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異世界大陸  作者: キィ
第二章 魔学舎入門
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第16話「お菓子とお屋敷」

「…やっぱりグム爺さんの所行こう。みんな、俺なしで遊んでるし」


「……」


 ゼクシオは部屋から出ると、庭園へ向かった。庭園は屋敷の中庭と繋がっているため外に出るより早く行ける。屋敷内は広く奥行きがあり、少し長い廊下を歩いて少女達とは違い、正規ルートで中庭へ降りた。


中庭から庭園へ小さな道を通ると、そこには様々な花が咲いていた。その先に、いつもは老人が居るのでそこを目指す。


「やっぱり、ここにいた!」


 庭の中心には椅子と机が置いてあり、そこに老人は座って庭を眺めていた。


「石坊主か、お主はこりんのう。ホホ」


 そう言うと、コップを手に持ち中身を飲んだ。


「ニゲルナ」


 近くで声が聞こえると、リゼが2人を追いかけていた。流石に魔法を使うのはやめていたが、捕まえるまでにまだかかりそうだ。


「あの少女は周りが見える落ち着いた子じゃろうて、何故あんなに怒る?」


 彼女らが近くを通り過ぎると、老人が首を傾げて尋ねたので、ゼクシオが答えた。


「あー、あれね。リゼは最近禁句ができて、それを言われるとキレちゃうんだ。最近は少し周りが見えてるけど、少し前は酷かったよ」


 ゼクシオは腕を組みながらその時を思い出すと何度も頷いていた。


「ウンウン、あれは驚いた」


「ホッホッホ!若いの」


「結構大変なんだよ?」


 老人はそう言って楽しそうに笑った。


「で、お主はこの老いぼれに何をしにきてくれたのか?」


「分かってるくせに、グム爺さんひどいなぁ」


「分からんぞ?わしにお菓子を持ってきてくれたとか?」


 そう言うと、机の上に置いてあったお菓子を一つ取って食べた。


「美味!このクッキーは最高じゃ!」


 続けて2、3枚取って食べた。


(本当いつでも食ってるよな)


 その姿は既に見慣れ、ある疑問が浮かぶ。


「爺さんもしかして、この家にやってきた見返りって…」


「1日3食のお菓子じゃ!」


「はぁ、良くそれで元気だね」


 ゼクシオは完全に呆れていた。だが、老人は嬉しそうに語った。


「知らんのか?糖分は若さの秘訣じゃ!」


 そう言って、次はマカロンを手に取りゆっくりかじっていた。


「うん、美味!」


「どうして、俺の先生ポジションは甘党が多いんだ…」


 ゼクシオはため息をついた。すると別人の声が聞こえた。


「師匠また!そろそろお辞めになった方が…」


「後ちょっとだけじゃ」


「ならば、今日の残り一回のお菓子時間をメノード様に言いつけて減らして貰いますよ?」


「なんじゃと?」


 老人に話しかける別の人物は、ゼクシオが通ってきた道から来た。


「デリネア姉さん!」


「こんにちは、少年。今日も来てたんですね!」


 女性はゼクシオに向き直ると、挨拶をした。


「今日も書斎借りてたの?」


「はい。この家の物は素晴らしいものがたくさんあって実に興味をそそられます!それより、少年はまた師匠にべったりですか?」


 デリネアと呼ばれた白髪の若い女性は、ゼクシオに質問を返した。


「グム爺さんくらいしか、学校外で練習見てくれる人いないから」


「魔学舎の先生方は?」


「担任のミデルゼ先生は『今日こそ息子に笑って貰う!』とか言っていつもいそがそうだなぁ。先生達は基本、頼めばみてくれると思うけど…。でも、やっぱりグム爺さんだ!」


「面白い先生がいらっしゃるのですね。でも、私の師匠もかなり偏屈というか…」


「美味美味、ん?どしたのじゃお主ら」


「「はぁ、」」


(自覚が無いんだよな)


「でも、デリネア姉さんだってグム爺さんに弟子入りするぐらい強い人なんでしょ?」


「まだ正式な弟子の印は貰っていませんよ?でも、弟子みたいなものですね」


デリネアはそう返した。


「でも、グム爺さんって凄い人なんでしょ?だったらやっぱり付いてくるデリネア姉さんも凄いや!」


ゼクシオは追加でデリネアを評価する。


「まぁ、確かに師匠は若い時から沢山の逸話を残して、今現在でも偉い方々から良くお呼ばれされていますし、こう見えても“賢人”の1人、放浪のグムレフトですから!」


 デリネアは嬉しそうに誇ってグムレフトを見るが、彼はそこまで反応はしなかった。それどころか、自虐的な事を言い出した。


「賢人とは言ったものよ。元は名だたる騎士家の恥晒しじゃ!ホッホッホ」


 ゼクシオは賢人がどれだけ凄いのかは分からないが、凄い人材と言うことは分かってった。


「また!師匠はすぐそうおっしゃる。少なくとも、私は貴方のおかげで助かりました」


 デリネアはそう言いフォローする。だが、言い終わるうちに再びお菓子を食べ始めた。


「って言ってるうちにまた!師匠!」


「分かっておる。これで最後じゃ」


「もう!またすぐに話しをそらす。これは没収です!」


「わしのお菓子…、ホホ」


 デリネアは近づくと、最後のお菓子を食べてしまった。


「メノード様はなんでこんな条件をのんで…。ん、今回のも美味しい。流石ですね」


 デリネアは可愛い口でクッキーを食べ、指まで舐めると言葉をこぼした。

 空気に区切りが付いてゼクシオは声を上げる。


「よし!やっと相手してくれる!」


 そう言うと、ゼクシオは腕を回してやる気満々だった。


「石坊主はもう随分強くなったと思うが、まだ鍛えるのか?」


そう質問するとゼクシオは呆れたように言う。


「またそれかよ、みんな言うよな。足りないんだよ、これだけじゃ。それに、父さんはもっと凄い…」


「はぁ、可愛くないの。仕方ない、今日も少し相手をしてやるか、ほれ、まずはいつものから見せてみ」


「おう!」


 ゼクシオは元気を取り戻し、返事をすると、手に氷炎剣を創り始めた。


「ぐぬぬぬ」


 以前の変なポーズは治っていたが、まだ時間がかかった。


「できた!」


そこには、以前より剣の形をした氷炎の揺らぎを纏ったものが出来上がった。


「10秒ってとこか。形もまだ未完、続けて精進せい」


「はいよ!」


 ゼクシオは返事をすると、未完全の氷炎剣を空に振って少しクネッタ氷柱に変えた。


「やっぱり、こっちがまだ使えるかも」


 そう言って構え、素振りを始めた。


「剣の道もまた一つ。まだ若い時は悩み悩め。結末を考えるにはまだ早い」


「へーい」


 ゼクシオは2、3回素振りをして手応えを感じた後に、剣に熱を帯びさせ氷柱を溶かした。


「お主は緑もあったな、今度は見せたい緑を見せてみよ」


「おらよ!」


 右手からリゼのような水の玉を創って浮かばせた。


水泡(アクアル)か。だいぶ大きくなったな。また練習したか?」


「ふふーん、これで森で火が上がっても消化できる!」


(やっぱり、異世界テンプレは近くの森で火事アンド魔獣の群れだろ。これの対処は少しでも出来る)


 ゼクシオは胸を張って自分の努力に満足した。


「いつもお主は、変な事を考えて学ぶんじゃの。本当にまだ子供か?」


「当たり前だろ?まだ9歳だよ?」


「その割に賢すぎる気み…。いつもの事じゃの」


(もうその発言慣れたよ)


 ゼクシオはそう思いながらグムレフトを見ていた。ゼクシオは魔法に関しては出し惜しみする気がなく、バレたらもう仕方ないといつの日からか割り切るようになった。


「よし、追加でこれだ!」


 そう言うと、水泡の中に光を灯し、水を輝かせる。


「簡易電灯!」


「遊びに走れば成長を加速させるが、これはまた面白い事をするな」


(ふふーん、みて驚くだろ!水中で光源を発生させ屈折する事で水泡を輝かせる。災害中のペットボトルと一緒だ。昼で少し分かりづらいけど夜は火炎並みの明かりを出すし、家事にもならない。これで便利と言わずして何という!)


 ゼクシオは新技に自信満々だった。


「凄い!これは魔学園でやりましたね。確か屈折現象の実験で、遊びがてら行った物です。色を変えると、夜はとっても綺麗に輝きます!もう気づくなんてさすが少年、優秀ですね!」


 デリネアは反応を示したが、すでに行ったことがあるようだ。


(もうあんのかよ!こうゆうやつ、だいたい『ヤベー天才じゃん!』的な応用術じゃ無いのかよ!)


 ゼクシオは褒められるために考えたが、世界の成長に負けたようだ。ガッカリして水をその場に落とした。


「そう露骨にガッカリするな。その若さでそこまで行き着くには早いぞ!安心せい」


(その若さって、俺は今17+9歳ですよ?あぁ、世界は俺に甘く無い…)


 余計にガッカリした。だが、そこでリオを思い出した。彼はもうすぐ帰ってくる。だから、ゼクシオ少しでも成長を見せたかった。


「…よし、なら明日から3日間集中特訓で新技覚えてやる!」


 ゼクシオはやけになってそんな事を言い出した。


「明日からグム爺さんは空いてるんだってね?」


「喋り相手程度ならいいのう」


 グムレフトはそう言いながらコップを持ち上げ、一気に全てを飲む。


「さて、じゃぁ昼寝でもするか」


「話の答えは?俺の相手は?」


 ゼクシオがそう言ったかと思うと既に寝てしまった。


「もう!このジジイめ!」


 ゼクシオは悪態をつくと、手から火を出して見つめていた。


(父さんならこれでも驚いてくれるよね?)


 父の事をを考えている姿は少し寂しそうにも焦っている様にも見えた。そこで、デリネアがゼクシオが考えている事と同じ話題を切り出してきた。


「そう言えば、もうすぐ少年のお父様が帰って来るんですよね?」


「ん?まぁ、そうだね」


 突然デリネアが話題を変え、ゼクシオは肩を落としたまま答えた。


「じゃぁ、お父様を驚かせたいよね?久しぶりの再会ですし」


「んー、魔術沢山練習して覚えたから、父さんなら驚いてくれると思うけど…」


 ゼクシオが覚えている2年前のリオの性格は、真っ直ぐでちゃんとしている大人。時には適当だったり勢いでなんでも行おうとするが、村のみんなとも仲がいい気さくな人だった。周囲から想像もつかない逸話を聞かされるが、森で助けられた時の姿はゼクシオが今持つ一つの目標の到達点でもあった。

 ゼクシオも最初に出会った人物なので支えられた分、努力を見せて喜んでもらおうとしたが、急に不安になってきた。


(でも、やっぱりまだ足りないかな…)


「甘い、甘すぎます!」


 デリネアは言う。


「だよね…」


「っは!甘い物はどこじゃ!」


 話の途中で昼寝に入っていたグムレフトは『甘い』と言う言葉を聞き、声を上げて起きた。


「師匠は黙って!」


「ホッホ…」


 いきなり起きれば弟子に怒られ、グムレフトは悲しんで肩をすくめた。隅っこに存在を置きそのまま寝入った。

 ゼクシオもキッパリ言われてしまい同じように肩を落とした。


「いえ、そんなつもりで言ったんじゃありません」


アリデラは可愛く手を振って補足する。


「リオ様は、息子が努力をすれば驚くと思うわ。でも、自分の代名詞“紫電”と同じ雷系の大技が使えるようになったらサプライズになると思わない?」


「でもあんなのどうやって…。それに、俺は氷系と炎系は得意って言えるけど雷系はあんまり伸びてないって言うか…」


 ゼクシオは話をしているうちに弱気になった。次第に下へ視線がいき、アリデラの顔が視界から外れる。


「私、師匠から聞きました。師匠にずっと詰め寄ってきてた少年が7歳になる年頃の話」


「いやぁ、あれはそのー…」


 ゼクシオのトラウマ話だと察知して話を誤魔化そうとした。


「ある日、川で釣りをしていた師匠の元へ行ったそうね」


「……」


 彼は抵抗する事を諦め目を瞑ると、聞こえて来る話が少しでも入ってこないように耳を塞いだ。


「川で…………ってる時に……が……って感電…………」


「あーあーあー!何も聞こえないよー!」


 精一杯声を上げてかき消そうとしたが、聞き取れる部分もあった。手は震え初めて、汗を大量にかき出して精一杯目を瞑るしか無かった。しかし、気づけばいつのまにか肩に手が乗っていて、目を開ける。そこには目の前にアリデラがいた。


「そんなに恐れていたとは、知りませんでした。トラウマを思い出させてしまい、申し訳ありません。ですが、これはチャンスでは?苦手な電流を操る赤系統を克服しながら、大技を覚えるチャンスですよ?単術多当です!やってみようと思いませんか?」


 アリデラは優しく語りかけできた。だが、ゼクシオは意固地になって突っ張る。


「やってみようとは何回も思ったけど…、身体が拒否して力を制御しちゃうんだ!だから無理!」


 完全に否定モードに入ってしまい、そっぽを向いた。


「仕方ないですね。今日から私が少年の師匠になります。いいですよね?師匠」


「……」


 グムレフトに向き直って質問をしていたが、反応が無い。


「と言うわけで今日から頑張りましょう!」


「えぇー!ジジイ起きろよ!」


 グムレフトは大事な時には寝ていても反応する事をゼクシオはよく知っている。だが、何も反応無しということは『好きにしろ』が大体の意味だと思っている。


「はぁ、」


 憂鬱になりながら、これからについて考えて、深くため息をついた。

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