第3話「遊び」
お互いに枝を構えていると、ゼクシオはリオの圧を感じてへっぴり腰になっていた。そんな中、リオは説明を始めた。
「今から追いかけっこをする。最初はパパが追っかけるから、ゼクシオは逃げろ。タッチされたら交代な。範囲はこの森の中だ。どうだ?楽しそうだろ?」
そう言ってリオは笑ってた。
(そうか、つまり鬼ごだな。前世でも有名なあの鬼ごっこなんだな。遊びじゃねえか。よかった。鍛錬と聞いてびびったけど、本当に遊びだ。まだ5歳だし当然か)
ゼクシオはそう思って急に楽観的になったが、どうやらまだ説明が続くらしい。
「枝を渡したのは、それも使うからだ。枝でのタッチもいいぞ。だが、防ぐのもありだ。つまり、逃げながら枝をかわせってことだな。大丈夫、パパは逃げないから」
(ん?枝を使う鬼ごなんて知らんぞ?あ、そうか。当て鬼みたいに、ボールの代わりに枝を使うのか…。うん、普通じゃない気がする。でも、リオが逃げないなら、俺が鬼になった時チャンバラだな。ま、これは森の探索に少しはなるし、せっかく新しい人生だ。今回はアウトドアになってやるのも悪くない)
「...分かったよ父様」
遊びの内容を理解してリオに返事を返すと、一瞬でカウントが始まった。
「よし、じゃあ、父さんが120秒数えるから森へ先に逃げろよ。スタート。いーち、にーい、さー」
(マジかよ。いきなりだな。前世にもそんな奴いたな)
リオの急なカウントダウンに慌てるも、そのまま慣れない体で走り出す。森は入ってすぐのところでスタートしたので、今は奥に行くしかない。とりあえず、リオが見えなくなるところまでいかなければと思い、ひたすら木を避けながら奥へ行く。
カウントダウンの声が聞こえなくなった所で、ゼクシオは方向を少し逸らして左斜めに逃げる。その間、森の道はこの小さい体には大きすぎる障害物が沢山あるのでとても走りにくかった。
(そういえば、アスレチックもこんな感覚で遊んでたな。小学校の頃はよく外にいたのに、一体いつの間に外で遊ぶことをやめたんだろ)
ゼクシオの前世は、森での鬼ごっこなんて体験は無かったが鬼ごっこが久しぶりな為、童心に戻った気持ちで少し楽しんでいた。その間も動きは止めず方向転換してからしばらく走っていた。すると、近くで川の音が聞こえてきた。
そのまま音に吸い寄せられるように川まで来たら、動物らしき生き物がいた。ウサギみたいに耳が長くてちょっと小さ目の生き物だった。そいつはゼクシオに気づくと、素早く木を飛ぶように上がった。
(ウサギみたいなリスだな。見たことない動物だからやっぱり異世界かな。前世の未来や過去の世界だったら魔法ないかもだけど…)
大人対子どもだから絶対すぐに見つかってしまうだろうとゼクシオは最初に思っていた。だが、どうやら森は広そうで既にきた方向が分からなくなっていた。
(やべ、俺が迷子になるかも)
そんなことを思っていたら、後ろから何か来る音がした。振り向くと、目の前にもうリオが来ていた。
「父さんが捕まえちゃうぞー」
そう言って、枝をふりかざしていた。
(早過ぎるだろ。気配も無かった。それに、棒を当てようとして『捕まえちゃうぞー』は絶対違う)
そんなことを思ったが、前世でも運動神経に恵まれなかったゼクシオは、どうやらこっちでも少しは共通するようだった。天才のように反射的に動くこともできず、ただ目をつぶって、体を縮め、衝撃を待つことしか出来なかった。
(…あれ?)
しばらく待ったが衝撃が来ない。恐る恐る目を開けると、頭の上に枝が置かれていた。ゼクシオには全くそんな感覚はなかった。
「父さんが弱いものいじめするわけないだろ?気配も完全に消してはいないし、スピードもまだ序の口だ」
(こいつは、よく配慮しないな。俺でも前世は弟が小さい時本気で勝負をせずに、わざと負けても『すごいでちゅね』なんてしょっちゅうやってたのに。厳しく伸ばすタイプだろうか。マジか)
前世で厳しいことから逃げてきたゼクシオは、強制的にやる環境では受け身で行うことが多く、強気の指導を苦手としていた。だから、前世ではあらかじめ分かっている厳しい環境に自分から飛び込んで行かなかった。大体の人にもそんな気持ちは大なり小なり存在するがその中でもゼクシオは人1倍避けていた。だから、僅かな言葉を聞き逃すことなく勝手に決めつけながらリオの人物像を想像した。それにより気分は沈みゼクシオは暗くなった。
「だけど、目をつぶる反応と身構えは馬鹿速いな。防衛本能か?才能かもな」
「え?」
ゼクシオにとってビビって褒められる事など初めてだった。
サッカーボールが飛んでくれば、すぐ目をつぶり、背中から当たろうと後ろ向きになりボールをスカして笑われた。ドッチボールでは、ボールをキャッチではなく手で叩き落としてすぐ外野。運動音痴だとばかり思っていたこれが、褒められて驚いた。
才能という言葉も嬉しかった。最初に持った素質、努力していない状態の物を才能と定義しているゼクシオにとってそれは極上の言葉だ。
『もし努力していたら周りよりもっとできていて、そのまま努力を才能と評価されていたのかもしれない』そんなif思考をいつも考えるもそんな物ゼクシオにとって才能ではない為なんのやる気にもならない。
だから、たかがビビって褒められただけだがゼクシオは努力していない物を褒められた時、その何気ないリオの感想で自信がついた。
こうして防衛本能に自惚れしていると、リオがゼクシオを抱えてた。
「そんなに呆けたツラしてどうした?速過ぎてビビったか?しょうがねーな。父さんが肩車してやる。それ」
リオは勘違いしたらしいが、ゼクシオにとっては十分だった。
(今までなら褒められた事を伸ばさなかったけど今回は頑張ろうかな?まぁ、ビビる防衛本能は鍛えることなんてないから他の事頑張るか)
ゼクシオはまだ前世の変な考え方が治ることは無いが異世界初日で自分に自信をつけることはできたので事態はプラスに向かったと言っていいだろう。
その後、リオに肩車されたまま、森を走り回り、森のことを聞いたり、逆さにされて気持ち悪くなったりしながら、夕方までリオと遊んだ。リオは物知りでいい父親なようだ。精神年齢が17歳だったゼクシオもその日は共に楽しんでいた。
(全てを忘れて楽しむって、こう言うことを言うんかな。浮かれてたのかもしれないが、悪くは無い)
こうしてリオと、ちょっと距離が縮まった。薄暗くなった後は、家へとそのまま帰った。帰る頃の2人はもちろん鍛錬する目的を忘れていた。
ウサギリスの名前はラパームらしい。