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異世界大陸  作者: キィ
第二章 魔学舎入門
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第15話「屋敷の逃走」

ここから日常会へ入ります。時系列戻ってごめん

 王城襲撃の約1週間前、9月の月休みに入った魔学舎は休校期間に入っていた。ゼクシオはリゼとソニアと一緒に道を歩いている。3人とも以前よりも背丈は伸び、成長していた。


 ゼクシオはクラスメイトと遊ぶ機会も増えたが、初期メンバーとも変わらず遊んでいたため周囲との関係は良好といえるだろう。


 やがて、サードント邸の目の前に着くと3人ははノックをして家から人が出てくるのを待っていた。


「いらっしゃい!」


 中から見慣れたセナの母親、セルナが少年少女を出迎えた。


『こんにちは!』


「また来てくれてきっとセナも喜ぶわ。さ、みんなどうぞ」


 そう言って、いつもの様にセルナが出迎え中に入れてくれた。


「奥様、今日は体調がよろしいようですね?」


「ええ!」


 ゼクシオ達が中へ入ったあとメイドとそんな会話をしていた。


「もう、習慣付いてるご様子なのは分かりますが、何かあればすぐにおっしゃって下さい」


「本当に心配症ね。でも、頑張れば村一周ぐらい簡単よ!貴族の女はしぶとくてよ」


 そう言うと華奢な腕を曲げて、力コブを作っていた。


「はぁ、奥様は少し貴族の皆様とかけ離れて居ます。が、良い方には変わりありません。では、体調にはお気をつけて」


「もう、いつまでも心配症ね」


「“仕事”ですので」


 そう言って中へ入っていく。



 家の中では賑やかになっていた。昨年に双子の女の子リリィとラノン、2ヶ月前に産まれた男の子ビルナートがサードント家に居る。その相手をする事も来客者の遊びの一環となっていた。

 今日は双子とビルナートは寝ついていたがいつもは泣き喚いたりして騒がしい家だ。そして、部屋では次男の次期当主であるサラッドは既に3歳になって、憎たらしくセナのスカートをめくって逃げ回っていた。


「こらー、サラッド!やったわね!」


 姉である長女のセナはスカートをめくられて、追いかけ回していた。


(ナイス、サラッド!さすが俺の弟子だ)


 ゼクシオはサラッドとアイコンタクトで合図しあっていた。サラッドはゼクシオ達が来たことを察知してタイミング良く動いたのだ。

 ゼクシオはサラッドと共に謎のミッションごっこをして遊んでいたので気づかれることなく事件は起き続ける。そのミッションとは『ヒラヒラめくりゲーム』である。ゼクシオが見て居る間にヒラヒラをめくったら面白い話をしてあげる。と、ひどい取引だった。ゼクシオもそろそろ辞めさせてあげようとしてるが潮時がわからず悩んでいた。


(今日こそ辞めさせるか?いや、でも…)


「ゼクは見ちゃダメ」


(あ、見えない…)


 そこで隣のリゼが目隠しをした。


「あ、みんな!」


 セナはみんなが来たことに気づいて近寄ってきた。声が聞こえてゼクシオはリゼの手から逃れた。


「ようこそ我が屋敷へ。私はサードント家長女、セナ・サードントです。以後お見知り置きお。どお?貴族みたい?」


 セナはスカートを持ち上げると貴族の挨拶を3人に見せた。その一連の動作にはほぼ違和感は無かった。


「ああ、だいぶ様になってるよ。それにセナは貴族みたいじゃなくて貴族だよ?」


「あ、それもそうだ」


「お主はいつも気が抜けとるのう。うぎゃ!」


「それは、ソニアもだよ?」


 そう言ってゼクシオは後ろに回ってこちょこちょをした。


「あ、ゼクのチカンだ」


 リゼが指摘するとソニアはその場から脱し、ゼクシオに声を上げた。


「でたな!こちょこちょ悪魔め!また我の身体を狙ってきおって」


「ふっふっふ。君たち、治整官に捕まるのは何歳からか知ってるかい?15歳、成人してからだよ?」


 そう言うと両手をうねらせて追いかけるように見せた。


「ゼクに襲われる!みんな逃げろ!」


 セナがそう言うと、いつものように広い屋敷内で追いかけっこが始まった。ゼクシオは『10秒数えるね』と言いながらその場で3人が消えるまで待つと、サラッドと共に協力していた。


「よし、我が弟子サラッドよ。セナお姉ちゃんの隠れていそうな場所を探しに行こうか」


「うん!」


 そう言うと後ろからセルナとメイドが来た。セルナはニコニコして見ているが、隣のメイドがゼクシオに口を出した。


「はぁ、またですか。ゼクシオ様、無闇に男の子が女性を触るものではありませんよ?」


(あ、メイドさんだけど何故かいつも口出す、妙に偉そうな人だ。この人苦手なんだよな)


「貴方は英雄様の息子と言う評価が付き纏います。妙に成長が早くてそちらに気を持つのも分かりますが、少しは弁えることを覚えてはいかがかと」


 いつもそう言う事を言って来るのだ。


「ねぇ、メイドのお姉さん。なんでいつも俺に気を使ってくれるの?」


 そこでずっと思っていた事を聞いた。


「私はこれでもリオ、ゴッホん。リオ様の知り合い。貴方のことは『しっかり教えてやってくれ。ゼクシオは賢いけどヤンチャなとこあるから、うちのメイドさんじゃまだ若いくて迷惑になるだろう』とおっしゃってました。ですが、いざ蓋を開ければ悪賢い嫌な子です。ヤンチャなんてものじゃありません」


(今呼び捨てしたよな?俺がヤンチャだって?ちゃんとアウトラインは弁えてこれなんだけどな。父さん、こんな所に俺への保険かけてたんだ。でもアメルは?俺だけ?)


 ゼクシオは自分だけ心配され困惑した。が、昔の知り合いと聞いて、一つ質問してみた。


「もしかして冒険者時代について知ってる人?」


 メイドが一瞬肩を上げたが目を瞑ると対応した。


「いえ、腐れ縁という奴です」


 そう言うとゼクシオはもう一つ質問してみた。


「父さんは昔、どんな人だった?」


 これはルザーネに聞いた事もあるが、冒険者時代は分からないと言っていた。会ったのはリオが魔学舎に入ってた次期なので、ゼクシオは気になっていたのだ。が、メイドはそれ以上口を開くことは無かった。


「やっぱり知らないよね。いいよ、聞いてくれてありがとう」


 ゼクシオは昔のリオの姿を知りたかったが、諦めなくてはいけないようだ。少し惜しそうな顔をしていた。


「…一言で言うなら、良くも悪くも英…。いえ、今の言葉は忘れて下さい」


「え?今なんて?」


 突然メイドが口を開けたので驚いた。偶然リオの知り合いだったメイドが昔の事を話してくれるなど、微塵も思っていなかったのだ。そのまま追求しようとしたら、


「それより、お嬢様方を待たせてよろしいのですか?もう隠れて居る頃かと」


「やべ!サラッド一緒に探すぞ!」


「うん!」


 そう言うと、屋敷の奥へ走った。サラッドはその後ろを可愛くついていく。


「貴方が、昔の事を話そうとするなんて珍しいわね?」


 セルナは、部屋に残った子どもを見つめながら話しかけた。


「失言でしたか?」


「いいえ、良いと思うわ!」


 メイドは軽くお辞儀をした。上がった顔は表情を変えないが、セルナには少し笑って見えた。セルナはそれを見ると、元気よく声を発した。


「よし!明日の貴族の集まりでは、新しいお友達見つけるぞ!」


「奥様から強引に迫っては脅迫に見えます」


「あら大変!本当にみんな、なんでそんな目で見るのかしら?私は腹黒女じゃ無いのに」


 本当に悲しそうな顔をするので嘘か本当か分からないが、メイドは慣れて居るようで自論を述べた。


「そう言う所がずれて居ると…。まぁ、美徳でもあるのでしょうね」


 メイドがそう言うが、セルナには聞こえていないようだ。すると、揺り籠の中で寝ていたビルナートが泣き出した。


「おぎゃぁ!おぎゃぁ!」


「よしよし、ビルナート怖く無いわよ?」


 泣き声に気づいてセルナが抱き抱えるが、泣き止まない。


「泣き止まないわ。これは、…トイレね。よし、オムツを変えるわよクレハ!」


 直感で対処を決めるとメイドの名を読んだ。


「お嬢様の呼び方が移ってます」


「いいじゃない。私も言いたかったのよ」


「…お好きにどうぞ」


 クレハと呼ばれたメイドは、そう言って素早く手伝いを始めた。



 ****


「セナ達みっけ!」


 ゼクシオはサラッドの力を借りて、3人が隠れていた部屋を見つけた。3人はベッドルームの下に隠れていた。


「だから木の上に登った方がいいと言っただろ?」


「ソニアは、いつも危ない事し過ぎ!それに、ここでも意外ともったでしょ?」


「5分…。ゼクの記録更新」


「え!また早くなってる」


 リゼが近くの時計を見て言うと、セナは驚き声を上げる。


「よっしゃー!で、グム爺さんどこいるの?」


 ゼクシオは遊びを早く終わらせ、ある人物の名を出した。


「もー、またグム様と魔術の練習?魔学舎でうんざりする程やってるじゃない。それに、ゼクはもう卒業レベルって聞くし…」


「父さんがもっと凄いよ」


 魔術はもういいだろと言われ、口癖となってしまった言葉を発する。


「もう!またそれ。今はそれで十分なの!今日は一緒に遊びましょうよ!ね?」


 そう言うとセナはゼクシオに迫って顔を近づけた。


「近い近い!そんなのいつもされちゃうから、俺とグム爺さんの時間が…」


「そんなのってどんなの?」


 セナは首を傾げていた。


(可愛くて、いつも引き止められるんだよ。ほんと、男でこれが効かないのは、カイとヘーゼルぐらいしか知らないな。あ、あとガラディーもか?あいつは女の子よりもパンツだからな。あれ?意外と効かない奴もいる?)


 周囲の人物で考えると、ゼクシオも自分の思考がおかしいのか頭を悩ませていた。


「ゼク、せっかく来たのに失礼だよ。お爺さんとの時間は、私達が飽きるまで」


「うむうむ!」


 リゼが注意して、ソニアも頷いた。


「えー、それじゃあ全然練習出来ないじゃん!」


「いつもしなくて良いの!それは、発展期でも出来るでしょ?」


 リゼに言いくるめられて、決断せざる終えなくなった。


(仕方ないか、別にみんな可愛いから嫌じゃないし。でも、今日は魔術の気分だし…。あー、グム爺さん来てくれー!)


 ゼクシオは頭の中で女子と遊ぶ方を取ると、その人物の名を読んだ。


「おやおや、今日も来ておったか。どうりで声が聞こえた」


 そこで、白い長髪の老人が長い髭を触りながら話しかけた。


「グム爺さん!」


(ラッキー!これは今日一日魔術ができる。遊んでもよかったけど今はこっちにしよ)


 ゼクシオは今しがた決断した結果を覆して、魔術へ乗り換えた。


「えー、なんで来たのよグム様!ゼクを取らないで」


 セナはゼクシオを取られると思って、そう言い放つと、老人は笑いながら答えた。


「ホッホッホ。誰もお主から石坊主を取ろうとせん。石坊主が勝手によって来るでの」


 老人は、言いながらゼクシオを見た。


「そんなこと言わないで、また俺の魔術見てくれよ!」


 ゼクシオはそうせがんで、老人に頼みよった。


「ワシはいつでもゆっくりしておるから、遊んできなされ。いつでも待っておるぞ、老い先は短いがの。ホッホッホ!」


 そう言って、その場を後にした。


「あの老人、マスタークラス。やはり、いつ見ても侮れん」


「あぁ、グム爺さんが去ってゆく…」


 セニアは老人の後を眺め続け1人でぶつぶつ呟き、ゼクシオは老人がその場を去ってしまったので今日の魔術は諦めた。


「ゼク、安心しなさい!今日の夜から明後日の昼まで、私は町で社交界があるの。だから、グム様はきっと暇だから相手をしてあげて?」


「うん!」


 ゼクシオはそれを聞いて喜んだ。しかし、同時にセナが居ないと聞かされ悲しんだ。


「でも、セナとは会えないのか。悲しいな…」


(最近は、純粋に少女の笑顔と魔術が原動力なのに、その1人が消えてしまう…)


 すると、セナは近くのベットに登り、胸を張って言い放った。


「安心しなさい!この家の次期当主はそこのサラッドだけれど、私はサードント家長女!そんな社交界、私が1日で終わらせて帰って来るわ!」


「「おー!」」


 そう言ってゼクシオとソニアは拍手をした。が、リゼは拍手をしなかった。


「セナは、ゼクやレルロに似てきたね。少しおてんば娘になってる」


 そう言うとセナは頬を膨らませて怒った。


「おてんばじゃないもん!淑女だもん!」


 顔を赤らめると、下に降りてスカートを持ち上げ会釈をした。


「ね?」


「いや、流石にそれだけじゃあ、淑女か分かんないよ?それに、さっきベットの上に登って立ってたし」


 ゼクシオが追撃すると、セナは当然のように言い返した。


「さっきのは大丈夫よ?だって、演出ですもの!演説に演出は付き物、高いとこからだと凄く見えるでしょ?」


 そう言うと再び胸を張った。


「分かるぞセナよ。演出は勇者の命!それを怠れば重大な失態!」


「はいはい、皆んなカシコイカシコイ」


 リゼは棒読みで返事をしたので2人は余計怒った。


「「もう!」」


 ゼクシオは呆れて、サラッドを自分の前に置いて座ると、としばらく激化していく討論を隅で見ていた。


「サラッド君のお姉ちゃんは大変だね」


「お姉ちゃんは優しいよ?」


 ゼクシオはサラッドに同情すると、純粋な目で見つめて言葉を返した。


「君は良い子だね!お兄ちゃんが遊んであげよう!」


「うん!」


 しばらくサラッドと遊んでいると、気まぐれで立ってセルナの元へと行ってしまった。


「ママの所行ってくる!」


(あぁ、癒しのサラッドが…)


 そして、また暫く激戦を見つめていた。


「なぁメメ、お前も女の子だったらああなのか?」


「……」


 肩に乗せている小石はその言葉に反応しない。


「もしかして、男だったり…」


「……」


 石に性別など有るはずが無いが、ゼクシオはそんな事をぶつぶつ言っている。しかし、石はゆっくり表面から水が染み出し液体化してきた。少し水しぶきが顔に飛び、肩の部分も徐々に濡れてきた。


「うわぁ!ごめんごめん、悪かったよ。お前は可愛い女の子だよ」


「……」


 そう言うと徐々に原型を取り戻し、青いゼリー状の身体から固形に戻った。


「反応が増えたのは可愛いけど友達以外、あんまり人目につくなよ」


「……」


 小さな風が首筋に当たり、ゼクシオは反応を受け取る。


「ねぇ、早く遊ぼ?」


 ゼクシオはもう待ちきれず、女子達に話しかけた。


「「ゼクは黙ってて!」」 「貴様は黙っとれ!」


「ごめんなさい…」


 ゼクシオは反撃をくらい、黙ってしまった。そして、そのまま傍観した。


「リゼには大事な事が分かってないのよ!」


「そうだぞ!」


 セナとソニアは、再び攻撃を開始した。


「はぁ、そう熱くなるのが子供なの。みんなもっと冷静に…」


 リゼは落ち着くと、冷静に対処をする。


「さっき、ゼクに対して大きな声出したの誰かしら?」


「さっきはつい…」


 痛いところを突かれ、リゼは少し焦り顔を俯かせる。


「最近、やっとぬいぐるみを手放せた誰が子供じゃ無いと言える?」


「あー!ソニアそれは言っちゃダメ…」


(2人とも終わったな)


 ソニアはとうとう禁句を言ってしまい、リゼが完全に俯いてしまった。


「…、2人トモ、コロス!」


 リゼは両手に水の球体を浮かばせて顔を上げると、2人を追いかけ始めた。


「きゃー!逃げろ!リゼに殺される!」


「セナは甘いぞ!早く逃げろ!」


 そう言って、2人は窓から飛び出して中庭へ逃げた。


「ニガサナイ」


 怒りをあらわにしたリゼは2人の後をついて行く。


「あーあ、また怒られる。俺しーらない」


「……」


 その場にはゼクシオ達だけが残り、1人と一匹佇んでいた。

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