第7話「新たな1日」
「おしまい、アメルはもう寝ちゃったわね。あら、ゼクはまだ起きてたの?世界の成り立ちは面白かった?」
「うん、面白かったよ。理の魔神は凄いんだね。自分を産み出した神様より、世界を選ぶなんて。しかも、神様を止めてたし!」
「あら、よく聞いてたはね。この話は難しいから何度も子供のうちに聞いてそのうち覚えるのに、内容ちゃんと理解したのね」
「う、うん。僕、戦い、好きだから」
変な所で実年齢との矛盾がバレたら面倒くさいのでゼクシオは誤魔化した。
「今日はもうおしまい。さ、寝なさい」
「はーい」
扉の音と共にルザーネが出て行ったので、とりあえず本の内容を思い出していた。
(この世界は、神様が作ったらしいな。でも、本なんかで完璧に伝わってない可能性もあるしな。まだ今じゃ判断が付けられないからこれは置いておこう。そういえば話は色がよく出てきたけど、訳わからんのも多かったな。あ、でも、魔王、剣聖、覇者の三勇者はラノベに出てきそうだな。これはテンプレ内容だから伝説と普通は思うけど異世界では実在パターンだよな。あと、六種族なんて呼ばれているのがいるらしいな。人は多分入ってるとして、他にもいるのか。楽しみだな。エルフっ子にケモ耳所属とか…、グヘヘ)
整理できたのはこの程度だった。魔法以外まだ目のあたりにしている物が無いのでどれも信憑性には欠けるが、ゼクシオが高揚する分には十分だった。
(いやーそれにしても一気に異世界っぽくなったな。早く魔法使いたいし、強くなって、危ないことがないようにしたいな。無自覚チートはなさそうだけど、あったりしないかな?情報は寝て定着するって言うし、今日はもう寝るか)
こうして、記憶覚醒日の初日を後にするのだった。
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ドス
(…イタイ、ネムイ)
ドスドス
(…ネムイ、ネムイ)
ドスドスドス
(…グッへ)
跳ね起きると、見覚えのないような慣れない景色があった。
(あ、転生したんだっけ?)
まだ慣れない天井がいきなり朝を迎えて来る事は新鮮だった。そしてゼクシオの小さな俺の体の上に恐ろしい破壊力を秘めた、可愛らしい足があった。そう、妹アメルの足である。
(っち、アメルの奴め、俺を蹴り起こしといて、まだいい気で寝てやがる。そっちが先なら、こっちがお仕置きせねば…)
手をモニョモニョしてゼクシオが行動に出ようとすると、外で動く音がしたので、邪念を払い部屋の外に出た。外にはルザーネが朝の家事をしていた。
「おはよー」
「おはよう、早いのね、ゼク。今からご飯準備するから手伝って」
「はーい」
今まで禄に親の手伝いをしなかったゼクシオも、体が幼くなると、気持ちも素直になるのか、異世界で気分がいいのか分からないが手伝う気力があった。
(このまま前世より真っ当に成長しよう、うん)
朝ごはんのために椅子に乗って背丈を伸ばし、台を拭いているとリオが奥から出てきた。
「おはよう、今日はゼク早いな。手伝いなんて偉い偉い」
「うん!」
(えっへん、偉いだろう!)
当たり前の事をしているだけだがそれ今はそれすら誇れる気分だった。
「今日も暇だから、俺が遊んでやるぞー」
「…うん」
(そう言えば、昨日忘れてたけど、理不尽な鬼ごがあった。まさかまた…)
「今日からは、ちょっとためになること教えてやろう」
「本当に?ありがとう」
(よし、台拭き終わったし、ご飯食べてためになることを聞こうではないか。俺も魔法早く使いたいし。よっと)
リオの意味深な言葉を聞くと今の気持ちのノリのまま台拭きを終わらせた。椅子から降りると、ルザーネが料理を持ってきてバッタリ対面した。
「ありがとう、ゼク。それじゃ、そろそろ、アメルを起こしてきて」
「はいよ」
そう言って、リオは、アメルを起こしに行った。秒でリオはアメル連れてきたが、昨日遊びをせがんでいた時のように元気がなく目を窄めていた。
「……ん、おはよ」
「「おはよう」」
(さて、全員揃ったし、食事だ!)
「さー席について、食べるわよ」
全員が席に着くと、前世と変わらない食事前の感謝の言葉を唱えた。
『いただきます』
(今日のも美味しかった。主食はパンだろうな)
今日の食事にもパンにスープがあった。そして、サラダが新たに追加されていた。
(朝も多いのは嬉しいな)
せかせか食べて着替えた後、ゼクシオはリオと玄関にいた。
「「行ってきまーす」」
「行ってらっしゃい、頑張ってね」
「‥っらしゃぃ」
(ん?ルザーネは森のこと知らないはずだけど。まさかね?)
アメルは昨日強気だったっけど、眠いと元気がないようでまだルザーネと手を繋いでいた。その姿は昨日の帰りのゼクシオとリオの姿の鏡写しだった。ゼクシオは思い出し、リオの手を見て昨日の自分に苦笑いをしていた。
家を出た2人はまた昨日の森まで歩いていた。この森はどうやら反対側の森よりは安全らしいが森は繋がっているし魔物も出るようだ。だから普段は森へ子どもだけでは近づく事が禁止だが、こっそり抜け出して溜まり場になっている。もちろん大人は気づいていたが、村付近には魔除の魔植があり、浅い範囲なら魔物もラパームなど小型が殆どなので放置していた。
森は繋がってるって聞いた時は、リオは笑ってたけど、ゼクシオは笑えなかった。
「よし、着いたな」
見覚えののある森の入り口の前まで来るとそのまま昨日と同じように中へ入った。大型の魔物は見ていないしリオと一緒にいる為まだゼクシオに恐怖が襲うことは無かった。
「で、今日は何するの?」
「言ったろ、ためになることを教えてやろうって」
「うん」
そう言ってリオは少し笑った。すると、突然昨日の家の様子についてゼクシオに確認した。
「昨日、母さんの魔術に夢中だったろ?」
「夢中じゃないけど、いいなーって思ってたよ」
「だろだろ、母さんは夢中になるだろう」
「母様じゃなくって」
話が思いっきり逸れそうになってリオは手前で踏みとどまった。
「おっと、悪い、魔術だったな。で、その魔術だが、昨日、母さんに、危ないって言われたろ?」
「うん…」
そうなのだ。ゼクシオは魔法の存在は知ることができたが、使う事がまだ許されなかった。使い方が分からず何もできなくて、ちょうどこれからどうしようか考えていた所なのだ。
「だから、昨日の夜、母さんに話して俺が少しずつ教えることにした。もう5歳だし、そろそろ魔術も興味持ち出す年頃で、理解がないと危ないからってな」
「うん!」
大抵のことはすぐに諦めてしまうが、魔法なのでかなり努力をする気でいる。
「母さんは、危険な事を嫌うけど、自分の身は自分で守んねーとな。だから、少し早いが、父さんが、今日から魔術の先生だ」
ゼクシオは一瞬で笑顔になると、リオも嬉しそうになった。
「よし、じゃあ今から魔術について、簡単に教えてやる」
「お願いします、師匠!」
「よろしい。難しいことも言うし、魔学舎で習う事も言うから今分からなくてもいいけどいつかは覚えるんだぞ?」
「大丈夫!魔法についてなら一発だよ!」
「おお、頼もしいな。でも、魔法じゃなくて魔術だぞ。魔法は原理の分からない物だけど魔術は大体分かってるからな。じゃあ、初めに魔術を使うために必要な魔力の話から入るか」
(魔術と魔法はこの世界では違うのか。まぁ、そう言う設定のもあったし認識を改めるか)
リオは説明を始める
「魔力はこの世界の至る所に存在する。エネルギーに生命力、自然に至るまで全て魔力ありきだ。それで、生命は生活のために意識を魔力に込めて操ろうとしたのが魔術の起源と言われている。
でも、魔法を使う時は少し無理して魔力を操るから魔力に世界へ戻ろうとする力が働く。それを抑えることは自然と慣れていって抑えるしかない。そうして何度も同じことだけに使っていると特定の生き物は身体の一部のように操れる魔法ができてくる。これが魔物や魔植の生態に繋がってるな。例えば、あのカエル。名前は油ガエルって言うけどよく見とけ」
そう言ってリオが指し示した黄色いカエルの方を見た。リオが小石を近くに投げるとカエルはすごい勢いで飛び上がり見えなくなってしまった。
「あいつはな、身体から油が取れるし身の危険を感じるとああやって油みたいに跳ねるんだ。どうしてあそこまで飛べると思う?」
「んー、足がすっごい筋肉ムキムキだから?」
「ハッハッハ。お前賢いけど面白いこと言うな。まぁ、俺たちに比べたらムキムキだろうし普通のカエルのように普段は跳ねてるけどそれ以外に秘密がある。それは魔術で身体を強化してるんだ。俺達も練習すればできるがあいつらは生まれて間もない頃から本能で使える。こうやって生物は昔から使っていれば身体の一部のようにすぐに使えるんだ」
「ふーん」
(うん、結構理解できてる)
「それで、人が魔力を本能的に操って出来るのはただ取り込んんでちょっとしたことをするくらい。大きな事はあまりできない。魔術は最初から使えるのは天才とか訳ありの子だけ」
(っけ、才能様のお出ましだ。でも、魔術だけは使いたいよな。カッコいいし)
「でも、練習すればみんな使える」
(よかった)
「そこで、魔術には系統があってそれぞれ使いやすさとか相性がある。種類はエネルギーの赤系統、生命力の青系統、自然の緑系統。白系統とかははちょっと例外だから外すな。で、この三つは世界ではエネルギー→自然→生命力→エネルギーっと循環、回る関係にあるんだ。それに相性がある理由は簡単。人の魂にも色があるから。だから、最初は色調べだ!」
(よっし!いよいよ実戦か?)