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五秒以内にやれ

 奴隷商人は唖然とし、今の恐ろしい恫喝が、目の前の小柄な少女が発したものとはどうしても思えないと言った感じで、フリーズしてしまった。


 その態度で、無視されたと感じたのか、フランシーヌはさらに怒ったようだった。のしのしと奴隷商人の前に歩いて行くと、小さな手で彼の首を掴み、なんと、片手で頭上に持ち上げたのである。


 もう充分わかってはいるつもりだったが、とてつもない腕力だ。


 成人男性だって、こんなことができる人は、そうはいないだろう。とてもじゃないが、小柄な女の子の力ではない。


「あっ、がっ、ぐっ、やめ、くるし……っ、おろし……っ」


 半分首を絞められるような形で持ち上げられたことで、図らずも、地面で苦しむ黒髪の奴隷少女と同じように、顔を苦痛にゆがめ、悶える奴隷商人。フランシーヌはそんな彼を下から睨みつけ、先程以上に、攻撃的で、怒りを孕んだ声で命じる。


「下ろしてほしけりゃ、とっとと『懲罰の首輪』の呪いを解除しろや。五秒以内にやれ。でないと、てめえの首が先に折れちまうぞ」


 奴隷商人は、首を絞められたまま、必死に何度か頷くと、震える右手を持ち上げ、短く呪文を唱えた。すると、黒髪の奴隷少女の首元で鈍く光っていた『懲罰の首輪』が輝きを失い、黒髪の奴隷少女は、倒れたまま、くたりと動かなくなった。


 本当に、ピクリとも動かないので、もしかして死んでしまったのではと思い、私は彼女に駆け寄って、口元に手をかざす。……良かった、ちゃんと、息をしている。


 背後で、ドサリと音がした。

 フランシーヌが、奴隷商人を下ろした音のようである。


 奴隷商人は、今の今まで強い力で握られていた首を擦りながら、何度か咳をし、肩で息をしていた。そして、フランシーヌも、「すー……はー……すー……はー……」と、肩で大きく息をしている。ゆっくりと深呼吸をして、何とか自分の気持ちを鎮めようとしているみたいに、私には見えた。


 そして、数秒後。

 すっかり冷静さを取り戻したフランシーヌは、涼やかな笑みを浮かべ、奴隷商人に言う。


「手荒な真似をして、大変申し訳ありませんでしたわ。でも、わたくしもあなたの所持する奴隷で大怪我をしたのですから、喧嘩両成敗と言うことにいたしませんこと? そうしてくださるのなら、今日のことは、決して奴隷管理局に報告したりいたしませんわ」


 奴隷商人は、少しも悩まずに、頷いた。


 賢い男だ。


 自身の管理する奴隷が、管理不行き届きで他人に怪我を負わせた場合は、それなりに罰を受けなければならないのだが、奴隷商人の場合は、その罰がさらに重たくなる。場合によっては、『奴隷を扱った商売をおこなう資質なし』とみなされ、免許をはく奪されることもあるので、ことを荒立てても、まったく良い状況にはならないことを、すぐに理解したのだろう。


 フランシーヌはニッコリ微笑み、話を続ける。


「ところで、あの黒髪の奴隷。随分と狂暴ですわね。ちゃんとしつけは済ませましたの?」


 先ほどまでとあまりにも違う、お嬢様然としたフランシーヌの振る舞いに困惑しながらも、奴隷商人はなんとか言葉を返す。


「え、ええ、まあ。しかし、もともと、どこかの部族から拾ってきた野人のような娘ですから、ふとしたきっかけで暴れたりして、ほとほと困っているのです。それでも最近は、かなり大人しくなったと思っていたのですが……」

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