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異世界大陸  作者: キィ
第二章 魔学舎入門
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第27話「休み明けの現実」

 ゼクシオは今、喜びに満ちていた。セナが家に戻ったからと言っても過言ではないが、正確にはターゲットが帰ってきたと言ってもいい。

 手中に目を移せば、溶けないように氷炎に包まれた氷が存在する。その中身に何を封じ込めたのか、彼以外に知るものはいないだろう。


(ふっふっふ、この氷さえあればセナの可愛い姿が見られるぞ)


 脳内で完全に保存された通学ルートを通っていると、目の前にレルロとカイが立ちはだかった。


「やぁ、ゼク君。何故ここにいるかわかるかね?」


「今日はやけに口調が丁寧ですねレルロ君。一緒に登校したいんですか?もう、恥ずかしがり屋だなぁ」


「ハハ、ってな訳あるか!」


(あ、キレた)


 レルロが何故怒っているか、分からないわけでは無いがゼクシオも先週は忙しかった。きっと、彼も許してくれると言うゼクシオの甘い考えが、彼をこの状態で呼んだのだ。


「ったく、今月の最終日は一緒に遊ぼって約束したのに、毎日毎日無視して逃げやがって!お前の友達への評価はどうなってるんだ!」


 やはりそう来たか、とここまではゼクシオの想定の範囲内。だが、これはゼクシオにとっては不可抗力。魔術と友達、どっちを選ぶかなどとうの昔に決まっている。


「はぁ、何を今更。もちろん魔…」


「ゼク?」


 カイに呼ばれて目を合わせると、彼の目は笑っていない。いつものイケメンフェイスに怒った目、ゼクシオにはそっちの方が怖かった。


「と、友達です…」


「よく言った!ならば、先週は何をしていた?内容によってはゼレカ追放案件だぞ?」


「はい隊長、その…」


 すると、後ろからターゲットセナがやってくる気配がした。


(標的座標後部に確認、ただ今よりミッションを開始する)


 内容は簡単、この手中にある氷をセナに渡すだけ。やることが決まれば話しを強引に区切ってセナの元へと、思ったら向こうから話しかけて来た。


「おはよー、ゼク。それに、みんなも」


「っく、またゼクが最初…」


「まぁまぁ、落ち着いて」


 セナが現れて、彼らの意識が移ったこの瞬間がチャンス。いざ振り帰って走り出す。


「や、やぁセナ」


「おはよ」


「おはよ」


(さぁ、あとはこの手の物を渡すだけ…)


 だが、今日も可愛いセナの顔。本当にこれ以上を望んでしまっていいのか?そんな疑問と何度も対決したが、ここまで来たらやるしかない。


「はい、氷」


「ん?」


「地面に叩きつけて割って見て?」


「えい!」


 すると、その場に氷華の花が咲いた。厳密には内まで霜が通った氷漬けの花、だが美しいことには変わりない。


「わぁ、凄い!」


(そうそう、この顔!やっぱり、セナ成分が足りなかったんだ)


 彼女の笑顔をこの目に焼き付けると、深く、深く深呼吸をして大空を仰いだ。


「ゼク、そのお花は綺麗なんだけど…」


「なんだけど?」


(何か他に不可解な点などあっただろうか?いや、あり得ない。セナの笑顔を見れて、今この場に何が悪いことがある!俺はロリではなく、健全な歳上として歳下を愛でる癒しが欲しかったんだ!あー、可愛い)


 捻くれている。それは、ロリなのでは?だが、そんな心理描写を9歳児たちが読めるわけがない。とすれば、この現状は誰が見てもおかしいだろ。

 何せ、朝の登校時に少女へ氷を投げさせ、そこから咲いた綺麗な花を見つめる少女の様子を隣で覗き込み、挙げ句の果てには動き悶えている少年が居るだから。これは奇行と言わざるを得ない。


「どうして朝にプレゼント?」


「っふ。そんなの、俺が渡したいからに決まってるだろ?渡したい時に渡して何がおかしい?」


「……うーん、そうかな?」


 周りは最初だけ注目を集めるも、今は通常通り登校をしている。客観的に見れば“現在”の様子を見て、季節外れの花以外、何もおかしなことなど存在しない。


「ね?」


「…そうだね。じゃ、学校行こ?」


「ああ!」


 二人はなんの疑問も抱かず登校を再開した。しかし、その姿をずっと、後ろから見ていたものがいる。


「なんだよあいつ、絶対おかしいだろ!セナもセナで何で解決しちゃうんだ!ったく、だからいつも危なっかしいんだよ。全く」


 そうは言いつつも彼の表情はどこか寂しげに、羨んでいる様に見えた。


「レルロ、そう言いながら実はセナと話したいだけでしょ?」


「ふん、」


「全く、君達は難儀だねぇ」


「ほらカイ、あいつらに追いつくぞ」


「はぁい」


 ゼクシオは少女達を愛する為、セナはまだハッキリとした意識が芽生えず、レルロは頑固で意地っ張り。この現状でいち早く成長を見せるのは一体誰なのか。カイは内心そう思いながらレルロの後を追う。



 ****

「えー、今月早々担任が休みかよ!ミデルゼ先生ずっる!」


 教室のお調子者ラドが声を上げると、教室内は次々に罵声が飛び交う。


「どうせまた、甘い物でも買いに遠くまで行って戻って来れなかったんでしょ?馬鹿馬鹿しー」


『そーだ、そーだ!』


「いや、面白い魔物を見つけて森を彷徨ってるかも!」


「もしかしたら、この世の悪に立ち向かってるかも!」


『おー!』


 その声は罵声から謎の推測へと至り、騒ぎが余計に拡大していく。


(おー、じゃねぇだろ。でも、先生って月に何回か休むよな。本当、変な人。それに、この雰囲気。学校ってどこまで行っても学校なんだな…)


 窓際から外を眺めつつ、ゼクシオは深くため息をつく。


「「はぁ、」」


「あ?」


「何かしら?」


 息が重なり、後ろを振り向けば最悪のルームメイト、アフィナと視線があってしまった。


「何もねぇよ」


「あっそ」


 互いに顔を逸らすが、ゼクシオの鬱憤は晴れることはない。


「ったく可愛くねぇの。顔は可愛いのに、態度が鼻につくんだよ。なぁ、フェス」


「あぁ?」


 そうして隣を見やると、ぶっきらぼうに顔をしかめていた少年フェストがいる。本名はフェスト・ルクレン。校内でも有数に存在している獣人族の内の一人だ。犬歯が目立つ、一見トゲトゲした見た目だが、根は真面目で優しく、よく周りを見ていた。普段も大抵は大人しく、その容姿も特に人間と変わりない。

 種族の違いが気になる事と言えば、表皮が少し硬く、力も歴然の差がある。爪先は少し鋭いのでくめり込めば痛いのと、何でも噛んで判断しようとする癖があるくらいだ。噛み癖は、今ではだいぶ自重している。


 と、その間ゼクシオはまだ言い足りないのか、思うことをぶつけていた。


「後ろの人だよ、う し ろ!いつもムカつくよな?な?」


 彼女にも聞こえる声で呼びかけるが、彼は腕を組んで少し考えていた。


「んー、なぁゼク。あいつを嫌ってんのは、お前だけだぜ?勉強聞けば、大抵分かりやすく教えてくれるし、少し冷たいけどみんな平等って感じでさ。な?意外といいやつだぞ?」


「なら尚のこと腹が立つ、ム カ ツ ク!」


 歯軋りをして憤怒を周りに巻き散らす。思えば、最初に彼女を見つけた時、その姿はが孤立して見えた。

 自分の前世に似た雰囲気をゼクシオは勝手ながら感じ取り、同情と言うほどでもないが声をかけた。


 だが、声をかければ避けられ、挙げ句の果てには笑われた。ただ、孤立を防ごうと善意で手を差し伸ばしたのに、だ。

 だが、最初の決め付けは外れた様で、彼女はドライなだけで無感情ではなかった。無愛想なだけで薄情では無かった。


 その様子は次第に孤独ではなく頼られる存在として地位を獲得し、噂によると女子の相談に乗っていくつもの友情を繋ぎ止めたとか。


「だったら俺との友情繋げっての」


 美少女から嫌われる。その結果、生まれた物は心の傷以外の何物でもなかった。が、その態度はむしろ怒りを覚えた。こうして、今や学年の秀才は犬猿の仲と噂される。


「アフィナちゃん、今回の宿題が難しくてさ、ちょっと私に教えて?」


「私も私も!提出まで時間あるし、一緒に教えて!」


「ほらな」


「ムキー!」


 フェストの言った通り、彼女の周囲には輪が生まれる。いい奴、たしかにそうなのかも知れない。だが、心の中では何か煮えくらない違和感が存在する。


「ほらよ」


「えい!せい!どりゃ!」


 だから、こうしてフェストが手を開き、ゼクシオが殴る。これでストレスを発散していた。


(あー、こう言う時にはセナやリゼの笑顔が見たい)


 笑顔ランキング上位の少女たちの表情を浮かべ、ゼクシオは再び殴り込む。


「じゃ、次俺な」


「おうよ」


 いつものパターンなので、瞬時に攻守交代する。


「うりゃ!っは!」


 彼のパンチは年齢以上の力を感じさせ、手加減して貰ってはいるが、かなり手が痺れる。


「相変わらず、すげぇパンチ」


「っは、先に殴らせてんのはそっちだからいいだろ?回数もそっちが2倍の割引付きだ」


「殴り屋かよ」


「お、いいなそれ。殴って金がもらえんのか?」


「違うよ。“殴られて”金を取るんだ」


「人間族のパンチなら楽勝だな」


「言ったな!っは!」


 こうして、いつも空白の朝時間を友人と過ごしていた。一方、その頃


「がーはっはっは!俺様が占う今日のパンッ」


「こら!下品な言葉はダメです!」


「お、またやってんな」


(俺も殴られたい…、違う違う。またガラディーか。懲りないな)


 気づけば今日も、教卓の前では見慣れた別の光景が広げられる。ガラディーが今日のパンツ占いを唱え始めると、学級委員長的立ち位置のクラスリーダー、ミニスが一撃をぶつける。ぶつけられたガラディーは倒れ様に彼女の下へと巧みに滑り込み、じっくり眺め込んで腕を組み


「占い、今日は白か…」


「もう!不潔です!」


 とミニスを赤面させて、彼は腹から追加の蹴りを一撃喰らうのだ。最近は力の入れ具合が上手いのか、痩せ我慢しているのか知らないが、その一撃を涼しい顔して受け流し、攻撃力に点数をつけていた。


「…34点。まだまだ」


 そう言うと満足げに立ち上がり、クラスリーダーに追いかけ回される。その無様で下劣、滑稽な姿から”Cクラの恥“と呼ばれていた。それが功を成したのかなしていないのか、真相は定かでないがゼクシオをパンツと呼ぶのは、今やこのガラディーと相棒のコル以外誰も存在しなくなった。全く、とんだダメンズコンビだ。


(そろそろ別の性癖目覚めてんだろあいつ…)


 自分も彼に少々引き寄せられていることは気づかず、ゼクシオは一周回って尊敬の目で見つめていた。


(流石にあの年で性に目覚めるなんて早いよな。でも、それを貫ける鉄壁の心臓は俺も見習いたい)


「…お馬鹿さん」


 そんな彼らの姿を後ろで眺めながら、一人の少女はポツリと呟く。


「アフィナちゃん、何か言った?」


「いいえ、では次の問題です」


 クラスは担任が不在で騒ぎは拡大。まぁ、普段と比べても変化は薄いが、事態に終息する兆しが見えないのはいけない事だ。そこで、やっと彼らの耳に声が届く。


「こら!いい加減にせんか!」


 一人教室の隅から声を上げると、彼らはその声の主に興味をよせる。


「あ!校長だ!」


「えー、いつからいたの?怖!」


 どうやら、最初にミデルゼの不在を知らせてくれた張本人の存在をクラス中が忘れていたらしい。そんなおめでたな頭の作りに校長と呼ばれる彼は怒りを現にして、叫びの衝動に駆られる。


「最初からおるは!」


「ハゲ頭が怒鳴ったぞ!それ、ハゲ頭!」


『ハゲ頭!ハゲ頭!」


 ラドがいつもの合図となり、教室内では喝采の嵐に包まれた。


(あの爺さん、校長先生は大変だな。まるで最初の俺だ)


 何故子供はすぐに波に乗っかるのか、当然心理は分からないが大抵楽しければいいのだろう。ゼクシオもそれに最近気づき、声は出さないものも、手拍子を送っていた。


「はぁ、ミデルゼはいつもこの相手をしとったのか…」


「はい、その様です」


『は?』


 その会話は教室中を一瞬、静寂に包んだ。奇跡の様に思えるだろうか?だが、この場にいれば大抵の人間が驚きを隠せえない。


「ね、猫が喋ってる!」


「きゃー、もしかしてあれが使い魔?可愛い!」


 彼の肩に乗っている猫が喋り出したのだ。この現象に、一同が更に騒ぎを作り出す。


「こうちょー、触らせて!」


「俺も俺も!」


 そして、生まれた静寂は束の間、その物珍しさに生徒が一気に押し寄せる。ある者は人を蹴飛ばして前へ、ある者は後ろへ引っ張って、集団がそんな事をすればもちろん摩擦が生じる。ゼクシオは使い魔の存在に驚くも、彼らの態度に呆れていた。


「やれやれ、これだからガキは」


「おい、ゼク。なら、何故お前はここにいる?後ろにいてもいいって事だよな?」


「ちょ、フェスさん何の事?」


「前に行かせてもらうぜ」


「裏切りもんが!」


 こうして、ゼクシオも最後尾に回された。が、それで良かったのかもしれない。何故なら、今最前列で争いが起きていたからだ。


「ちょっと、男子邪魔!どいて!」


「は?お前らだろ、このブス!ブスは引っ込んでろ!」


「い、今ブスって言った?ね、言ったよね?このアホ!」


 ネナに向かって放った少年はもちろんラド。彼に対抗するが如く彼女は反撃に出る。だが、ゼクシオから見れば低レベルの言い争いだ。


「全く、これだからガキは」


「今回は珍しく同意ね。あなたと同じ考えは嫌だけど」


「なら来んなよ!近寄んな!てか、お前もあの猫見たいのか?」


「何を言っているの?”あの猫“じゃなくて”可愛い猫さん“でしょ?はぁ、貴方はやっぱり馬鹿ね、お馬鹿さん」


「お、お前。ムカムカ…」


 手を上げ様にも彼女は一様少女。そこまで早まる事は無い。だが、そんな二人を置き去りにする様に、事態はスピードを緩めない。一方では、ラドの暴言をまに受けて、泣き出す少女が出ていた。


「わ、私ブスじゃないのに…、う、ぅぅ」


「ちょっと、コリンダちゃんが泣いちゃったじゃない!」


 ライザが寄り添いながら叫び、別の少女達もその場に近寄る。そして、その内の一人が一言


「うっわ。ラド、キッモ」


 たったそれだけ。だが、ラドは怒りに我を忘れた。ラドはまだ子ども、自分をコントロールする術を知らない。怒りが憎しみへと変わり、それ連鎖から鬱憤を晴らすべく、魔術を彼女目掛けて放とうとした。


「この、俺の言う事聞いときゃいいんだよ!クソ女!」


 ラドはこう見えても魔術に才能がある。周りの子より精度が高い。怒りで声を震え上げ威圧をすると同時に、遂に行動へと移してしまう。怒りを向けられた彼女は恐怖に身をかがめ、目を瞑った。


「まったく、喧嘩はダメですよ?」


 だが、気づけば一瞬で姿を現した一人の男が、片手で彼の魔術を制した。


「アンドレイさん、連絡入れましたよね?私が帰るまでは喧嘩はダメと」


「しかしね、これは難しいよ。それに、連絡は『休暇します』としか来てないよ?通信板を使って直接言ってくれれば良かったのに」


「あれ?そうでしたっけ?ま、私が間に合ったのでいいでしょう」


校長との会話を済ませると、彼は現状に向き直る。


「さて…」


 その男は生徒を一瞥するがその間、誰も言葉を発せなかった。

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