大切に思ってる
「でしょでしょ? 自分で言うのもなんだけど、けっこう上手い言い回しよね」
「はいはい、そうですね。……それにしても、ミリアム様、随分と口が回るようになりましたね。これも、フランシーヌ様の影響でしょうか」
「もしかしたらそうかも。私、一緒にいる人の影響を受けやすいタイプだから」
「それならばなおさら、付き合う相手は選びませんとね。前にも言ったので、少々くどいようですが、フランシーヌ様には、あまり気を許したりしないように、重々注意してください」
真剣なヒルデガードをなだめ、重苦しくなりつつある空気を変えるように、私は笑顔を浮かべ、上下に手を振った。
「あなた、本当にフランのことが嫌いなのねぇ。あの子、あなたが思ってるほど悪い子じゃないわよ。案外素直で、優しいところもあるし」
奴隷商人のやり方に激昂し、手荒なことをしてしまうような狂暴な一面もあるが、それを言うと、ヒルデガードのフランシーヌに対する心証がより一層悪くなりそうなので、黙っておくことにした。
……まあ、あの荒々しい行動は、苦しむ奴隷の少女を救うために怒ったようなものだから、フランシーヌの、内心の優しさを証明する狂暴さだと、私は思っているが。
あっけらかんとした様子の私を見て、ヒルデガードは大きなため息を漏らす。
「はぁ……いつものことですが、ミリアム様は、すぐフランシーヌ様に懐柔されてしまいますね。あのガキ……失礼、あの方は、本当に、ミリアム様のご機嫌を取るのが上手いんですから。あれはもう、一種の才能ですね。昔からいちいち私の邪魔をして……まったく、忌々しい……」
憎々しげに呪詛を吐くヒルデガードに、私は苦笑いしながら言う。
「確かに、ご機嫌を取られてるだけなのかもしれないけど、それでも私、あの子のこと、けっこう好きよ。第一印象はアレだったけどね。……あと、今さら言うことじゃないかもしれないけど、ヒルデガード、あなたのことも好きよ。凄く、大切に思ってる」
その言葉で、ヒルデガードの白い頬が、かすかに赤くなった。
「な、なんですか急に……」
「えっと、ね。何を言いたいのかっていうと、私、フランのことも、あなたのことも好きなのよ。それなのに、あなたがフランのことを悪く言ってると、ちょっと寂しいのよね。だから、できるだけ、あなたにもフランのことを好きになってほしいのよ。それに、大好きな人が、誰かの悪口を言ってる姿を見るのって、悲しいじゃない?」
「はぁー……本当に、口が回るようになりましたね。そんな言い方をされたら、『いやです』とは言えないじゃないですか」




