第30話「ヒビ割れ」
「先生、これって…」
その異様な光景に、ゼクシオは声を抑えることができなかった。キョウカも生徒同様に、空を眺めながらゆっくりと言葉を紡ぐ。
「活性化現象…でしょうか」
「活性化現象?それって、周辺一帯が一時的に魔境になるあの?」
小さく頷くキョウカを見て、ゼクシオは情報を整理する。
活性化現象、周囲一帯に魔力が満ち溢れ、一時的に魔物へ影響を与える魔災。
あまりの影響力から、魔境へカテゴリーされる場合もしばしば。
その影響は様々で、言葉通り活動の活発化だけでなく、魔力操作の向上や凶暴化など、一括りに出来ない。
「先生…」
アフィナも珍しく不安気な表情を浮かべ、キョウカの裾を引き寄せる。
「大丈夫ですよ。私はずっとそばにいます」
優しく語りかける言葉に吸い寄せられ、目をじっと見つめられることで、アフィナも安心した面持ちになった。
ゼクシオはここでアフィナへ嫌味を言ってやろうと思うが、考えてみれば彼女らは9歳。
そんな幼さで、怖がらない方がおかしい。
普段は常に対立をしているが、今は暖かい視線を送っていた。
「…キモ」
しかし、どうやら彼女は、その視線を別の意味で捉えてしまったらしい。
呆れ果て、どうにでもなれ、とでも言うように、踵を返して顔を背ける。
(俺が優しくしてあげた方がいいのだろうか?それとも、彼女が問題なのか…。っ、俺が嫌なやつに配慮か。少し変わったかな?)
歳、主に精神年齢的に当たり前な気もするが、それは、性格的な、プライド的な問題もあるのだろう。
周囲に植えられた木々の中へ入り、切り株に座り、木陰に当てられながら、遠くから魔術を使う同学年を眺めていると、周辺にもサボり目的で集まる気配を感じた。
彼らは遊んでいるのか、互いに追いかけ回して魔術による水を掛け合っている。
(俺もレルロ達探そっかな?)
茫然と眺めながらそう思い、立ち上がって前へ進むと、目の前の空間に、聞いたことのない、しかし、何か割れたような音を立てながら、亀裂が入りはじめた。
(ん?なんだこれ?)
ヒビは次第に広がり、突然、変化を止めたかと思うと、視界の中へと、眩い光が飛び込んできた