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異世界大陸  作者: キィ
第二章 魔学舎入門
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第28話「掃除」

「クソー!何で毎回こうなんだよ!」


 校舎の周りを掃除する羽目になったCクラス一同。その若干名はこの魔道具倉庫に当て付けられた。箒を手に取り愚痴を溢すラドの前には、ゼクシオとフェストが共に掃除を行なっている。


「仕方ないよ、今回はみんな悪かったんだから」


「俺は悪くねーぞ、フン!」


「はぁ…」


 彼はソッポを向くと奥へと入り込んだ。


「仕方ないさ。アイツはああ言うやつ、ほっとけば元に戻る」


「でもなー、また面倒起こされたら、たまったもんじゃないよ」


「それもそうだ。んー、難しい」


 ラドはいわゆるトラブルメーカー。一緒にいるだけでも何かと騒ぎになる。既に、校内職員は殆ど彼の名前を覚えているのではないだろうか。その1クラスメイトであるゼクシオは職員以上に悩まされている。


「おーい、ラドくーん。こっちで一緒に掃除しよー」


「うるせ、あっち行け」


「はいはい」


 もう一度声をかけてみるが反応はさっきより悪く、いつものノリも彼には存在しないようだ。


「ラドは怒ると1人に成りたがりだからな。それより、掃除早く終わらせて宿題やろうぜ。掃除は面倒だけど授業が潰れたのはラッキーだったよな」


 フェストは切り替えがいいのか、ゼクシオにそう提案する。が、その内容は彼だけの目的だった。


「はぁ、俺はもうやってんだけどな」


「うわ、流石ゼクだな。宿題なんて学校でするもんなのに」


 ゼクシオのドヤ顔に呆れ顔で返すフェスト。だが、宿題を行った場所はゼクシオも同じ


「何言ってんだよ。宿題は学校でするものだろ?現に、俺は学校で終わらせたよ。先週の帰りの会で全部ね」


「うわぁ、流石に引くわー」


「簡単だったろ?」


「な訳あるか!」


 もちろん簡単というわけではないが、少し苦戦する程度。それに、先に宿題が終わっているという優越感はなんとも気持ちがいい。

 その微笑むゼクシオを見ていると、フェストは宿題を終わらせる使命感が湧いたのか、かなりのハイスピードで掃除を行いはじめた。


「おー、おー。ドンドン終わる。じゃ、俺は魔道具でも漁るか。お?」


 近くの棚を探っていると、大きな木箱の中にリオやルザーネが連絡でよく用いる通信板が詰められていた。そして、その箱の淵に何か文字が刻まれていた。


「ん?なんか箱に書いてあるな。ドメ40?なんだこれ?」


「あ、それ知ってるぜ」


 後ろから声がかかったと思えば、ラドがいつもの調子に戻って箱の中身を覗いていた。


「通信板、ドメって言うんだぜ?高価なもので持ってる人は少ないけど、魔力を込めれば相手の姿が映し出されて会話もできるらしいぜ。父ちゃんが『仕事でなんかもらった』って言って俺にも貸してくれたんだ。でも、使う相手がいないから今はしまいっぱなし。でも凄いな本当。こんだけあるなら、みんなとどこでも話せんじゃん!」


「ふーん」


(あ、これ希少品だったのね…)


「なんだ?興味なさそうだな。いいか?遠くからでも連絡できる高位魔道具なんだぞ?滅多に見られないんだぞ?」


「……」


(うちの親、2人して持ってるなんて言えない…)


 なんとも申し訳ない気持ちで俯いた。すると、彼は別のものにも飛びついて行った。


「あ、これは!待って待って、こっちも!うわー、ヤッベ。宝の山じゃん!掃除で入れてラッキー!」


「ラド、元気になったね」


「…うん。まさか魔道具オタクだったなんて」


 ラドの魔道具を見つめる事に熱中するその様子、そしてその満面の笑み、それら全てが彼の気持ちを感じさせる。

 と、そこで隣にフェストが立ち並んでいることに気づいた。


「もしかして掃除終わった?」


「ああ、問題なく」


 さっきまで掃除をしていた彼はいつのまにか隣に立っている。流石フェスト、獣人族は伊達ではない。と思うと同時に、ゼクシオは自分の宿題時間よりもそのスピードの方が異常に思えた。


「お前の掃除スピードの方がこえーよ」


「ん?」


「なんでもない。さ、掃除終わったんなら帰ろうぜ」


 その叫びは受け流されたが、終わったのなら取り敢えず帰ることを提案する。しかし、ここで名案を思いついてしまった。


「いや、待てよ。ここに残ってこっそり魔術練…」


「あ、なら俺もここでずっと残って眺めてたいからまだ待ってな」


「おい、俺の宿題が大事だろ?それにラド、お前宿題空白だって朝自慢してただろ!さ、早く戻るぞ、2人とも!」


「「えー」」


「お前らなぁ…」


 フェストは1人苦悩しながらも、なんとか2人の移動を促す事に成功した。


「はぁ、疲れた…」


 チラホラ生徒が戻っている教室に着席をすると、フェストはため息をついた。


「お疲れか?まぁ、掃除めっちゃ早く終わらせたもんな」


「いや、お前”ら“のせいな。明らかにお前ら、2人のせいな」


「そうかいそうかい。それより、宿題教えよっか?」


 ゼクシオは彼の机を覗き込んでニヤリと笑いやる。それにはフェストも押し黙るしかなく、静かに頭を下げた。


「………お願いする」


「任された!」


 そこで再び扉が開いたかと思えば、アフィナが少数の男女と共に教室へ帰ってきた。その中には手にプリントが握られている人物も見受けられ、教室外で何を行っていたか大抵見当がつく。その姿には温厚のフェストも少しの苛立ちを覚えてしまった。


「ッチ」


「あ、切れた」


「切れてねぇよ。舌鳴らしただけな」


「今、アイツらズルって思ったでしょ?」


「いや、別に」


 彼は気にするそぶりを見せずに宿題と再び対峙する。が、ゼクシオが執拗に絡みだす。


「なぁ、ムカつくよな。主にアフィナ、諸悪の根源はアイツに間違いな、イテ」


 フェストを反アフィナ勢力へ引き込もうと肩を寄せ合い耳打ちをするが、背後から頭上に何か衝撃を入れられた。後ろを見ると、憎き少女が澄まし顔で読書をしている。そこで、『お前が確信犯』とでも訴えるかのようにゼクシオは体ごと振り返る。


「……」


「……」


 ゼクシオは必死に視線を合わせようとするが彼女は見向きすらせずに、ひたすら本を見つめた。だが今回は、ゼクシオも流石に精神年齢の低下が否めず、自ら引き下がる形になった。

 体を再び前へ向き直すと、ゼクシオはフェストに迎え入れられた。


「お帰り、今回は偉かったな」


「当たり前だろ、俺は“こう見えても”だいぶ大人。流石に学ぶさ」


「……お馬鹿さん」


 ゼクシオが言い終える間に彼女は小さく、しかし聞こえる大きさで呟いた。

 その言葉に肩をわなわな震わせていると、フェストが起点を聞かせて宿題の質問をすることで、彼女から意識を外すことに成功する。


 それから暫くしてフェストの宿題も終わり、教室には次々と生徒が帰還する。授業時間をこのように使えてしまうのはミデルゼの手腕のおかげなので、己に非がある彼らはいたしかたない。

 そして、最後にミデルゼが教室へ入ることで、掃除活動は終了となった。


「皆さんよくやってくれました。喧嘩があれば互いに掃除をしましょう。心が磨かれ、互いの仲も取り直せます。では、今日の助言。『掃除無くして笑顔無し』!それでは授業を終わります」


「起立、気をつけ、礼」


 ゼクシオの号令と同時にチャイムが鳴り、教室は一気に休憩モードへ入った。


「皆さん、宿題は前へ出してくださいね」


『はーい』


 宿題忘れは再び掃除。今回の提出物はいつもより多く集まったことだろう。と、ゼクシオは思いながら次の時間の準備をした始めた。

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