢を決めるのはプレーヤーである私自身だったし、何よりゲーム本編では、フェリスのバックグラウンドはあまり語られないのだ。まあ、ゲーム内のフェリスは、いわばプレーヤーの分身なわけだから、あえて深く描写をしていないのだろうが……
もしかしてこの子、男女問わず、優しくされたら、一気に好きになっちゃうタイプなのかしら?
こ、困った。
私だってフェリスは好きだが、それは、その、恋愛感情とかではなく、もっと純粋なる好意なわけで……いやいや、恋愛感情が純粋じゃないとか、そういうことを言っているんじゃないですよ? ただ、一般的なものの考え方として……
頭の中で、くどくどと言い訳めいたことを考えているうちに、フェリスは閉じていた瞼を開いた。私がいつまでたっても何もしないので、不安になったのだろう。
彼女の大きな瞳は、自身の好意を拒絶された寂しさと悲しみで、先程以上に潤んでいた。
あうぅ……
そんな目で見ないで……
やばいよ。
これはかなりやばい。
このまま二人の体が離れてしまったら、フェリスは気まずい思いから、さっきのいかがわしい宿に戻ってしまうかもしれない。なんのツテもないのに、いきなり都に出てきた行動力からもわかるように、この子、けっこうヤケクソになるところ、あるのよね。
どうする。
どうする。
どうしよう~!
誰か答えを教えて~!
私の願いに応えるように、頭の中に二人の私が現れた。
白い服と黒い服を着た、私そっくりの小人さんだ。
白い服を着た私が、耳障りな甲高い声で叫ぶ。
『キスくらいしてあげればいいでしょ! 減るもんじゃあるまいし!』
次に、黒い服を着た私が、アラームのような声で、ピーピーと喚く。
『減るとか減らないとか、そんな問題じゃない! 女同士でキスなんておかしいでしょ!』
黒い服の私に言葉に、白い服の私は激昂し、飛びかかった。
『てんめぇー! 同性愛を否定すんのかぁー!? それはヘイトスピーチよ! 魂の殺人よ! ぶっころしてやる!!』
白い服の私に馬乗りになられたが、黒い服の私も負けてはおらず、下からパンチで応戦している。
『んだとコラアアアァー! やんのかオラアアアァー!! 返り討ちにしたらあああぁー!!!』
ああ、うるさい。
私は、何の役にも立たない二人の私を、頭の中から消した。
その後、三秒間だけ悩み、私は結局、折衷案を採用することにした。
私はフェリスの体を、そっと抱きしめ返し、可愛らしい彼女のおでこに、子供がやるような、ささやかな口づけをする。
それから、フェリスへと微笑みかけ、「さ、行きましょうか」と述べた。
どうだ、やかましい二人の私。
これなら文句ないでしょ。
そんなことを思う私の頭に、二人の声のミックスで、『腰抜け』『どっちつかず』『中途半端』『やる気あんのか』『根性なし』という罵りの言葉が響いた。
く、口の悪い奴らめ……
まさか、ミリアムの邪悪な人格が、私の頭の中にこびりつくみたいな形で、残ってるんじゃないでしょうね。