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異世界大陸  作者: キィ
第二章 魔学舎入門
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第21話「初修行」

「今日は何をしに来たのですか?」


 デリネアは椅子に座ると、今回の目的を尋ねて来た。


「もちろん、昨日の続きでしょ?」


 デリネアは昨日、ゼクシオにリオが来るまで師匠になると言ってくれた。それも、電撃を操る魔術の練習に付き合うと。今まで絶望的だった魔術の復活により、以前より前向きな姿勢でこの家までやってきたのだ。


「昨日の続き?」


 デリネアは首を傾げて考えていた。彼女は元々名目として付き合うと言っただけで、目的は最終試験の合格。そのことを思い出すと、慌てて首を横に振った。


「私なんかが師匠の立場になる資格なんてありません。私は利用しただけなんですよ?修行だって師匠につけて貰った方が…」


「それはそれ、これはこれ。姉さんなら、俺の治療をしてくれたから安心できるし、一度決めた事をなるべくやり通すって決めてるんだ、俺」


(そう、今回の人生は努力を学んでいる気がする。今まで決めて来た事は殆ど達成できてる。魔術の克服や魔術の上達だって、強く願ったから叶ったんだ。男として再び生きるなら、筋を通して生きると言うのも憧れだし、英雄という地位にも魅力がある。とりあえず、目先の話から俺は男の筋を通すんだ!)


 まだ数年だが、ゼクシオにとってはもう数年だ。この短い期間でも学んだことはある。ロマンの塊も沢山見つけた。ゼクシオでもやる気を起こすには十分過ぎる環境を与えられ、前世よりいい方へと成長していたのは言うまでもない。


「師匠、今日はよろしくな」


 手を差し伸ばし、同意を求めた。デリネアは少しグムレフトへ視線を向けたが、拒否するような態度ではなかったので、その手を取って承認した。


「では、僅かな期間かもしれませんが少年の師匠になってあげましょう」


「デリネア姉さんの初弟子かな?」


「ですね」


「やった!」


「少年は本当に不思議な子ですね」


 元々グムレフトとゼクシオも正式に師弟関係になってはいないが、ゼクシオはそれを堪能していた。今回の関係も喜んでいるゼクシオは、新たな師匠とともに初修行に向けて外へ出た。



 ****

「では、昨日と比べて変化がないか確認するので、同じ魔術を放ってみてください」


「え?でも、それじゃまた馬鹿でかい音が…」


「ええ、ですから私に向かって放って下さい」


「まじで?いいの?」


 今まで聞き飽きるほど魔術を賞賛されていたので、自分に自信を持っていたゼクシオは、威力も中の下程度には出ていると思っている。

 ゼクシオ基準では下の下は使い始めの威力、下の上で既に、致命傷を与えられる程の実用的な魔術の標準威力だった。


 中の下だと凡人より上の威力、初期段階ではミニ無双ができる程の実力だ。

 もちろん、デリネアは賢人であるグムレフトの弟子志願者。賢人がどれほど凄いか測りかねるが、中の中程の実力はあると思っている。


 しかし、同じ中のわくにいる人物同士での実力差は時に上回ったり誤差があったりする。

 流石にゼクシオも最初から怪我をされては困るので困惑していた。だが、デリネアは自信満々に胸を張っていた。


「心配御無用、私は少年の魔術でやられたりしませんよ。安心して放って下さい」


「なら、遠慮なく」


(先生以外に、思いっきり放っていいと言われたのは初めてだ。グム爺さんの時も割とガチでやってたけど、それでも自粛はしてたさ。これが、久々に放つ全力の威力!)


 腕を伸ばして手中に電気を貯めるイメージで電流を発生させると、泥団子を丸めるように魔力をじっくり込めて濃ゆい色の魔術が完成した。


「これ程とは、さすが少年ですね」


 色別の魔眼を既に開眼し、青色に染められた瞳でゼクシオを見つめると、感嘆の声が漏れた。


「魔力の巡りは良好です。では、純粋に色の濃ゆさを見てみるので、そのまま待機して下さい」


「はいよ」


 初期では維持する事も難しかったが、氷炎なら最長10分維持できるようになっているので、電撃も数分なら耐えれるだろう。時間も少しあるようなので、待つだけではつまらないと思ったゼクシオは更に魔力を込めた。


(もっと、もっと、もっと!)


 電気音が次第に大きくなっていき、ゼクシオも耐えられるギリギリの規模まで拡大していった。

 まさか、僅かな2日でここまで扱うことができるとは思っていなかったため、興奮を隠しきれずに身体が震えた。


「へへ、こりゃ凄いわ」


 自惚れと言っても差し違え無いが、今はそれ程に巨大な規模となっていた。


「姉さん、そろそろいい?」


 ゼクシオはそう聞くと、赤い瞳に変色したデリネアは押し黙っていた。


「ねぇ?」


「あ、はい。もういいですよ」


 瞳を元に戻すと同時に返事が返って来たので、ゼクシオは遠慮なく雷電の玉を撃ち放った。


「いっけー」


 轟音が遅れてついてくるほど、その速さは一瞬だった。手から弾けば、一瞬でデリネアの目の前に姿を現した。


(ヤバイ)


「逃げて!」


 そう呼びかける暇もなく、ソn魔術は彼女を襲った。襲ったのだが、彼女は無事にその場に立っていた。肉眼で確認できる範囲ではそう見えたのだが、彼女は無傷。魔術が通った後に抉れた地面があるだけで、彼女の前ではその現象も止まっていた。


「だ、大丈夫?」


 詰め寄って声をかけると、彼女は涼しげな顔をして答えた。


「はい、大丈夫ですよ。少年は上達が早いですね、私も驚きました。ですが、これからも精進する事を忘れないように」


「了解師匠!でも良かった、無事で。いきなり師匠を倒したら弟子になる意味無くなっちゃうからね」


「私を舐めてもらったら困ります。そんな弟子には魔術維持15分の刑を課しましょう!」


「えー、俺ができない範囲知ってて出したでしょ?」


「問答無用です!さぁ、よーい初めて!」


「っは!」


 手慣れた氷炎を瞬時に発動して、その要求に応えた。

 瞬間的な発動は戦闘において必要不可欠だと仮定しているゼクシオは、自称意識高い系魔術師として修練しているので、得意な魔術ならお茶の子さいさいなのだ。ただ、今回は時間が問題なだけで……。


「まだ2分か。くそ、今回は20分行ってやる!根性ー」


 粘りに粘って耐え忍んでいた。


(まったく、いくら親が得意で影響されてたからって、この成長速度はおかしいですね)


 普通に見れば、親を目指して努力する可愛い少年以外の何者でも無い。ただ、中身が17歳分の記憶があるだけで、いたって普通。しかし、今回の魔術だけは説明できない程の威力とスピードを秘めていた。


(威力は恐らく、英才貴族たちの中では中級者程度。スピードも魔術属性的に考えれば納得がいきます。ですが、私が咄嗟に対応しなければならない程の……)


 魔術で抉れた地面を再生しつつ考え込んでいたが、ゼクシオの姿を見れば無邪気で元気な少年なので、今は暖かく見守る事にした。




 ****

「クッソー、いい感じだと思ったのになぁ」


 魔術維持は最長記録の10分を越して20分新記録を叩き出したゼクシオは、疲れ果てて地に寝そべっていた。何故、悔しがっているのかと言うとヘーゼルは楽々で30分はいくからだ。


「お疲れ様です。記録更新ですね」


「マジ疲れた。あー、水が…」


「どうぞ、お水です」


「サンキュー師匠!」


 気を聞かせて水の準備をしていたデリネアは、水の入ったコップを渡すと飛びつくように起き上がり、ゴクゴク勢いよく飲み干していた。


「あのぉ、おかわりお願いしても?」


「そんなに遠慮しなくてもいいですよ。私はまだまだ疲れていないので」


「助かるよ師匠〜」


 水を生み出してコップに注ぐと、再び勢いよく飲み干した。結局四杯飲んだところでお腹を冷やし、トイレに駆け込んでいった。


「今まで姉さん呼ばわりだった私も、いきなり師匠呼ばわりですか。突然の師匠呼びは、私そっくりですね」


 その姿を見送りながら、デリネアは昔を思い出して小さく笑っていた。その後、トイレを済ませたゼクシオは帰ってくると、早速修行の続きを始める。


「では、電撃中心の練習なので次は発動練習と、同じく維持練習、後は操作練習ですね」


「っは!」


 言葉を聞き終わると、早速発動のために行動に移した。だが、約5秒遅れで発動した。


「意識して発動すると、以外に遅いんだな」


「焦らなくてもいいですよ。でも、そうですね。さっきも5、6秒はかかっていたの思うので、発動時間の差異は僅かですが、危機回避としての利用は使用不可ですね」


「使用不可か…」


 分かりやすい落胆の仕方で、やる気を損なわせてしまったと思ったデリネアは、すぐに他の長所を伝えた。


「そこまで落胆しなくても。あ!そういえば、さっきは色の質が凄かったので、威力は凄いかもですよ?」


「おお、そっか。威力はロマンだよな。うんうん」


 気分をすぐに持ち直したようで、ひとまず安心した。


(師匠、師匠は言葉選びにも気をつけなければならないんですね)


 デリネアは師匠としての新たな困難を発見して、これからは注意して言葉選びをする事にした。


「では、次は維持練習。と言っても今は確認しているだけですので、取り敢えずは3分で妥協ラインとしましょう」


「3分なら楽勝!」


 再び発動すると、きっかり3分でその確認を終えた。


「こちらは問題無しですね。色を込めるのが得意なら維持も問題ないでしょう。では、最後に操作ですね」


「操作か。具体的にどうするの?」


「では、ここまで飛ばしたら私の指示に従って操作をしてみて下さい」


「了解」


 デリネアが示した範囲までを目安として、魔術の狙いを定め始めた頃、デリネアは疑問だった事を聞く。


「少……、弟子よ、了解ってなんですか?」


 なんだ、そんなことかと思うように、ゼクシオは今考えて答えた。


「ん?それは、師匠は上司で俺が部下みたいなもんだから?」


「それは分かるようで違うような……」


「ま、ノリだよノリ。意味や理由はないから受け流しておいて」


「やはり、少年は面白いですね」


 デリネアのちょっとした疑問も解決したようで、遂に最終確認が始まった。


「はっ!」


 相変わらず発動は少しかかるが、魔術維持に問題は無し。後はどこまで操作が可能なのかだ。取り敢えず先程のように勢いに任せては、操作外の範囲までそのまま飛んで行きかねないので、少し抑えて放出した。

 まずは真っ直ぐ示された範囲まで動かせたが、ここからが重要。直線的な攻撃だけでは、スピードの力押しが効かない相手には愚作となり得る。ゼクシオはここで、テクニカルな戦術の幅を広げたいところだが……


「右上」


「ありゃ?」


 操作は上手くいかず、前へ進むか後ろに戻るか、停止するかの3パターンのみの動作しか行えなかった。


「下、右上、左、後ろ」


「ほい、ホイ、ほいのっは!」


 身体全体を使って起動イメージをするが、最後の指示以外全て前後していた。


(うそーン。マジカルマックスだろ)


 そのシュールな光景は、呆れを通り越して笑いになってしまった。


「少年、落ち込まなくてもいいんですよ?今は長所を伸ばしていけばいいのです。基礎練習をすれば苦手も少しずつ治るはずなので、さっきのようには…」


弟子の落胆を危惧したデリネアは教えを諭すが、今回はその必要はないようだ。


「あ、アハハ。大丈夫、そんなの笑うしかないよ。アハハ…」


 口ではそう言っても、諦めきれないゼクシオは何度も挑戦するが、魔術は前後するだけだった。

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