骨折り損のくたびれ儲け
「なるほど、なるほど。異民族の娘ですか。使用言語も違うでしょうし、教育するのは難しいでしょうね」
「はい、ですから、ゆっくりと時間をかけて調教していこうと考えていたのですが、今回のことで、甘かったと思い知りました。今後は、これまでよりグッと厳しくしつけを施します。それで、結果的に人格が委縮し、奴隷としての価値が下がっても、仕方ありません」
……『これまでよりグッと厳しくしつけを施す』ということは、さっきやったような『懲罰の首輪』による制裁を、積極的に行っていくということだろうか。先程の、黒髪の奴隷少女の凄まじい苦しみようを思い出し、私は眉をひそめた。
フランシーヌは、レモンイエローの縦ロールツインテールを人差し指で弄びながら、大して興味もなさげに「ふうん、そうですの」と言ってから、言葉を続ける。
「でも、扱いの難しい奴隷を、苦労してしつけて、それで結果的に奴隷としての価値が下がってしまうなんて、まさに『骨折り損のくたびれ儲け』というやつではありませんの?」
「そ、それはそうですが、人に危害を加える可能性のある奴隷を、軽々に売ったり、捨てたりすると、奴隷管理局に罰せられてしまうので……。互いに同意があれば、譲渡は可能なのですが、いつ牙を剥いてくるか分からない奴隷を欲しがる人間など、まずおりませんからね。まったく、厄介な奴隷を仕入れてしまったものですよ」
「ふむふむ。その口ぶりからすると、あなた、あの黒髪の奴隷を、厄介払いできるものなら、してしまいたいと言った感じですわね」
奴隷商人は、『なぜそこまで立ち入ったことを聞いてくるのだろう』と言いたげに、わずかに顔を顰めたが、小さく頷いた。フランシーヌは、突然自らの懐に手を入れると、財布を取り出す。彼女の髪の毛と同じく、レモンイエローの派手派手な財布だった。
財布の中に詰まった紙幣を数えながら、フランシーヌは問う。
「あの奴隷、仕入れ値はいくらですの?」
奴隷商人は、値段を言う。
それは、ビックリするような金額だった。
奴隷は、現代社会で言うところの自動車――あるいは、小さな不動産に相当する財産なので、高額だとは思っていたが、これほどまでとは。
私と違い、フランシーヌは値段を聞いても驚くことはなく、じっと奴隷商人の瞳を見る。数秒してから、彼女は口を開いた。
「ふむ、邪心やごまかしのない、まっすぐな瞳ですわね。どうやら、嘘を言って、値段を吊り上げているわけではないようですわね」
奴隷商人は心外そうに、やや上ずった声を上げた。
「と、当然です! 私の家は、代々続く奴隷商の名家! 先祖の名前にかけて、不当な値段交渉や、詐欺まがいの商売など、決しておこなったりはしません!」
奴隷商に名家も何もあるものかと思ったが、この世界では奴隷売買は普通のことなのだ。この人はこの人なりに、自分の仕事に誇りを持って、誠実な商いをしているのだろうから、何も言うまい。
フランシーヌは、奴隷商人の憤慨を受け流すように手を振ると、しれっと言う。
「はいはい、失礼いたしましたわ。さて、そんな誇り高い奴隷商人のあなたに、耳寄りなお話ですわ。今あなたが述べた通りの金額を、キャッシュで払いますから、あの黒髪の奴隷、わたくしに譲ってくれませんこと?」
「えっ!?」




