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異世界大陸  作者: キィ
第二章 魔学舎入門
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第25話「休息と決意」

(玄関が騒がしいな)


 ゼクシオは寝過ぎたことによって起きてしまった事件、1日の半分を無駄にしたと言う事実から来る虚無感に襲われている。

 そんな力が抜けた状態で口に食べ物を運びながら、廊下の奥から聞こえる声に耳を傾けた。

 よく聞こえないが、その会話には聞き覚えのある名前が度々出てきていた。それにより、無気力で無関心のゼクシオの心の内に少しの光が灯った。


(ん?デリネアって今言った?耳の感覚まで寝ぼけてるのか?)

 こう呟いているものも、フラグを回収しにきてくれるのではないか?としっかり期待はしている。

 こうして、しばらく会話に聞き耳を立てていると、どうやら話しが終わったらしく次第に足音が近づいてきた。声の聞こえる方を凝視していると、廊下からはルザーネの後ろからデリネアが現れた。


「やぁ少年、遊びに来てしまいました」


「師匠!」


 今日一日会えないと思い込んでいたので、喜びはいっきに爆発する。だが、お腹が空いているのも事実でその場からお尻は離れることなく、ゼクシオは飛びつく事なく椅子の上にいた。


「少し近くを通りかかったみたいで、家までわざわざ来てくれたらしいの。ほら、お菓子も頂いちゃった」


 そう言って、手に下げた袋を持ち上げるようにして見せた。袋は大きくも小さくもない。恐らく、訪問のためにあらかじめ用意しておく類の品だろう。


「それにしても、ゼクの師匠がこんなに可愛いなんてね。いつもお世話になってます」


 改めてデリネアの容姿を確認すると、確かに周囲と比べても高位に属する部類だ。

 ルザーネが社交辞令のように普段のお礼を言うと、透き通る声で返答した。


「いえ、ゼクシオ君はとても優秀な子で、私が教える立場になるなんて最初は思ってもいませんでした」


 いつもより凛とした立ち振る舞いは、どこかで見覚えのある美しい姿だった。


「それじゃ座っていって。大したものは出せないけど」


「それでは、お言葉に甘えて」


 そのまま、正面に座る形でゼクシオはデリネアと対峙する。2人は正面にきた互いの顔を見合わせると、自然に笑みが溢れた。それからすぐにゼクシオが口を開く。


「ねーねー、師匠ってもしかして元メイドだったりしない?」


 先ほどの姿を見て、ゼクシオは疑問に思ったのだ。もしやと。だが、彼女の言葉でその真偽ははっきりした。


「その問いは、残念ですが外れです。最初の話題が突然過ぎですが、どうしたんですか?」


「いや、大した理由じゃ無いけど、師匠がうちのメイドさんとなんとなく雰囲気が似てたから?」


「それはきっと…」


 会話の途中で話を遮るように、玄関から再び扉の開く音がした。


「ただいま帰りました」


「お帰りなさい」


(この声はヘレン姉か)


 ルザーネが返事を返してすぐに、その声の主は両手に籠を下げて部屋の中へ入る。その正体は予想どおりメイドのヘレンであった。両手に下げた籠は買い物の帰りを想像させる。


 彼女は最初にゼクシオを視界に入れると一息ついて、次に正面に座る来客と思わしき人物と目があった。その来客であるデリネアに向かって軽く会釈をすると、荷物を下ろしに素早く奥へ移動する。その一連の動作は完璧で至高の域に達し、今やゼクシオにとって全てが目の保養となっていた。


「あの子がさっき言ってた、メイドのヘレン姉さんだよ」


「私と近いのに、しっかりしたメイドさんですね」


「でしょ?」


(今日も姉さんは完璧だ…)


 そこで、ルザーネの声がかかったかと思うと、追加でお菓子が出現した。その中身は珍しい物もあったので、デリネアが持ってきてくれた物も入っているのだろう。もちろん、その殆どは来客のデリネアに向けての物だろうが、ゼクシオは昼ごはんを抜いているので遠慮せずに食べていた。


「ちょっと、それはお客様のものよ」


「いえ、私は少しでいいので少年が食べていいですよ」


「もう、ゼク感謝しなさいよ?」


「ありがとうございます」

 こんな見た目でも中身はかなりいい歳をした男児。普段はこんな真似しないが、今日は大目に見てもらう他ない。

 ルザーネはその後、ヘレンに家事のバトンを渡して同じ席に着いた。こうして、2人にルザーネを交えた3人でしばらく話した。


「デリネアさん、息子がいつも迷惑かけていませんか?」


「いえ、迷惑どころかグムレフト様のいい運動相手になっていますよ。周りの子もつられて、魔術への意欲が向上する傾向が見られるので素晴らしいと思います。それに、私もぜクシオ君に日々刺激を貰っているので感謝しています」


「それならよかったわ。この子、賢い様でよく騒動の中心にいるでしょ?だから少し心配で」


「まぁ、その事実も否めませんが」


「やはりそうなのね!」


「俺はあんまりやってないよ!」


「「あんまり?」」


「………」


 その後もゼクシオの話が中心に進む展開が多く、かなりの時間が経過した。その間、何度もゼクシオは肩身が狭くなったがお菓子でその場をやり過ごした。


「そろそろ時間ですので、私はここで帰らせて頂きます」


「ええ、今日は来てくれてありがとね。楽しかったわ」


 話しに区切りをつけると玄関までデリネアを送り、別れの挨拶を交わす。


「それでは失礼します」


「気をつけて帰ってね」


「師匠また明日」


「ええ、また明日」


 3人で見送った後、入れ違いのようにアメルとレイアが帰ってきた。


「皆んな玄関で何してたの?」


「今日、お兄ちゃんの師匠がお家に来たのよ」


「えー、見たかったな。どんな人だった?」


「にーちゃんの師匠!」


「白髪で美しい人よ」


ルザーネが情報を提供すると2人は目を見合わせて頷いていた。


「「さっきの人だ!」」


 家には再び賑やかさが戻り、全員で奥へ移動した。



 ****

「お兄ちゃんは魔術が上手なんだって」


「さっすが私の兄ちゃん!」


 家では晩ご飯の時間に、ルザーネが今日聞いた話しを下の兄妹に話していた。


「僕も早く魔術使いたいなぁ」


 アメルが胸を張ってゼクシオの存在を誇っていた。対してレイアは、当初のゼクシオのように話しを聞くたびに魔術への思いを募らせている。


「レイ、魔術を早く使いたいなら一緒に練習するか?」


「いいの?」


 ゼクシオが提案すると、レイアは反応を伺うようにルザーネ見つめる。ルザーネは周囲を見渡すと、頷きながらこう付け足した。


「そうね、アメルも早かったし問題はないのかもね。でも、お父さんが帰ってからの方が安全だから少し待ってね」


「やった!」


「よかったなレイ、俺の時はすぐにとはいかなかったぞ?」


 この世で覚えている記憶は5歳からだが、当時はルザーネが1番魔術の習得を反対していた。アメルは自然に覚えたからいいとして、レイアはまだ3歳だ。


「それは、私たちが近くにいない時に助ける人がいなかったからよ。でも、今は貴方達やヘレンちゃんもいるから少しは安心ね」


 そう言ってもらえてアメルは喜んでいた。


「レイ、なんかあったら姉ちゃんにすぐ言いなさい?魔術も教えるし、悪い子はすぐに退治してあげる!」


「退治ってお前なぁ」


 アメルは早期から魔術が扱えたことにより、魔学舎でもゼクシオ同様に噂になっていた。もちろん、リオの子としての評価も多少は含まれるが、この村でそれだけを気にする人々は少なかった。つまり、ほぼ実力の評価でゼクシオの耳にまでその話しは届いていた。

 例えば、学年内で悪さをする子は、皆例外なくアメルにやられて大人しくなるだとか。


(なんかティアリスに似てきてるような…、アメルも姉御肌になるのかな?)


 そんな心配はするものの、レイアは強気な姉の姿を見て安心しているのは事実。1人で悩むことなど愚行だと思い、悩みを置き去りにして再び会話を聞いていた。


「レイはどんな魔術が使いたい?」


「んー、にーちゃんの青い火とか、ねーちゃんの真っ赤な火がかっこいいな」


「レイ、俺のは氷に近いよ」


「どっちも変わんないよ!」


「でも、パパの魔術を見ればきっとレイは『パパみたいになる』って言い出すわ」


「それは間違いねぇ」


 森で見たリオの魔術、その光景は今でも目蓋の裏に焼き付いている。実際ゼクシオも真似ようとしたし、レルロだって憧れている。英雄と呼ばれるなら他の人々にも憧れの対象とされている事を容易く想像できる。


「パパになるのもいいけど、自分の身を第一に考えないと魔術も使えなくなるわよ?」


 ルザーネとゼクシオの目が合うと、ゼクシオが一方的に目を離そうとする。


(面目ない…)


 憧れに身を委ね、一心に練習を積んでも身体が拒否を示せば全て無に帰す。言葉に表したぐらいでこの事実は伝わる筈がないが、ゼクシオの過去にはこの言葉で十分反省できる出来事があった。


「本当、グムレフト様とデリネアさんには感謝しても仕切れないわね」


「本当に…、はい」


「にーちゃんどうしたの?」


 レイアはまだ幼いので、今までのゼクシオの容態もハッキリと理解はしていなかった。ので、この会話はあまりよく分からない状態だった。


「兄ちゃんは勝手に魔術を使ってちょっと怪我したの。だから、大好きな雷魔術をお化けがとっちゃったの。レイも気をつけないとお化けが魔術を取っちゃうぞ!」


「それはダメ!」


 だから、こうして全てお化けに押し付けて一旦理解させている。子供は矛盾だらけの理由でも信じてしまう癖があるので、初期に安全面を気をつけさせるにはちょうどいいだろう。怪我をしたくないと言う思いが強くなりすぎて、臆病な育ち方をする子もいるようなので、全てお化けのせいだと思い込ませすぎるのはナンセンスだ。そこで、教育の過程は重要となるので家族の力の見せ場だといえよう。


 因みに、実際ゴーストが存在すると聞いた時はゼクシオも背筋が凍った。


「でもね、守りたい物があるときは無理してでも守るのよ?ルールや決まりは守るべきものであっても絶対じゃ無いの。普段は我が身を大事に、そして、いざと言うときはその身体で他を守る」


「だったらアメルは家族を守る!」


「ぼ、僕も!」


「便りにしてるわね」


(俺も次は守る立場になってやる)


 ゼクシオはその場で宣言をしなかったが、誰よりも強い意志を心の内に秘めていた。


 ”二度と足手纏いにならない“


 これは守られる側が足手纏いだとか、邪魔だとか言っているわけではない。ただ、あの日の自分の無力さが理想とあまりにもかけ離れていた事に怒りを覚え、次危険が及んだとしても動けるように自分に戒めた最初の決意でもあり、目標だった。

最近、語彙力が低下しているなと感じました。個々の作品で内容に差が現れるのは情けない、、、。

もっと精進します!今日も見てくれてありがとう!

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