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二本の神剣

 俺達が歩き続けた先に、クリスタルでできたドラゴンが丸まって眠っていた。


 四足タイプのドラゴンは周囲の花と同化し、すぐには認識できなかった。けれど、その内から発せられる魔力と巨大な体は隠れているつもりは一切ないだろう。


「神剣の守護者かな?」

「そうかもな。俺達が戦うのかはわからないが」


 もしそうなら、俺にできることはないだろうな。あれに剣も拳も通用するとは思えない。


『――戦う必要はない』

「守護者か?」


 頭に直接響く低い威圧感のある声。クリスタルという構造上、発声器官は持ってないか。


 俺がドラゴンに確認すると、目を開きゆっくりと頭を上げる。


『うむ、我は神器の守護を任じられた者。勇者か魔王の資格を持つ者を試す事はしない』

「ジークもいいのかしら?」

『……魔神様より許可が出てる』


 ――女神からは出てないってことか。


 俺はそこらの芸術品が霞む水晶のドラゴンに礼を言って、すぐさま離れようと思った。


 本当はもう少しこの芸術品を目に焼き付けておきたがったが、隣のバカは彼の素材が気になるらしい。


「ちょっとだけ! 先っちょだけでいいから素材を分けて欲しいの!」


 そんなことを守護者にのたまうシャルの手を引っ張って、俺はドラゴンの横を通り抜けようとする。


 お前は散歩を嫌がる犬か、無表情で踏ん張るんじゃない! 守護者さんも、たぶん困った顔をしてるだろ。



(ジーク! すぐにそこから離れなさい!)


 アルマの警告と同時に、後ろから魔物とは一線を画す気配を感じた。


 俺の本能が振り返るなと叫ぶ、このまま全力で離れろと。


 手をつないでいたシャルの震えが伝わり、それに俺は臆してたまるかと腹をくくる 。


『逃げろ! 今すぐに魔剣の元まで走れ!』


 守護者が俺達に叫ぶ。それと同時に咆哮を上げて、気配の主に威嚇した。


「――シャル、走るぞ!」


 俺はシャルの手をしっかり掴みなおし全力で駆けた。背後から聞こえてくる割れ物が砕ける音とドラゴンの悲鳴に、走りながら俺は後ろを見る。 


 それは黒いモザイクのかかった人型のナニかだった。


 龍の翼はそれに触れられただけで落とされ、そのまま前脚を消し飛ばされる。


 ナニかから感情は感じられない、淡々と守護者を壊す姿に俺は恐怖を覚える。


 守護者は接近戦は不利だと判断し、距離を取ってブレスを放つ。


(駄目です。破壊者にダメージを与えるには神力が足りません)


 魔力の混ざったブレスは破壊者やらに直撃する。クリスタルの花々を無残に散らしながら、破壊者を大きく吹き飛ばした。


 だが衝撃で地面に倒れた破壊者は何事もなかったかの如く立ち上がり、守護者に向かって奇声を上げて走っていく。


(アルマ、あれは何なんだ)

(この世界の外から来た異物。我々が破壊神と呼ぶモノの眷属です)


 俺は走りながらアルマに問い掛ける。


 ある意味勇者と魔王と同じ、神の加護を受けた奴ってことか。


(俺はどうすりゃいい)

(――ジーク君が聖剣を手にして。勇者と魔王のスキル(神の加護)を神剣の力で増幅すれば、末端の破壊者なら十分に勝てます)


 それはアルマにとって苦渋の選択なのかもしれない。声には最後まで悩む意思を感じ取れる。


(使えるのか)

(……うん。シャルちゃんと魔剣でもダメージを与えることはできるけど、ジーク君の魔纏衣でないと接近されると厳しいよ)


 そうじゃない! 俺が聞きたいことはそんなことではない。


(俺には――!)

(あります、ジーク君にも勇者の力は……。私がジーク君のスキルを封じていたんです)

(――! なぜだ、なんでそんなこと)

(今は生き残る事を考えて、終わったらちゃんと話すから……)


 俺は絞り出すように声を出すアルマにこれ以上何も言えなかった。


「ジーク――、アルマから話は聞いた? こっちも魔神様から指示を受けたわ」

「こっちもだ。座まで急ぐぞ」


 アルマの言う通り、今は戦いに集中しよう。シャルもいるんだ……。


 疑惑を心の奥に押し込めて俺は見えてきた台座に向け、走る足に魔力を込める。




「あれが――」

「うん、姿形は違うけど。間違いなく聖剣と魔剣だよ」


 火山のマグマを思わせる紅蓮の幅広い剣と、青空から夜空に変わるグラデーションがかった長剣が並ぶ。


 シャルの言う通り、父上の持っている聖剣とは形が違う。


 父上やグラムさん達が持つのは召喚で呼び出したもの。だから姿も召喚者に合わせて変化するらしい。


(ジーク君、急いで! 守護者が倒されました)

(――! 死んだのか?)

(いえ、あれは仮初の体ですので本体は無事です。勇者と魔王にも援軍を頼んではいますが、アレがここに来る方が早いでしょう)


 さっき言葉を交わした知性のある生き物が無事であることに、俺はホッとする。


 しかし奴の現れた時の事を考えると、ダンジョンの中でも転移できるんじゃないか?


(奴がここに転移してくることはないのか? あの場所に現れたみたいに)

(それは大丈夫です。あれは転移と言っても世界に穴を開けて入ってきただけで、魔力の満ちるダンジョンで転移はできません)


 シャルと同じく転移できないのは好都合だ。あいつだけが転移できると一方的になる可能性だってある。


「ジーク?」

「守護者が倒されたらしい。奴が来る前に剣と契約を済ませよう」


 シャルと一緒にそれぞれの剣の前に立つ。急がないという焦りと、契約できなかったらという緊張の二つが俺の中でぶつかり合う。


「いくぞ!」

「うん!」


 同時に俺達は剣の柄を手に取った。久しぶりな本体の起動に、聖剣は俺の魔力をどんどん吸っていく。乾いた砂漠に水を流すみたいに、抵抗を一切感じないまま魔力が染みわたっていく。


(――――お帰――さい、――)


 剣から反応が返ってきた気がした。掠れるような小さな声で、確かに何か……。


「ジーク! 抜けたのね!」


 シャルが自分の事のように喜ぶ声で、俺は意識を元に戻す。きっとこの答えもあとでアルマが教えてくれるはずだ。


「ああ、抜けちまったな」


 アルマに大丈夫だと言われたが、目の前の剣を俺が持っていることを信じられなかった。その存在を確かめるために魔力を流してみると、父上と同じように紅いオーラを纏って劣化や破損する様子もない。


(今のジーク君は勇者のスキルを所持してます。だから魔纏衣の制御はさっきより楽になってるし、魔法もマギロニカ式とイメージ式問わず万全に使える)

(凄まじいまでの万能感だな。気を引き締めないとそのまま引きずられちまいそうだ)

(そう思えるなら大丈夫だよ。今さらスキルの説明はいらないよね?)

(――当然)


 俺は魔纏衣を軽く試して、調子を確かめる。


 これが勇者スキルか。魔力操作が桁違いに楽になってる。今なら、半年の訓練で身に着けたアルマが改良した魔纏衣でなくても使えるのか。


 もちろん、半年の修行が無駄になったわけではない。改良した魔法のほうがパワーが上だ。


空の女王(シエルレジーナ)!」


 シャルが魔剣を消し、再度召喚しなおす。その姿は杖に変わっており、剣ですらなくなった。


 たぶん武器であれば、武器種を問わず使い手に合わせてくれるのか。俺の方はすでにしっくりきてるから再召喚の必要はないが。


「うん、前衛はジークに任せるから。援護は任せて」

「おう」


 幻想的だった景色を消し去りながら、――奴はこちらに走ってきた。

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