就職希望者の面接
願いがすぐに叶ったかのような朗報に、私はぐったりと倒していた上半身を起こし、思わず万歳した。
「ほんとですか!? やったー! これで地獄のワンオペから解放されるー!」
この店で働いているのは、店長さん、おかみさん、私の三人なので、厳密にはワンオペ――ワンマン・オペレーションではないのだが、店長さんとおかみさんは、ほとんど厨房に入って調理をしているので、お客さんに注文を取りに行ったり、配膳したりするのは、ほぼすべて私の仕事である。ちなみに、会計も私が担当することが多い。
飲食関係のアルバイトをしたことのある方ならお分かりだろうが、次から次へとやってくるお客さんを相手に、いま述べたような作業を一人でやり続けるのは、相当キツイのよ。いやほんと、マジで。
だが、明日からは二人で作業を分け合えるのだ。
つまり、単純計算で、仕事量が半分になるということである。
それでも、お給料は変わらない。
ああ……こんなに嬉しいことはない……
いまだに万歳三唱を続けている私を見て、おかみさんは堂々たる体格の腰に手を当て、母性溢れる笑みを浮かべた。
「いつも無理させてすまなかったね。今でこそ、すっかりウェイトレスが板についてるけど、あんた、最初はさ、あんまりこういう仕事に慣れてない感じだったから、大変だっただろう?」
「いやぁ、色々とアルバイトはしたことあるんですけど、お酒を出すようなお店は初めてですし、何より、異世界の接客業は、日本とはまた勝手が違うもんで、なかなか苦労しましたよ~」
「イセカイ? ニホン?」
「あ、いえ、こっちの話です。とにかく、明日来る人が、良い人だといいですね!」
話をまとめるように、両手でガッツポーズをしてそう言うと、おかみさんも、店長さんも、笑顔で頷いた。それから店長さんが私に向き直り、改まった様子で口を開く。
「ところでミリアちゃん。明日も朝から、来てくれるんだよね?」
「もちろんですよ。私、訳あってお金がいっぱい必要なので、夜の酒場営業だけじゃなくて、日中の食堂営業でも働かなきゃ、とても目標金額に届きませんからね」
「働き者だねぇ。……まったく、大した仕事もしないくせに、国からお金をたくさんもらっている貴族たちも、ミリアちゃんを見習うといいんだがね」
憎々しげにそう言う店長さんに、私は「あはは……」と曖昧な愛想笑いを返した。
店長さんはとても気のいい人なのだが、昔、貴族絡みで嫌な思いをしたことがあるらしく、何かにつけて貴族の悪口を言うのが、ちょっぴり玉にきずだった。
……私の住む『ローゼン家』は、貴族の中でも名門中の名門だし、『ミリア』の正体が、悪名高い公爵令嬢『ミリアム』だと知ったら、店長さん、きっと怒るだろうな。
たった今、貴族たちに向けられていた店長さんの悪意が、私に向けられることを想像すると、凄く悲しい気持ちになった。
しょんぼりとうつむいてしまった私を見て、店長さんは不思議そうに首を傾げた。
「ミリアちゃん、どうかしたのかい? ワシ、何か変なこと、言ったかな?」
「い、いえ、なんでもないですっ。それで、その、わざわざ明日の朝来るかどうか確認したってことは、何か私に、特別な用でもあるんですか?」
「ああ、そうなんだよ。……一ヶ月前に入ったばかりのきみに、こんなことを頼むのもどうかと思うんだけど、さっき言った就職希望者の面接、ワシの代わりにやってもらえないかな?」
本当に、どうかと思う頼みである。
やっと仕事を覚えたばかりで、新人に毛が生えた程度の私に、新人の面接をさせてどうするのだ。
そんな私の考えがありありと表情に出ていたのか、店長さんは、私の返答を待たずに言葉を続ける。
「いや、あのね、お恥ずかしい話なんだけど、ワシもかみさんも、どうも、あの『面接』ってやつが、苦手なのよ。だいたい、ちょっと話したくらいで、その人の能力や性格を見抜いて採用不採用を決めるなんて、無理があると思わないかい?」
「はぁ、それはまぁ、そうかもしれないですけど……」
「これまでも『この人なら大丈夫だ』と思って、何人も雇ってきたんだけど、皆、酒場仕事の重労働に耐えられずに、すぐ辞めちゃうんだよね。面接のときに『体力と根性には自信あります!』とか張り切ってても、全然当てにならないし……おっと、ごめんごめん、話が脱線したね。年とると愚痴っぽくなっていかんな」
そこで一度、店長さんは咳ばらいをし、先程までよりいささか真剣な顔で、私に向き直った。
「なんできみに面接官をしてほしいかって言うとさ、明日面接に来るのが、若い女の子だからなんだよ。くたびれた中年のワシやかみさんより、同年代のミリアちゃんの方が、若い女の子の気持ちを理解できるだろう? それで、話をして、見抜いてほしいんだよ。その子に、酒場の仕事をやっていける根性があるかどうかを」




