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朝の運動

 ……嘘でしょ?

 チェーンと鉄球で、合わせて何kgくらいになるのかしら?


 10kg?

 20kg?


 いや、たぶんもっとだ。


 私は昨日、フランシーヌに押し倒された際に感じた、彼女の異常なほどの腕力を思い出し、納得した。これだけのことができるフランシーヌに、私が力でかなうはずなどなかったのだ。


 そこでフランシーヌは、私の姿に気がついたようで、鉄棒から手を放して地面に下りると、腰に巻いていたチェーンを外した。その際、チェーンと鉄球が、ガシャンと鈍重な音を立てて床に落ち、やはり、驚くほどの重量であったことを、どんな言葉よりも雄弁に表現していた。


「あら、お姉様。おはようございます。どうかしましたの? こんな早い時間に」


 フランシーヌは壁に掛けてあったタオルを手に取り、肌に浮かんだ玉の汗を拭いながら、にこやかに微笑みかけてくる。かなり激しい運動をしていたというのに、その呼吸は全く乱れていない。


 きっと、彼女にとって、この程度のトレーニングは、朝飯前の運動なのだろう(時間的に、もう朝食は食べた後だと思うが)。


 私はフランシーヌにやや圧倒されながらも、笑顔を返した。


「おはよう、フランシーヌ。『早い時間』って言っても、もう8時をかなり回ってるわよ? 世の中のほとんどの人が、活動を開始してる時間じゃない?」


 私の発言に、フランシーヌは苦笑する。


「それはそうなのですけど、本来のミリアム様は、朝が苦手な方でしたから、あなたもそうじゃないかと思っていたので」


「ああ、そういうこと。正直に言うと、私だって、早起きが得意ってわけじゃないわよ。でも、『理想の公爵令嬢』を目指す者として、お日様が高く上がった後も、いつまでもベッドでだらしなく寝てるわけにはいかないでしょ?」


「それはそれは、素晴らしい心構えですわね。良い一日の始まりは、良い目覚めから。わたくしも、いつも早寝早起きを心がけておりますわ。……と・こ・ろ・で、お姉様。何か忘れておりませんこと?」


「えっ? 『何か』って、なに?」


 小首をかしげた私を見て、フランシーヌは大げさにため息を漏らした。


「わたくしの呼び名ですわ、よ・び・な。昨日、わたくしのことは、『フラン』と愛称で呼んでくださいと言ったじゃないですか」


「あっ、あー……そうだったわね。ごめんごめん、これからは気をつけるわ」


「『これからは気をつけるわ、フラン』でしょう? 言い直してくださいまし」


「はぁい……これからはちゃんと気をつけてフランの言う通りにしますぅ……」


「うふふ、よくできました♪ 素直なお姉様、とっても可愛いですわよ」


 フランシーヌは満足げに微笑むと、突然、自らが身に着けているタンクトップに手をかけた。そして、何の躊躇ちゅうちょもなくそれを脱ぎ捨てる。


 当然のことながら、それで、フランシーヌの上半身は裸になった。


 えっ?

 なんで?

 なんで脱ぐの?


 仰天する私のことなど気にせずに、フランシーヌは、今度は下半身に履いていたショートパンツを下ろす。あっという間に、彼女の体を隠すものは、高級そうなシルクのショーツ一枚になった。


 そこで私は、やっと声を出し、問う。


「ちょっ、何いきなり脱いでるの?」

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