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異世界大陸  作者: キィ
第二章 魔学舎入門
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第11話「梅雨入りならぬ3界入り」

 入学期は1月に始まり現在は5月。既にリオは家を離れ王都へ向かった。エカの花びらは落ち果て、既に緑の葉に衣を変えている。5、6月は海人族の界と呼ばれている様に降水量が増え、魔災も多々発生していた。季節も夏と定義されている様に次第に気温も上がり、とてもムシムシとした生活を送る事になる。


 その日は3界入りを知らせるように外では雨が降り、魔術基礎訓練が外で行えなかった。だから、魔術をまだ使えない子は体育館へ、一つでも使える子は教室で自習を行なっていた。


「あー、お勉強やだな。そうだ!ねぇ、パンツ?パンツ覗きの伝授してくれない?」


 教室ではガラディーが自習に飽きてゼクシオに変な能力の伝授を要求していた。


「はぁ、まだその名で呼ぶのはお前とラドだけなんだが…。お前、頭真っピンクだな?少しは人生をサボる事にでも頭を使えば?」


「でも、最近色当てゲームにコルとハマっててさ。やってる時は楽しいんだけど答えが分からないから段々飽きてきちゃうんだ」


「本当にまだ5歳?」


「っちっちっち、昨日で6歳。君より大人さ!!」


「あ、そうだったな」


 ゼクシオは無表情でその場を流すと、教室に飾られたカレンダーを見る。そこには、今日から5月になり絵柄も海の景色が写っていた。月は30日単位で全て区切られて、1週間は6日単位だ。そろそろゼクシオも慣れてきた。


(今日は5月1日だから闇間日(あんかんび)か。それに続いて、闇、水、風、土、氷、光!アンスイフウドヒョウコウ、アンスイフウドヒョウ…)


 この様に、何かにつけて脳内で再生する事によりゼクシオは完全に曜日を間日に置き換えたのだ。


(よっし、確認オッケー!なんか癖で言っちゃうんだよな)


 しっかり覚えている事を確認すると、ガラディーが再び椅子を寄せてきた。


「パンツー、お願いー」


 ゼクシオの肩を揺すって目をウルウルさせている。


「そんなの俺が知りたいわ!」


「うぅ、、」


 突っぱねると本当に泣きそうになった。そこで、ゼクシオは少しは人生の先輩として助言した。


「まぁ、教えてやらんこともないが…」


「本当!」


 そこでガラディーは表情を一転したが構わず続ける。


「やるんだったら今のうちだな。将来大人になって人のパンツを覗いてみろ?そのまま警さ…、治整官に連れて行かれるぞ?」


 警察と言いかけるがきちんと言い直した。その言葉を聞きガラディーは首を傾げていた。


「なんで治整官がそんなことするの?みんなを守るための治整官じゃないの?」


「フッフッフ、甘いなガラディー君。君はまず治整官が何なのか知っているのかね?」


 ゼクシオは不敵な笑みを浮かべた。


「分かんない」


 当然である。組織や機関について詳しい普通の7歳児などそうそういない。


「教えて差し上げよう。治整官は治安整備局に属する役人の事。で、その治整官が…」


「ぞくするってなに?焼く人って焼かれた人?ねぇねぇどう言う意味?」


「お、そうだったな、(まだ)7歳だったな」


「(もう)7歳だよ!」


 そこでゼクシオは今まで周りの理解レベルが高かったことに気づいた。


(もういいや、めんどくせーからゴリ押しちゃお!)


「あー、いや。な?治整官は正義の味方!どんなに小さなことでも見逃さなず誰でも助ける聖人様さ!」


「聖人?」


 ゼクシオはこのまま話してもまともな会話にならないと分かると勢いでねじ伏せた。


「“いい人”って意味。いい人はパンツを覗くことを『悪い敵だ!』って言って捕まえに来るの!」


「なら聖人は悪い人なの?」


「そうとも。彼ら聖人様達は大勢を救うがあまり少数を見放した。だから、我々パンツ難民は苦しんでいる!彼らこそ敵だったのだ!」


「ふーん。なら絵本で読んだ治整官達は悪い人なんだね」


 ゼクシオはここ最近パンツと呼ばれすぎて脳内に概念そのものが染みつき、聞くたびにイメージ画が脳内で放映されていた。そのせいで以前の趣向にパンツも加わってしまい、許容範囲が増えていた。


「そのとうりだ!」


「じゃぁ、腰が痛いお婆さんの荷物を運んであげる事も、迷子で泣いている魔人族の子でも助けちゃうような事も、お腹が空いている人に食べ物を与える事もだめな事だったの?」


「あ、あぅ…」


 ゼクシオは善の心がこの世界で育っていた。て言うか、そもそも前世も悪人では無かったので立派な聖人行為を悪とは肯定できなかった。だから、たった一言の肯定『ああ』が言えなかった。


「子猫ちゃんを助けるのも?お金を拾ったら持ち主へ返すまで寝ないのも?」


「あぅ、あぅ!」


 こうしてほかの場も騒ぎ始め、教室が自習雰囲気では無くなりそうな時に後ろの席の少女は課題を前の机に提出するため立ち上がった。


「退いて、おバカさん」


 アフィナはゼクシオの方を見てそう言うと、ガラディーとゼクシオの机の間を通って前の机へ課題を提出して戻ってきた。


「ベー!」


 ゼクシオは帰りの後ろ姿に舌を出して仕返した。その後、彼女に続くように次々に課題のプリントを提出する子が現れガラディーは焦った。


「パンツー、どうしよー。まだ終わってないよ!」


 だが、ゼクシオは慌てていなかった。


「だから言ったろ?サボり方を覚えろって。サボりのコツは後から確実に宿題になりそうな物だけを選別し、自習中に終わらせる事。そして、後で楽をする。ちなみに俺はお前と話す前から終わってたぜー。さらば、イマドア!」


 指を2本束ねると額に持ってきて敬礼するようなポーズを取り、その指をはねて課題を提出しに行った。


(決まったー。前世の名作品『クロックパラレル』の名言!いつも隣にいる“アイボウ”と共に様々な平行異世界を旅して世界を危機から救う物語が大体のあらすじかな?

 それでは、主人公達が新たな世界に行くと仲間が自然と引き寄せられて増えていく。様々な困難を共に乗り越えていき必ず世界を危機から救うけど、最終的には主人公達の世界の人物に関係ある記憶もその別世界では歪みをもたらしてしまう。

 そこで、アイボウの能力である”記憶消去“で大切な仲間の記憶から自分たちの記憶だけを消す時に放つ言葉。『イつか マた ドこかで アおう!いや、別れにシリアスは要らない。あえて言い直そう。そう、イマドアと。同郷の友よ!さらば、イマドア!』[クロックパラレル,アニメ第1話,さらば同郷の友!より引用]

 そうして陽気な主人公は安心できる姿を仲間に見せつけ、何度も仲間の記憶を消しては世界を渡る。最後には結局…[ネタバレ注意]。くー!いつ思い出してもたまんねー。この一言があの口から生まれクロパラ民も、それ以外の誰もが一度は真似をする名言“さらば、イマドア”!。この世界ではあの作品の感想共有が出来なさそうで残念だ…)


 元気よく席を立ったゼクシオは、帰りに何故か元気を失っていた。


(誰か転生者いないかなぁー)


 そこで、ゼクシオが席につくとチャイムが鳴り同時にミデルゼが教室に入った。


「来るのが遅くなってすみません。では、課題は宿題にしますので明日必ず持ってきてくださいね?忘れたら廊下の雑巾掛け三周です」


『えー!』


クラス内では大半は声を上げ、ゼクシオの隣の住民も困窮しているようだ。


「パンツー、答え教えて?」


「いやだね。さらば、イマドア!」


 そう言うと、ガラディーから逃げるようにその場を後にした。

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