都に出てきた理由
「あ、あの、それはそうなのですが、最近、近くで災害があって、親を亡くした子供たちが、たくさん孤児院で暮らすことになったんです。それで、部屋の数も備蓄品も足りなくなったので、もう働ける年齢の私は、えっと、その、孤児院を出て、自分で生きていくべきだと思って……」
いきなり立ち入ったことをグイグイ質問してくる謎の金髪女に怯えながらも、フェリスはしっかりと言葉を紡いだ。
ああ……そうよね。
この子、こういう子だったわよね。
大人しいけど、芯は強くて、自分のことより、他人のことを思いやって行動する。
立派だわ。
わずか16歳の少女が、いきなり世間に出て、仕事と住むところを探すのは、決して簡単なことじゃない。西の田舎から、この都に来るまでの道のりだって、盗賊たちや魔物が潜んでいるような街道を通らなければならないから、きっと何度か、怖い思いもしたことだろう。
そんなことを思っているうちに感極まった私は、瞳を潤ませ、いつの間にかフェリスを抱きしめていた。
ああ……ええ匂いや……
この子……お日様の香りがする……
フェリスは、もう訳が分からないといった感じで固まっていたが、悲鳴を上げることもなく、私に抱きしめられるままになっていた。
私は彼女の耳元で、囁く。
「あなた、本当に立派よ。私、あなたのそういうところが好きなのよ。もう、ほんと、好き、大好きなの」
うぬ。
ちょっとおかしいわねこれは。
純粋に『あんたは偉い!』って気持ちを伝えたかっただけなのだが、あやしげな愛の告白のようになってしまった。
初対面の女にいきなりこんなこと言われたら、絶対気持ち悪いわよね。
思いっきり突き飛ばされても、こりゃ文句言えないわ。
……と思ったが、純朴なフェリスは頬を染め、恥ずかしそうに俯いただけだった。
ええ子やのう。
「はぅ……あの……その……どうも、ありがとうございます……あの、それで、面接は……」
「もう面接もクソもないわ。……あっ、ごめんなさい、下品な言葉を使ったわね。文句なしで採用よ。私はミリアム……じゃなくて、ミリアっていうの。困ったことがあったら、何でも私に相談してね」
フェリスを抱きしめていた腕を緩め、再び彼女の肩に手を戻すと、一度、二度、元気づけるようにパシパシ叩き、私は力強くエールを送った。
あっという間に終わってしまった就職面接に、ポカンとした表情のまま、再び固まってしまうフェリス。
カウンターの奥で、私たちのやり取りを見守っていた店長さんが、静かに駆けよって来て、小声で私に耳打ちした。
「あの、ミリアちゃん。面接を任せた手前、言いにくいんだけど、今の短いやり取りで、彼女に酒場の仕事ができるようなガッツがあるか、わかるのかい? きみが抱きしめて、一方的に『好き好き』言ってただけじゃないか。……見たところ、大人しそうな子だし、荒くれものたちもいっぱい来るこの店で働くのは、ちょっとキツイんじゃないかな?」
私はクワッと目を見開き、唾を飛ばして猛抗議する。
「何言ってるんですか!? 孤児院の、他の子どもたちのために、安穏の生活を捨てて都に出てきたような子ですよ!? この子にガッツがないなら、世の中のほとんどの人間は根性なしですよ! 荒くれものが何だって言うんですか! フェリスちゃんに手を出すような奴がいたら、私が出て行ってやっつけてやりますよ!」