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異世界大陸  作者: キィ
第二章 魔学舎入門
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第19話「光の竜と優しい騎士」

 今思い出しても鮮明に覚えているそれは、突然の行為だった。


(俺って今までキスされた事あった?)否。


(キスって普通、好意を向けない相手にする?)否。


(異世界人ってホイホイ頬にキスする人種だっけ?)否。


(じゃあ、デリネア姉さんは俺が好きって証明になる?)否。


(あー、もう!人間って訳分かんね!何なの!ラブコメ主人公は今までこんな深い読み合いを勝ち抜いてきたの?俺は人類の負け組か!あ、そうでした…)


 この少年ゼクシオ、愛称ゼクである彼は今、ベットの上でバタバタ足をバタつかせながらアホな事を考えていた。


「兄ちゃんうるさいよ?アメルももう魔学舎に行く年なのに一緒に寝れて嬉しいの?」


「うぅ、否だよ。否なんだよ。全て否なんだよ!何なんだよ人を想う気持ちって!」


 深い奥底に潜った彼は、助けを求めるため妹に手を伸ばした。


「兄ちゃんが誰かを好きって事?」


「察しの良い妹よ!好きとは何だ!頬にキスされたら好きなのか?」


 彼は混乱していた。何せ前世では恋愛をラブコメでしか勉強できていない為、世事情など、一般論など持ち合わせていなかった。


「物語のお姫様で内気な少女は王子の頬にキスをするよ?」


 アメルは兄の影響で読書家(現在は物語中心の絵本)になっていた。ゼクシオがラノベの影響+世の中の情報収集を兼ねた行いと言う理由で読書家になって本を読み漁り、小さいころから妹に読み聞かせも行っていたため当然である。

 現在、彼女の夢は物語のヒロインの様なロマンティックな恋をする事、その知識は既にゼクシオをも凌駕するものになっていた。自分に盲目になった彼は、妹の言葉で確信する。


「それだぁ!俺が王子だとしたら姉さんは姫で…。ってやっぱりそんな事無いよなぁ。9歳のガキに恋する高一ってショタでも無いだろ…、無いよな?」


 1人で自問自答を繰り返す事数百数千回、アメルは日課になっている兄の読み聞かせ時間が来ないことに腹を立てて、ぶっきらぼうに声をかけた。


「兄ちゃん!はーやーくー!今日の絵本はどれなの?」


「ああ、そうだな。読み聞かせは大事だな」


 彼女の言葉で現実に引き戻された彼は、自分に言い聞かせて今は昼の出来事を隅に置いた。日課となった読み聞かせは既に中毒症状の様な物になっているから、優先度はこちらが上なのは必然である。


「今日は『光の竜と優しい騎士』にしようかな」


「えー、それ先週読んだー」


「いいじゃ無いか。悲しいお話だけど兄ちゃん好きだぜ?それに、アメルもお気に入り十選に入れたじゃないか」


「兄ちゃんが言うそのお気に入りジュッセン?は分かんないけど、アメルの好きな絵本16位だよ。悲しいけどいいお話。アメルは悲しいだけで評価を決めつけないのだ!」


 兄と同じ平等的視点が自然に備わった彼女は本質を見て好きな絵本を選び、日々兄と口論し合っている。十選には入っていなくても『いいお話』程度の格付けはされていた。


「おお、我が妹ながらいい視点を持った!これは悲劇では無い、感動物、泣き作の類だ!悲劇なんて言葉で終わらせて良いわけない!と言う事で、今日は泣き作について認識を深めましょうや、妹よ」


「兄ちゃん今日なんか変。お酒飲んじゃった?ママに言うよ?」


「安心しなさい、お兄様は純粋無垢で健全です!」


「ゼクシオ様、お早く読書を終わらせてベットにお入り下さい。声が家中に響いております。レイア様が起きては大変ですよ?」


 扉が開くと、メイドのヘレンが注意をする為にやってきた。


「ヘイヘイ、早く読んで寝るよ。それじゃ、おやすみヘレン姉さん」


「姉さんは辞めて下さいと…。いえ、あなたに言っても仕方ありませんね。芯が硬いお方ですので」


「なんだよその言い方、俺はただやりたい事をするだけで芯なんてクネクネ柔らかいぞ?」


身体をうねらせ芯の弱さアピールをすると周囲を静寂へと誘った。


「………、おやすみなさいませ」


「おやすみお姉ちゃん!」


「……、はい」


 扉を彼女が閉めようとした時、ゼクシオはそこを呼び止めた。


「ちょっと待って!」


「はい?」


 寸前で扉は止まり、再び影から顔を現した。


「…そのさ、ヘレン姉さんは14歳の少女、立派なレディだけどさ、もし人にキスをしようとしたらどう言う人にする?」


 まだ頭の片隅に残っていた話題を引っ張り出して彼女へ聞いた。ヘレンは無表情な時が多く恋事情なんて聞いても答えてくれないと思っていたゼクシオはダメ元程度でその質問をした。


「……、愛しい人。愛する人でしょうか?」


「「!!!」」


 兄弟はヘレンからそんな言葉を聞いて驚愕した。『まさか、そんな日が来るのか』と。


「…これで良いでしょうか?」


「あ、うん。ありがとう姉さん!参考にするよ」


「お役に立てて良かったです。それでは、おやすみなさい」


「「おやすみ!」」


 扉の閉じる音と共にヘレンはその場から姿を消した。


「…兄ちゃん、お姉ちゃん可愛かったね」


「ああ、あれは恋する乙女の顔だった気がする。ヘレン姉さんは不器用なだけかもね」


「だね!」


 2人は再び注意されない程度で笑い合った。その後、ゼクシオが本を取って戻ると、仲良くベットに入ってゼクシオの読み聞かせが始まる。



 ****

「光の竜と優しい騎士」


 昔々、人族が生まれる前から世界に住んでいる竜が居ました。世界の時間の流れは遅い様であっという間。竜の住む世界にも人族が降り立ちました。彼らは竜と契約を交わすことでその世界に住む権利と力、守りの加護を受け取り、代わりに世界を繁栄させる事を約束します。

 

 これは、世界の暗黒期は川の様に流れ去り、世界も今現在へと続く為に安定し始めていた、そんな時代のお話。



 ある日、世界でも有名な十騎士家の一つ、バベリトルト家に長男となる少年が生まれました。彼の名はアルタ、それはそれは優しい男の子でした。


 生まれて初めて虫を見たときは、虫を殺すことなく泣くことで周囲に助けを求め、泣いている子や困っている子には、いつも優しく手を伸ばしました。


 そんな彼でも十騎士家の長男、剣の鍛錬は毎日欠かさず行いました。そんな彼には一つ、欠点がありました。それは、優し過ぎて人が、命が切れないのです。


 周囲は彼の優しさに一目置いていたので、誰も咎めることはありませんでしたが、戦での活躍は誰の耳にも入ってきませんでした。


 そんな彼は森に入って1人、魔術の練習をしていました。人を切ることが出来ないなら、魔術で人を守る事を選んだのです。


 魔術の中でも得意としたのは癒しの魔術や強化の魔術といわゆる青系統魔術。魂が青色だった彼は、森へ行けば沢山の魔物、魔植を助けていました。果実を魔物達に与えるために弓の才能も磨き、彼はとても優しく強い騎士へと育ちます。


 しかし、彼はバベリトルト家、遥か昔に光の象徴として君臨していた光の竜と最初に契約を結んだ血筋。魂の色が緑で無い彼は、当主にはなれませんでしたが、家族や友人、民を愛し、愛されながらながら成長していきました。


 そんなある日、いつもの様に近くの森に通い、魔物や魔植と戯れていた彼の前に、同じ様に自然と触れ合う少女が現れました。


 アルタは自分と同じ様に自然と触れ合い、笑う少女の姿を見て、一目で心が奪われました。


 少女もアルタの姿に気づき自然と目が合いました。2人には意思を伝える言葉は必要無く、初日を無言で、しかし共に自然と触れ合いました。


 その日を境に2人は何度も森で出会っては互いに目を奪われ、心で意思を通わしながら日に日に口数も増え、幸せに過ごす日々が続きます。


 そんな彼は毎日が楽しくて、嬉しくて仕方なく、家ではとても明るく過ごしました。


 しかし、そんな幸せな日々は続かず、一帯は厄災に襲われます。上空は鮮やかな多色が輝く光のベールに包まれ、森周囲には凶暴性が増した魔物達で溢れたかえり、新種や上位種も現れる混乱に陥ったのでした。


 そんな中、アルタは人々を守る為、出会いの地を守る為、また少女と会う日を守る為、その一心で戦いに参戦しました。


 そこで、初めて絶大な戦果を上げると周囲から評価をされますが、彼にはそんなことはどうでもよかった。ただ、『また、彼女に会いたい』そんな気持ちが日に日に膨らむばかりでした。


 そんな混沌に陥る戦場で、彼の耳にはある情報が入ります。


『魔人族の集団が森の奥で見つかった』


 ただそれだけでした。しかし、彼は何故か胸騒ぎがして、その現場へと向かいます。幸い、この状況で近づく事は出来ずにいたので、アルタは1人夜の森を駆け抜けました。


 奥深くの聞いた場所へ行けば、小さな村がありました。しかし、様子がおかしく村に人の気配がありません。中を調べると倒れている男達を見つけたので得意の治癒魔術で癒して話しを聞きました。


 話しによると、魔族狩りにあって村が襲われ、女子どもが連れて行かれたと。


 アルタはその話を聞いて急いで賊を追いかけました。魔術で強化された彼の足は風より早く、魔物の群れを全て抜け去り、そこまで追いつきました。


 剣の才と巧みな弓術、卓越した魔術操作を使用し、愛する者を助ける為、彼は初めて人の命を切りました。


 無事、魔人族の集団を助けた彼は、少女の姿を見つけると自然に涙が溢れました。しかし、周囲は魔物が潜む闇の中。安心する暇はありません。


 集団を守りながら村へ帰る際に、一行は何度も魔物の群れや人食いの魔植が一斉に襲い、その中には何度も見覚えのある魔物や魔植達がいました。アルタは心を殺し、唇から血を流しながら村の男達と合流して、なんとか村へと送り届けることに成功します。


 その日、アルタは少女と互いに名前や正体を告白します。彼女の名前はルリア。初めて互いの正体を知った彼らはその日、共に村に留まり翌日を迎えました。


 翌日、アルタはルリアに求婚しました。『この森を、僕らの出会いの世界を守り抜いたら、この村で式を上げよう!』ルリアは勿論返事を返して2人は婚約者となります。


 しかし、問題は山積みでした。彼女らは魔人族、戦争相手である為、必然的に奴隷として扱われるので、隠れて過ごしていた村の存在も、既に周囲へ広まり、その日の昼には調査隊が侵入する可能性がありました。


 そこで、アルタは全員を自分の奴隷として買い取り、森が元に戻ったら村へ返す事を提案しました。アルタはバベリトルト家長男、今回の戦果で収入も十分で彼女達の受け入れは完璧でした。唯一、奴隷の烙印を押される怒りはありましたが、ルリア達は微笑んで受け入れました。


 調査隊は丁度、真昼の頃に村へ現れ、アルタが最初に駆けつけたので功績はアルタの物となり、全てアルタに任され、無事全員の主人となります。


 バベリトルト家はアルタの影響で皆心が広いので、おかげで快く受け入れられました。

 唯一父親から婚約は反対されますが、根気強いアルタに負けて2人は結ばれる事を許されます。


 全ては順調、後は活性化現象が過ぎ去るのを待つだけです。しかし、森には化け物が誕生してしまいました。


 その存在はなんとも恐ろしく、森の外からも見える大きさでした。戦いは激化する中、悲劇は続きます。


 アルタが魔人族を何十人と抱え込んでいる事が周囲へ漏れ出て、戦で家族を失った人々などが怒りをバベリトルト家へ向けます。


 アルタは森を守る為、最終決戦へ挑みに行きますがその力は圧倒的。森も、周囲の町もまとめて焼け野原となっていきます。しかし、日が出ている時間は何もしてこない強靭な岩と化すので、体制を立て直すために各家や本拠地へと戦士は帰りました。


 家に帰るとそこには、アルタにとって衝撃的な光景が広がっていました。家に居た魔人族達の死体が家中に横たわっていたのです。家族や警備は騎士の中でも精鋭揃い。奇襲にやってきた人々は制圧され、すでに事態は収束しています。


 そこで、いつもルリアが帰りを待つ、アルタの部屋へ足を運ぶと、部屋の前には家族全員並んでいました。あの忙しく最前線で指揮を取っていた父や当主として大役を任された弟までそこに並んでいたのです。中へ入ると微笑みながら眠るルリアが、ベットの上に横たわっています。身体は氷塊の如く冷え固まり、ピクリとも動きません。そう、彼女は永遠の眠りについたのです。


 アルタは嘆き悲しみますが、捕らえられた人々を救う為、新たな群勢が家へと押し寄せてきました。そう、彼らはアルタが帰る前に魔人族を根絶やしにして、最後はバベリトルト家ごと滅すのが目的で行動していました。そのまま夜へと突入し、周囲は昨夜よりより一層戦いが激化していますが、アルタは部屋から一歩も動かないまま妻のルリアを見つめていました。


 そこで、ルリアの身体から光が浮き上がって来ました。彼女は森と一体になって精神に強い魔力が宿っていたのです。その光を取り込んだアルタは同時に竜の加護にも選ばれ、夜の闇を照らしながら美しく光輝きました。


 かつては人、魔物、魔植、全てを愛し愛され、今では全てを呪い呪った彼は、最後には最愛の妻の意思が心に流れて純粋な心へと戻ります。そして、青く輝く光の矢を二本上空に作り出し、その一本を上位種魔物に向かって撃ち抜きます。


 その光を見たものはその美しさに目を奪われ、争いは全て収まりました。最後に、残ったもう一本の矢をその手に持つと、世界にルリア達に自分の居場所を示す為、種族の壁を乗り越える道導となる為に地面へ自ら叩き刺し、世界は浄化の光に包まれていきました。


 厄災のベールは消え去り、ルリア達やアルタ、倒れた戦士達の魂も共に全ては消え去りました。しかし、彼らは光を目印に再びその地に辿り着いて、共に再開を果たしましたとさ。



 ****

「うぐぅ、うぐぅ。アルタいいやつだった。ルリアも魔人族の人達も。人種なんて何が肝心なんだろうか?愛さえあればなんでも出来るだろうさ!いやぁ、これは名作でしょ。ねぇアメル。ん?」


 ゼクシオは読んでいるうちに世界観へ入り込んで涙を流していた。故に、アメルの寝息に気づかなかった。否気づけなかった。


「寝ちゃったか」


 小さく囁くと、枕元に読み終えた本を置き、アメルに優しく布団を掛けて電気を消すと、ゼクシオもその日を終える為ゆっくりと目蓋を下ろし、家は静寂に包まれていった。

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