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勇者の在り方

「弾幕構築の時間稼ぎ、お願い」

「了解、倒しても文句言うなよ?」

「――ジークで試し撃ちなんてしないわよ」


 神剣を手にしたことで、俺とシャルのアレに対する恐怖は打ち払われた。


 増幅されている勇者と魔王の力が守ってくれるているのか。


(極力生身で触れるのは回避して。破壊神の力は防御を無視して対象を破壊するわ)


 どう見ても硬いだろう守護者の体を砕くのは見ていたのだ。破壊者がそれくらいの力を持っている想定はしてる。


(わかってる。シャルの魔法が完成するまで無理をするつもりはないさ――)



 俺が吼える。数多の武器を壊し、魔力を抑える事が癖になっていた。そんな俺の全力の魔力を解き放つ。


 大地を震わせる、魔力の混ざった咆哮は破壊者を怯ませる。その勢いのままに奴へ向かっていく。


「守護者とは本気で戦ってなかったって事か!」


 破壊者は体中から触手を伸ばし、俺を捕まえんとする。その黒く禍々しい触手を聖剣で切り払い、空いてる拳を叩き込む。


(ジーク君! わざわざ素手で殴るなんて馬鹿なんですか!)

「わりい、だがやれると思ったんだよ」


 魔力を解き放った解放感が俺を暴走させているかもな。内から溢れ出る熱い闘志が、奴をぶん殴れと叫んでいる。


 殴られた破壊者は何度もバウンドして地平線にまで飛んでいく勢いだったが、大地を掴んで減速する。


(その状態で戦うのは初めてなんだから、慎重に戦って)

(――わかったわかった。俺も考え無しすぎた)


 破壊者は俺を――聖剣を見ている。その目には憎しみなんて生ぬるい、憎悪に満ちた感情を感じた。


(破壊神の目的は神剣の破壊よ。神々が休眠中のこの世界で、唯一破壊神に対抗できる武器。決して奴に奪われないように気を付けて)

(――父上たちの方は大丈夫なのか?)

(あちらは言ってしまえば分体よ。本体はジークとシャルが持っているモノ、そちらを破壊神の元にまで持っていかれると取り返しのつかないことに……)


 数えきれないほどの触手を躍らせて、破壊者は俺に襲い掛かる。


 触手は硬くない。聖剣で簡単に切り落とせるし、絡みつかれても力任せに引き千切る事もできる。


(触手責めにならなくて良かった――)

(……確かに直接は触れられたくないな)


 糸を引く姿は気持ち悪さはあるが、触手が触れているのは魔纏衣であり肌に直接感じ取ることはない。


 破壊者の能力以上にベトベトにされるのも勘弁だ。


(マスター、べたべた嫌。早くなんとかして)

(お前もしゃべるのかよ!)


 鞭のようにしならせ、破壊者は触手を聖剣に巻きつける。その感触に聖剣が念話で苦情を伝えてきた。


(私を使うなら、ちゃんと炎も使って……)


 その苦情ついでに聖剣の使い方を自らレクチャーする。見た目通りに魔力を流せば、炎もまとえるらしい。


「――――!」


 炎に弱いのか? 今まで触手を斬ったり引き千切ったりしても痛みを見せなかっただろ。


(神力の炎は効果があるみたいです。ベースとなった生き物が極端に火に弱かったのかもしれません)


 俺との接近戦を嫌がり、破壊者は距離を取って魔力を漲らせる。おそらく魔法による遠距離戦に切り替えたか。


 苦手意識しかない魔法で撃ち合いたくないな。強引に接近してもいいが、背後のシャルを守りにくい。


 そういえば、勇者の力を使えるんだったな、――防御スキルを使うか。


「来い! 『女神の盾(アイギス)』」


 俺の頭上に現れたのは、女神の紋章が描かれたラウンドシールド。それ自体も防具として十分な防御性能を持つが、その本質は別にある。


「多層障壁展開、女神の(アイギス)城壁(・ロゼッティア)


 アイギスを起点にして、俺の眼前に半透明の膜が何十と重なり城壁を築き上げる。アイギスは防具ではない、グリモワールと同じ魔法を補助する魔法具だ。


 一発足りともシャルの元に届かせてたまるか。


 そう気合を入れる俺の前に、三十発以上の破壊神の力を込められた球体が奴の周囲に浮かぶ。破壊者も俺の後ろで魔法の準備をしているシャルの魔法陣に気付いたか。俺からシャルに狙いを変えて、音よりも早い魔法を射出した。


「貫かせるな、アイギス!」


 破壊者の魔法を受け止める薔薇の花弁のように展開された障壁は、耳をつんざく轟音を立てながら剥がされていく。


 例え数枚剥がされようと、何枚でも追加してやる。根競べならいくらでも受けて立つぞ。


「――――――――」


 破壊者は言語か鳴き声かもわからない奇声を発し、魔法を止める。俺の障壁を突破しきれないと理解して、直接シャルを狙うつもりだ。


(準備ができたみたい。ぎりぎりまで引きつけるからシャルの元に合流して)

(――わかった)


 魔力の供給が止まったアイギスは虚空に消えていく。俺はそれを見届けることなく、破壊者に背中を見せてシャルの元に向かう。


「お疲れ様」

「……後は頼む」


 シャルも俺も、慣れない力と全力での戦闘に大粒な汗をかく。余裕を持って戦ったつもりだが、あとどれだけ戦えただろうな。


「さあ、いきましょう――グリモ、シエル。これが魔王(私達)の全力全開よ! 『宙よ、真紅に染まれ(スカーレットレジーナ)』」


 魔神の紋章が表紙に書かれた魔導書と杖となった魔剣がシャルに付き添い、そこから吹き荒れる魔力が彼女のドレスをなびかせる。


 そして断罪の魔剣が破壊者に向かって振り下ろされた。それに従い宙に浮かぶ魔法陣から火球が降り注ぎ、空は夕刻より赤く染まる。


「――――!」


 破壊者はさっきと同じ魔法を乱射し、シャルの魔法を打ち落とす、だが、残念ながら文字通り桁が違うのだ。頑張っても三桁に届かない破壊者の魔法に、平然と三桁を超えるシャルの魔法に勝てる通りはない。


 ここがダンジョンでさえなかったら、転移で逃げられたはずだった。シャルの魔法は破壊者を逃がす事も許さず、奴ごとダンジョンを焦土とクレーターを量産する。


 数分降り続けた火の雨が止むと、原形を保ったままの破壊者が残っていた。体から煙を上げて、炭化した触手がボロボロと剥がれ落ちる。


「あれで形を保ってられるなんて、どんな体をしてるのかしら?」

「素材として研究したいなんて口にするなよ?」

「口になんかしないわよ――考えてただけよ……」

「――おい」


 最初は怖がっていたのに、今では好奇心が顔を出していた。破壊者に対抗するための研究は必要かもしれんが、シャルには任せたくないな。


(まだ生きてます)

(なに?)


 アルマの言葉に俺は感覚を研ぎ澄ます。


 たしかにわずかな魔力と体が動いてる気がする。


(触手と破壊神の力を周囲に張り巡らせて、壁にしたみたいです。もう戦うだけの力は残っていないと思いますが――)

(わかってる。頭を落とせば、確実だよな)

(――はい)


 俺が聖剣を手に取って前に出る。


「ジーク?」

「まだあれは生きてる。トドメを刺してくるから、シャルはここで待っててくれ」

「――わかった。気を付けてね」


 シャルが見守る中、俺は破壊者に近づく。シャルの魔法で焦土となった残滓は、魔纏衣越しでも熱として伝わってくる。


(火山とか雪山で活動できる人間は生物なのか悩んでたのに、今はそっち側だね)

(うっさい)


 感慨深いそうに言ってるが、勇者の力を封じていたのはお前だろうに。




 そんな風に久しぶりに感じるアルマの冗談を聞きながら、俺は焦土の中心地に辿り着いた。


「―――――――」

「……最後までなにを言ってるかわからないな」


 すでに破壊神の力も回収されたのか、触手も残ってはいない。残っているのは肌の黒い人間だった。


 この世の全てを憤怒してる男の紅い目が俺を貫く。その目を見て俺は敵意や怒りではなく、なぜか憐みが湧いてきた。


(ジーク君は知らなくていいよ)

(こいつの言ってることが分かるのか)

(異世界の神々と交流があるって言ったでしょ?)

(そういうことか)


 アルマの声音から、この男が悪人ではなかったと察することができた。体に刻まれた傷痕と肉体は、努力の果てに作り上げた戦士の体だと容易にわかる。


 今の俺なら使えるよな。


(何をするつもりですか!)

(勇者らしいことをな)


「……上手くいってくれよ」


 俺は男に手をかざして、勇者のスキルで補佐された回復魔法を使う。


 体の傷が癒されていくのを男は不思議そうに見ている。俺は魔法がしっかりと効果が発揮されるのを見て、男から距離を取った。


 そういえば聖剣の鞘がないな。とりあえず召喚を切ればいいか。


「さあ、仕切りなおそうぜ。異界の戦士よ!」


 俺は大量に持つ剣をアイテムボックスから取り出して、一つを男に投げ渡す。


(ジーク君……。だめだよ、破壊神がまた……)


 アルマの言う通り男の周囲に黒い靄が現れる。けれど男は俺が渡した剣で靄を打ち払う。


 男の行動にアルマが驚くが、特に何も驚くことではない。


「――――、―――――――」

「気にすんな。最後くらい、戦士として生きろよ。じゃねえと、俺の気分が悪いだろ?」




 俺も男も剣術だけで剣を振る。魔法なんて無粋なモノは必要ない。


 殺す為ではなく、自分が築き上げたモノを俺に見せるために男は戦う。


「すげえな、父上以外でここまでの剣術を持った剣士は初めてだ」

「――――――――」


 言葉はわからない。けど剣を通じて想いは伝わる。


「はは、だがもう終わりみたいだ」


 俺はボロボロになった男の剣を打ち砕く。


 こっちの剣もあと数回振るのが精いっぱいだな。運が悪かったら負けてた。


 男は最後の戦いに満足が行ったのか、地面に寝転がる。


「――――――」


 まだ全てが憎い、けどもう十分だ。男の言葉をアルマが通訳してくれた。


(ダンジョンが限界だよ。すぐに脱出しないと)

(――あいよ)

 

 形を保ってるだけの剣を地面に突き刺し、聖剣を召喚する。


「――次は一緒に戦おうぜ」


 俺は聖剣を振り下ろした。

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