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異世界大陸  作者: キィ
第二章 魔学舎入門
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第26話「開発」

「では、本当にすぐですね」


 リオは意外と気の利いた人物である。最近連絡が入ったかと思えばつい昨夜、『明日から帰り始めるよ、お土産楽しみにしとけ!」と。全く心配性なことだ。家族との再開を待ちきれず随時報告してきた。だが、それは家族にとって嬉しいことでもあった。


「ま、2、3日はかかるからもう少し師匠と修行はできるよ」


 現在は月の最終日、本当に僅かな時間しか修行には当てれなかったが、ゼクシオの才か努力か、あるいはその両方のおかげで、リオを驚かせる為の魔術を習得するまでに至った。


「新たな魔術を覚えただけでも上出来です!」


「でもさ、新しい魔術なんて意外と即席で作ってるじゃん。例えば、こんな風に」


 そう言って、ゼクシオが知りうる情報の中で存在しない魔術を発動した。


「こう言うのを固有魔術って言うんじゃない?」


「それは!正式名称はまだなく最近確認された魔術ですよ?よく発見しましたね。流石に驚きましたが残念、固有魔術ではありません」


「え、違うのかよ…」


 そう言いながら黄色に発火している炎をかき消した。それは即席とは言い難く、独自で密かに発見した数少ない魔術だった。その中でもかなりの自信作なので、全く災難以外の何でもない。


(って、最近確認されてたのをなんで師匠が知ってるんだ?もしかして…)


 デリネアは何故一般には知られていない魔術を知っているのか、賢人の弟子だからと勝手に判断すれば解決するだろう。だが、本当に決めつけてしまって良いだろうか?最近の魔術を知っているという条件を満たす人物がそれ以外の理由ならば、ゼクシオには一つの心当たりがあった。


「最近の?もしかして、師匠は一度“メイナスティオ”に入ったことがあるんですか!」


「さすが少年、魔導書庫の存在を知っていましたか」


 魔導書庫、メイナスティオと言われるその場所は各国に設置されている。大国には大抵存在し、人々にも開放されたその場所は『宝物書館』の愛称でよく使用されてきた。

 一般に、魔術協会が現在確認している情報の全てがそこにあるとされ、現代魔術以外にも古代の魔術など様々な情報が眠っている。


「少年の言葉通り、私は一度魔導書庫“メイナスティオ”に入った事がありますよ」


「いーな」


 叶うことならこの足で赴きたいと願っていたゼクシオから見れば、その過去は何と羨ましい経験だろうか。歓喜に震え、もう一人の人物も思い出す。


「まさか、身近にメイナスティオへ入った人物が2人も居るとは」


「2人?」


「1人目は母さんだよ。学生時代は、よく利用してたんだって。本当に、いつかいってみたいな」


 いつか訪れる日を夢見て深い息を吐くと、デリネアはある提案をする


「少年には少しだけ、私が見知った情報を伝えましょうか?」


「本当に?おねがいします!師匠!」


「いいでしょう」


 情報は少しでも多く欲しいので、願ったり叶ったりだ。その話から様々な様子を知ることができ、とても満足することができた。中でも三層、レベル3の間に入った話しは驚愕した。


「私が入って最後の時、それはグムレフト様に同行していた時でした。そこで、産まれて初めてイルボの間に入る事が許されたんですよ?」


「え、あのイルボに?だってレベル3の情報があるじゃん!すげぇ…、それでそれで?」


「はい、三層の階の内容はご存知の通り『精査中の魔術や、現在で重要度大と考えられる情報』です。先程話した金色の炎はコード名“イガル”。これはそこで知り得た情報です。未だに世には公言されていないので精査中と思われますが、誰もが扱える“新魔術”として判定されるでしょう」


 そう言って、内容をそのまま喋るかのように語った。その内容によれば、『黄金の様に燃える炎。その輝きは闇夜を照らす光にもなり、今までの火炎(フレイム)では燃やし尽くせなかった鉱物を容易く溶かす。ただし、溶解して液体となった鉱物は黄金にあらず。また、意思により効果を与える対象を選べる効果を有する。これは上位魔術”癒炎錦“の効力に通ずるものがある。よって、上位魔術と位置付ける事を考慮しながら精査を進める』と。


(なんかこの人、レベル3の情報フルコピしてるんですけど…)


 その正確な語り様は恐怖を覚え、記憶能力が素晴らしい人物なのかと疑った。


「そんな目で観ないでください、少しだけ記憶を読み解いただけです。この文量ならすぐに引き出せます!」


 胸を張ってそう言うが、記憶の引き出しをゼクシオは1番危険視しているので余計に離れた。


(この人アブナイ)


 一歩、また一歩と離れるたびに彼女も同じ間隔で近寄ってくる。


「逃げないで下さい」


「…わ、分かったよ」


 しかし、よく考えるとここまで怯えてしまえば相手にいじる弱点を晒してしまう。そのは良く無いので、途中で観念して前へ出た。


「…その話しによると、この金色に見えなくも無い黄色の炎は火力が高いってわけではなくて鉱物に強いって事?」


 弱点を誤魔化すと言う意味も含まれるが、純粋に気になったことでもあったため聞いてみた。


「そうですね、純粋な火力なら赤色でも存在しますし“鉱物に強い”と言う特徴なんでしょうね。“イガル”と言う言葉も鉱山地帯で有名なイガル村から取った様ですし、きっと集落で発生した特殊な魔術なんでしょうね」


「そうだったのか」


 すると、彼女が手を叩き話しに区切りをつけた。


「はい、今日はここでお開きにしましょう。直接私の元へ来て、少年も我が師匠グムレフト様に会いたいでしょ?」


 彼女のその言葉にはどこか嬉しさが含まれている様で、頬も緩んでいる。それは、首から下げられている賢人の弟子としての証が証明していた。


「師匠、やっぱりグム爺さんの正式な弟子になれて嬉しい?」


「ええ!」


「いーなー、賢人の弟子。かっこいいなー」


「少年もいつか立派な術師になれますよ」


「師匠が賢人になったら、俺も賢人の弟子になるかな」


「それはまだまだ先の話ですね。取り敢えずは、これからもよろしくお願いします少年」


「師匠!」


 “これからも”、その未来をを見据えている言葉に歓喜し、自分の姿を想像した。これから先、どんな事が待ち受けているか。少なくとも、今この環境はゼクシオにとって幸せに満ち満ちていた。




 ****

 目の前には何度も対峙した扉がある。この扉は、何と言っても術式を組み込まれた魔道具として存在し、様々な実験をしているとかで驚かされてきた。


 時に自動ドア、時に開かずの扉、時に迫りくる扉……。考えても予見は不可能だと悟り、後ろにいるデリネアの存在を意識しつつも、男らしくその扉に手を掛ける。


(さぁ、今日は何が来る!)


 目を凝らしてカッコよく反応しようと心構えたが、特に何も起きる事なく扉は開く。


(あれ?おかしい…、扉が普通だと?)


 扉、そう!これはただの扉なのだ。この場に存在する扉が普通であって良いはずがない、そう認識を変えられていたのだ。


(くそ、擦り込み型の洗脳か?)


 今までの自分が馬鹿馬鹿しかったのか、扉は嘲笑うが如く音を発しながら開門する。そのまま前進すると、身体が何かにブチ当たり進行を止められた。その膜は、いくら進んでも身体がめり込むばかりで、水気も感じさせる。

 その膜に囚われていると、奥から見覚えのある憎き姿が声を発した。


「すまんすまん、解除し忘れとった…。何じゃ、石坊主か。いつも懲りない奴よのぉ」


 この見えない壁は彼が原因の様で、ゼクシオを見るなり哀れそうな顔をした。


「あばくじぼ!ぐぶぎいざんどじばざだど?(早くしろ!グム爺さんの仕業だろ?)」


「何じゃ?耳がわろうてよく聞こえんわ。ホッホッホ」


「あばぐ!(早く)」


「ポチッとな」


 何かのスイッチを押したのか、その言葉と共に水の膜は消滅した。


「何だよこれ」


「師匠、また実験をやっていたんですか?」


 2人して呆れた顔をすると、グムレフトが口を開く。


「その言い方は聞き捨てならんな。わしは今この実験こそが生きがいなんじゃ!あとお菓子も」


「はぁ、たしかに応援はしていますがここは他所の家。メノード様が寛容な方でなかったら今頃追い出されていますよ?」


「ふん、あの坊主は追い出したりせんわ。何せ娘の教育係がこの”わし“だからの、ホッホッホ」


(だからのセナもヤンチャになっているのか…)


 ゼクシオはセナが変容しかけている真髄を見た気がする。


「確かに、事術師育成において師匠以外の適任を探すのは難しいでしょう。ですが、そろそろ自覚なさっては?さもないと、いずれこの部屋自体が魔境と化しますよ?」


「それはまた難儀なことよの。わしが本気を出せば魔境ができると?ホッホッホ」


「笑い事ではありません!」


「安心せい、戯言じゃ」


「はぁ…」


(俺の師匠はまともで良かった)


 この関係を見てそう思わずにはいられない。この老人は時に偉大な姿を見せたと思えば、子供と変わらない無邪気な姿にも変わるのだ。


「グム爺さん。で、さっきのは?」


 笑顔で、そしてにこやかに。心の内に苛立ちを抑えながら質問を投げかける。


「あれは魂色を確認するまでの足かせにしようと思ってな。なに、時間をかければ精度も上がると思って組み込んだまでの事」


「それじゃ足止め用のトラップと同義じゃねえか!」


「ホッホ、罠と同義とな。だが、成果があればそれもまた一興……」


 そう言いながら、目の前の水晶を見つめるが沈黙する。


「もしかして…」


「師匠…」


 哀れの目で見つめると、グムレフトは誤魔化した。


「いいんじゃ、いいんじゃ!実験とはもとよりこのような物、魔道具や術式回路の開発は大変なんじゃ。こんなことで挫けたりはせん」


 言い終わると机の上に存在する紙と向き合い、黙々と何かを記していた。それは、いつも見るありふれた光景。


(根は真面目なんだな)


 その姿を見れば尚、一層努力は大事な事を悟った。


(全く、世の無双主人公にこの世界を見せて物申したいよ)


 生前は努力なしの実力に憧れていたが、今では積み上げた物を感じさせない力が少し空虚に見える。力を求める事には変わり無いから憧れをなくした訳ではないが、少し視点が変わったと言っていい。


「さて、それじゃお披露目と行きますか!」


 気分を改めて、ゼクシオは新開発した魔術をお披露目する。


「何じゃ?また面白い物を見つけたのか?」


 グムレフトは手を一旦止めてゼクシオを見やる。


「ふふーん、師匠!少年を弟子に取らなかった事、後悔しないようにしてくださいね?私の弟子は私より優秀かもしれませんよ?」


 その胸を張る姿は、豊富とは言わずもながらもしっかりとした何かと共に高嶺の丘を築き上げた。ゼクシオ的には120点満点だ。同じく、自分の事を誇ってくれる人物が増えるとここまで嬉しいのかとゼクシオは感じていた。


「おかしな事を、お主は特別じゃ。別に弟子を取ろうとは今も思わんが…、その言葉。相当面白い物を作ったな?」


「見て驚くなよ?爺さん」


 手に意識を集中し、魔術を発動するか前段階へと移行する。


「全く、この部屋をいじらせてもらって助かるの」


 グムレフトは髭をいじりながら余った片方の手で壁に触れると、何かが一瞬で部屋中に巡り、瞬時に舞台が整えられた。


「さぁ、結界は張ったぞ。存分に見せるがいい」


「…キタ!」


 身体中が沸騰するような感覚を覚え、その力を一点に集中する。更に、使い慣れた氷炎を混ぜ合わせるように上から凝縮して、全てを押さえ込んだ。


「ふー、できた」


 そう言うと、手の上に氷の礫だけが残った。中には輝きを放つ何かが閉じ込められており、綺麗な宝石のようだった。


(魔術を氷に押さえ込んだ?これはまた面白い事を)


「…やはり面白い」


「そうでしょ、師匠。具象化できる氷の性質を生かして魔術をその中に閉じ込める、少年が最初に提案したときは驚きましたが、それをわずか数日で再現しました。天才ですよ!」


「そんあ、大袈裟な…」


 周りからよく聞く言葉だが、ここまで太鼓判を押されては当事者として嫌な気が全くしない。むしろ尊敬する師に褒められて嬉しかった。これならば、リオにも至れない魔術なのでは、と。


「石坊主の固有魔術にはそんな効果も備わっていたのか…。面白い、面白いぞ!何故その思考に至ったか、経緯があれば聞いておきたい」


 目を輝かせて礫を見入ると、彼は熱心にゼクシオの話しを聞き始めた。


「俺ってさ、意外と魔術に欠点が多くて、氷炎以外はまだまだって感じなんだよね。だから、雷を操る魔術も直線上にしか操作ができなかった。そこで、この氷に置き換えたら投げる事で手数が増やせるし溶かさないようにこの手で持ち続ければストックも可能。相手は、飛んできた氷から電撃が現れたら驚くだろ?こうやって欠点を埋めようとしてたら思いつけたんだ」


「ふむ…」


 最初の雰囲気とは少し変わり、彼は押し黙った。その様子は考え込んでいるようで、周囲に不安を装った」


「爺さん、これでよかった?」


「危険」


「え?」


「やはり、坊主は少し危険だと言ったまでじゃ。根底から争いを想定しておる。わしは、子どもが戦や争いのためだけに魔術を用いいて良いか迷っておるのだ。お主は賢いがまだ幼い、若すぎる。それ故、不安定で道を踏み外さないか心配じゃ」


「そ、それは…」


 言われたことに間違いはなかった。“足手まといにならない”=自身が戦力になると言う考えは、やられる前にやると言う理念に他ならない。


「と、言ってもまだ分からんか。良いなデリネア、師と心得るならばこの坊主を正しく導くのだぞ?」


「はい、もちろん」


 彼女はそう言うと、真剣な面構えで同意を示した。彼女のゼクシオへの思いも同等だ。


「ふー、あとは当事者たちに任せるとして。ほれ、真面目な話しは終わりじゃ。今は坊主の魔術を“どの様に用いる”かじゃ。わしが新たに見立ててやろう」


 彼は手を伸ばし、ゼクシオに氷の礫を渡すことを促す。


「はい」


 特に断る理由もなく、すんなり手渡したをするが『割るな』だとか『落とすな』と少しの注意を添えた。


「…ふむ、常識ながら具現化しても他者が触れられるか。これは、家庭用に暖房として火を常に置くことも可能かの」


「あ、火は試したけど、まだ氷炎の出力では対抗できなかったよ」


「術者の実力次第と言ったところか」


 手の上で転がしながら見つめ、様々な視点から脳内で考える。


(中の時間経過はどうじゃ?魔術以外でも可能なのか?生きた物ならどうなる?)


 その一つ一つは口にしないが、想像の幅が膨らみ興奮を抑えきれなかった。


「……しょう、師匠!」


「…すまん、集中しすぎた」


 デリネアの声で意識は戻り、周囲を見渡す。彼は今、自分の意識の中に篭っていたのだ。


「気をつけてください。師匠はそうやってすぐ自分の世界に入ります」


 その言葉を聞いたと同時に、もう見る事に満足したのか再びゼクシオへ手渡した。


「それで、なんか閃いた?」


「ああ、発展マシマシじゃ」


 彼の発言を聞いて、可能性への期待が膨らむ。どんな事に発展し、自分はどこまで進化を遂げれるのか。客観的意見は貴重な情報源だ。


「おお!それで、どんなのに使える?」


「そうじゃな、一番実用的なのは…」


「実用的なのは?」


「氷を氷の中に閉じ込めて、溶けない氷を作成するのじゃ!さすれば、アイスが無限に保存できるじゃろ?」


「それは”溶けない“じゃなくて”溶けにくい“だろ!」


 呆れてしまった。ここに来て私欲に走るか、賢人のちえは何処へ行った、と。


「残念じゃの、できんのか。ま、言いたいことは『あとは自分で考えるろ』と言う事じゃ」


 投げやりに答えるその顔は悪意そのものだ。


「そんな…、いや待てよ?」


 一度悲観するも、ブツブツ呟きながら一人で不気味な笑みを浮かべていた。何か新たな閃きがあるのだろうか?

 お披露目の機会は幕を閉じるが、新たな魔術で夢が広がった。

表記に英語既存のカタカナ表記や漢字読みのカタカナ表記の様に区別があるのは、カタカナ表記にする様な地方語が存在する故です。こちらの世界で読みやすい様、聞き取りやすい様、私が翻訳しているので、あまり気にする必要は無いですよ。(一様、注釈を入れました。主の事なので改変が入るかも)

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