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異世界大陸  作者: キィ
第二章 魔学舎入門
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第22話「得意不得意」

「少年、仕方ありません。人には得意不得意があるのです。今までは素質で出来たようなもの、同年代の子に比べたら凄い実力ですよ?努力も沢山してきたと思いますが、最初からできるのは稀です」


「はぁ、本来はそう言うもんだよね」


 コツさえ掴めば魔術など同じものだと思っていたが、確かに苦手な物や使えない魔術もある。ゼクシオも青系統の魔術はからっきしダメで、少し強化が出来るぐらいだった。


「あーあー、なんでもすぐに出来たら良いのになぁ」


「確かに、そう思う事もあっていいと思います。ですが、努力のいらない世界になれば堕落する一方。目標が身直にあるからこそ、偉大な目標を達成することができるんですよ?」


「確かに、英雄になるにも目の前の敵を倒すだけじゃダメだな。スマートじゃないし、カッコよくない」


「ええ、きっと英雄と呼ばれる彼ら、少年のお父様も苦労はしている筈ですよ?」


「食べないと、父さんも死んじゃうしね」


「生きるために、1日を確保するのも大切な事です」


 休憩をし終えたゼクシオは立ち上がると、再び意地の練習を始めた。


「やる気が凄まじいですね」


「おう!」


 活力を取り戻すと、修練に必死で打ち込んだ。



 ****

「ただいまぁ」


「おーかーえーりー!」


 奥からアメルが飛んできて、首にしがみついた。


「おげぇ、苦しいよ、離してくれアメル」


「お帰り!」


 力を緩めて上を見上げてきたので、アメルを押し除ける力を弱めると返事をした。


「ただいま」


「にひひ」


 やけに今日は嬉しそうで、顔からニヤケが止まらないアメルにゼクシオは疑問を持った。


(今日は何の日だっけ?誰かの誕生日でも無いしなぁ)


 記念日は大切にする精神を持っているゼクシオは、相手に失礼が無いようにひとまず頭で考えるが、何も浮かんでこなかった。


「何か、いいことでもあったのか?」


 悩み込んでも何も産まれないので、結局口にすると失礼はなかったようで、アメルは笑顔で答えた。


「来週には、パパ帰って来られるって」


「おお!もうすぐじゃ無いじゃ!」


 嬉しい朗報を聞いて、ゼクシオはアメルと仲良く家の中へ入った。


「お帰りゼク」


「ただいま、母さん」


 ルザーネはどうやら料理中で出迎えが無かったらしい。ヘレンもレイアの相手をしていたので仕方ないらしい。そんな光景を見ていると、ヘレンも少しは柔らかくなった気がして微笑ましい気分になった。


「お帰りなさいませ」


 だが、ゼクシオが来たことに気づくと一礼して、再びレイアの相手をしに戻った。


(さすがメイド、律儀だなぁ)


 前世では、ずっと忙しなく動いているイメージだったがこうしてゆっくりする時間もあるらしく、家で無意識にブラック会社を経営していなかった事に安心しつつ、ゼクシオは自分の部屋へと向かった。

 部屋には日が過ぎるごとに葉が落ち、一ヶ月毎に生え変わる木が内包されているオブジェ、日砂芽時計が置かれており、残り少ない今月の日数を表している。先程聞いたリオの帰還情報を思い出しつつカレンダーに向かい合い、これからについて考えていた。


「今日は水間日。もう残り4日で10月か。時が経つのは早いなぁ、もう入学してから2年半程か」


 拳を握りしめて、魔術の感覚を思い出しながら様々な出来事を思い出してみた。


 まず、記憶が覚醒してから右往左往。どこに来たのかもはっきりしないままひたすら情報収集した。すぐに沢山の友達ができて遊んでいたら、いきなり魔物騒動に襲われた。あれは人生であまり体験したく無い出来事だったが、お陰でカッコいいリオの姿が見れた。元からあった魔術へのやる気も相まって、入院中でもひたすら練習し、冬の魔災中に突然魔術が使えるようになった時は驚いた。あの時は、みんなうっかりさんで大変な目にあったが、今ではいい思い出となった。


 魔学舎に入ってからは、前世のように勉強をしながら魔術の練習。未だにサボり癖は抜けないが、必要最低限の課題には取り組んでいる。低学年も早2年が過ぎて、来年では半分を跨いだ四年生。楽しい日々が多いこの世界では、時の流れが前世よりはるかに早かった。


(そうなってくると、父さんとの再会で俺が魔術を披露するのもいい思い出になるように、ギア上げなきゃな!)


「ゼク、ご飯の準備するわよ。手伝って」


「はーい」


 呼ぶ声がしたので、カレンダーに書き込みを入れてからリビングへ向かった。

 部屋に向かうと、ヘレンは周囲の片付けに出たのか中に見当たらず、ルザーネはアメルと皿を運んでいた。


「ゼク、そこにあるもの運んで」


「はーい」


 ヘレンが部屋に戻る頃には全て運び終わり、席に着いたら食事が始まる。


「頂きます」


『いただきます』


 レイアが一人で食事ができるようになっているのを見ると、時が流れるのも早いと改めて思いつつ、料理を口に運んだ。


「ゼク、さっきお父さんから連絡があって、来週には帰れるらしいわよ」


「らしいね、さっきアメルから聞いたよ」


「あら、だから飛び出して行ったのね」


「うん!」


 元気に答えると、アメルは勢いよく料理を口にかき込んでいた。


「パパどんな人?」


 レイアの言葉を聞いて家族全員が考え込んだ。それぞれ久しぶりの再会で楽しみにしているのだ。もちろんレイアにリオの記憶は無いが、写真で姿ぐらいは見ているので気になっていた。


「いい人!」


 アメルが真っ先に告げると、ルザーネも後を追うように言った。


「そうね、パパは強くて優しい人よ」


「父さんの強さはキングビースター並だぞ!」


 そんな言葉を聞いたレイアは、まだ見ぬ父親像に期待の胸を膨らませていた。


 食事を終えた後、一通りする事を済ませて今は部屋決めの話しをしていた。


「そろそろ変えようと思っていたけど、部屋替えするわよ」


 リオが帰って来るので急遽、部屋替えをするようだ。と言っても寝室を決めると言う内容で、ゼクシオとアメルが寝ている部屋にレイアが来るだけの事。今では子供部屋のような形になっていた。


「よし、明日ゼクたちのお部屋にレイの机を置きましょうかね」


「やった!」


 机を貰えると聞いて、レイアははしゃいでいた。ゼクシオが初めて部屋を見た時は既に机が置かれていたが、アメルの机を作る現場を目撃しているので、これから起きる出来事は大体想像がつく。


「明日机を作るから、部屋少し片付けておいてね」


「「はーい」」


 そう、この家では住人が机を作れるので、コストは実質ゼロ。ルザーネは青色に長けており、日常生活の痒いところによく届くのだ。

 と言っても、大きめの木片を作り出し、リオがそれを加工するのが基本。今回はどうするのだろうか。


「ねぇ、父さん居ないのに誰が加工するの?」


 ゼクシオが疑問をそのままぶつけると、ルザーネは笑顔で答えた。


「なんと、ヘレンちゃんは風の魔術が上手そうなの!だから、少し手伝ってもらおうと思ってね。もちろん、今回の主力はゼクよ?」


(ゲェ、工作苦手なんだけどなぁ)


 美術の才能に関して言えば凡人並、そこに不器用さも重なって、実戦授業での創作は苦手としていた。唯一誇れてのは折り紙で、説明書一冊は制覇したぐらい。これは、不器用直しのために小5で励んだ出来事だったが、今はレイアやアメルとの遊びぐらいしか使えなかった。つまり、丁寧な作業はなかなか堪えるのだ。


(それに、明日は朝からデリネア姉…師匠のところに行くつもりだったのに。早く終われるかな?)


 そんな事を考えつつも、取り敢えず返事だけは返しておいた。


「よし、明日早速作るわよ!」


『はーい』


 一人少し憂鬱気味に返事をして、このまま明日を迎えることとなった。


「なるほど、道理で部屋が異常に広い訳だ」


「突っ立てないで早く片付けようよ」


「はいはい」


「返事は一回ってママが言ってたよ?」


「はいよ」


(最近、妹が異常にしっかりしているのは気のせいだろうか?)


 そんな疑問を抱きつつ、ゼクシオは部屋の片付けに取り掛かった。


(意外と散らかって無いんだよなぁ)


 前世を思い出し起こせば、部屋は汚い訳でもなかったが、綺麗と呼べるほどでもなく、使ったものは1週間サイクルで机に出しっぱなし。片付けても新たに物が置かれ、もはや模様替えを行っているようなような環境だった。


(アメルが綺麗好きでよかったな)


 アメルはしっかり者で、出した物はきちんと元の場所に戻し、部屋は綺麗に片付いていた。今行っているのはスペースを開けるために置き場を変える程度の作業、なんとも楽な作業だ。


「よし、終わりっと」


 部屋の整理を終えると、もう寝る時間になっていたので、日課になった魔術の基礎練習を行う為、少し外に出た。


「ちょっと外出るねぇ」


「気をつけるのよ」


「はーい」


 外へ出ると、魔道具で灯りを灯された夜の村が昼とは違う顔色で佇んでいた。夜が深くなるにつれて灯りも薄くなるらしく、今は薄らと最低限の光を発していた。


(ほんと、村って言うより住宅街に近いよな)


 この景色も見慣れたものだ。村の外には小型の魔物以外は殆ど寄せ付けない結界が張られており、常に安全なこの地。

 この村内に立地できなかった畑などにも結界は張られており、この世界では重要な役回りとなっているらしい。それは各家庭にも規模に見合った物が存在していて、少し意識して見るだけでもかなりの気づきがある。


「今夜も魔術の練習ですか?」


 こうして村中を眺めていると、外には花壇の手入れをしているヘレンが存在に気づいて声をかけた」


「そうだよ。そう言うヘレン姉さんは庭の手入れ?」


「はい、今日も少し小型の魔物が侵入したらしく、少しでも綺麗にしようかと」


「いつもありがとね」


「いいえ、半分趣味でもありますので」


 そう言うと、夜に萎んむ花などを見つめながらも楽しそうに土を整えていた。


「はっ!」


 ゼクシオは1人で魔術を発動させると、その小さな規模を少し上げていつもの維持練習を行う。


「治ったのは本当のようですね?」


「うん、師匠は本当にすごいよ!」


「流石、グムレフト様と一緒に居られる方ですね」


 昨夜、ゼクシオは全てを伝えているので、ヘレンも事情は聞き及んでいた。


「やっぱり、グム爺さんは凄い人?」


 周囲の評価が気になり、ヘレンに聞いてみた。彼女なら、なんでも答えてくれる気がしたからだ。その考えは当たり、彼女は自分の知識を伝えてくれた。


「ええ、私も彼のお話は何度も聞いたことがあります。“放浪のグムレフト”、十騎士の名家として産まれるも騎士としての道を全て捨て去り、世界を渡り歩いた方。弟子は一度持つもそれ以来、一度も正式な弟子を作らず、世界各地で人々を苦しみから解放した素晴らしいお方です」


「だったら、デリネア姉さんもやっぱり凄いの?」


 質問攻めになる形でゼクシオは質問するが、ヘレンは嫌な顔一つせずに答えてくれた。


「ええ、正式な弟子では無いと昨夜聞き及びましたが、ゼクシオ様の件で弟子として認められるのであれば、これから世界中で名前が轟く事になるでしょう」


「それだけ、賢人とその弟子は凄いんだね」


 これからそんな事が起きるとは実際思えず半信半疑だったが、夢見た英雄の姿に二人を重ねると、それはとてもカッコよく見えた。


「賢人とは、世界に認められた人の証。生い立ちなど関係無く、その者の生き様で本質が評価される。と、私は解釈しております。ですから、そんな方が選ばれるデリネア様も偉大な方に違いないでしょう」


 彼女の言葉には謎の説得力があり、納得させられた。


「それより、手元が厳かですよ?」


 気づけば意識は掻き乱れ、魔力が分散しかけていた。


「あ、やべ」


 結局そのまま消え去り、体力が失われただけだった。


「私は魔力操作に少々自信があります。分野は違いますが、少しだけお付き合いしましょう」


「おお、まじで?助かるよ、ありがとう!」


 今後の幸運を願いつつ、ゼクシオは今日も練習を行った。

if作品を掲載されていただきました。シリーズ化させたので、気になった方は是非。茶番多めで本編への絡みは少ないと思うので、見なくても構いません。

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