第9話「それぞれの成長」
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集まって来たメンバーはゼレカ+ヘーゼルの病室メンバーだ。ゼクシオは彼らに気づくと練習をやめて話し始めた。
「よ!朝の登校ぶりだけど、どうした?」
「どうした?じゃねえよ!ゼレカメンバーで全員早く魔術を使いたいからお前に頼りに行こうとしてたらヘーゼルが近くで昼寝しててカイの所に行く途中で連れてきた。カイも連れてきて来てみたらゼクが先生とずっと喋ってるし!だから突っ込もうとしたらカイが『先生と話してる時は間に入ったらダメだよ』なんて言うからずっと待ってたんだろが!」
レルロにしては相当我慢したようだが凄いイライラしているのが見て一瞬でわかった。
「分かったからそんな怒るなよ。先生の方から来ただけで俺から話し始めた訳じゃないし」
「でも楽しそうだったじゃん!」
楽しかったかどうかは別として少し熱心に会話したりふざけ合ったりしたのは事実だった。だから、ゼクシオは喉からもう一声出そうとしたが飲み込んだ。
「ゼクがアリデラ先生と話していたのは驚いたけどね」
そう言うとカイも会話に加わって来た。
「いや、あっちから来たんだよ。てかお前先生まで腕に抱えてどうする気だよ!」
「なんのことだい?」
カイには何も自覚が無いらしくイケメンな表情で首を傾げていた。
(こいつら本当に話す内容は結構難しかったりするのに精神年齢っていうかそう言う部分の何かがまだ欠落してるよな。はぁ、俺がしっかりしなきゃ)
こうして、ゼクシオはカイの現状に怒るに怒れない感情になり、今は諦めることにした。ゼクシオの精神年齢が幼くないかは怪しく、このメンバーの中でさえ1番上なのか怪しいが、今はそっとしておこう。
「……で、何するの?もう寝ていい?」
ヘーゼルがやっと口を開けたのでレルロが再び、何をするのる説明しながら怒った。
「だ、か、ら!俺達の魔術を手伝えって言ってんの!いつも眠そうにして馬鹿にしやがって!今日こそ」
言い終える前にヘーゼルに飛びかかっていた。しかし、当たるはずもなくヘーゼルが綺麗に避けてレルロがただ動いただけだった。
「また避けやがって…」
「まぁまぁ、落ち着こうよ。ヘーゼル、レルロは僕の為にも君を読んでくれたんだ。僕からのお願いが遅かったかもしれないけど頼むよ」
「……コク」
無言で何も答えないが行動が肯定を示した。こうして、ヘーゼルが手伝うことを許可したので一行は明るくなった。
「もちろんゼクは手伝ってくれるよね?」
カイが言うと、若干1人の視線が弱いが計3人の視線を一身に受けたゼクシオは断る理由も無かったので協力することにした。
「改めてヘーゼルよろしく!君も今日からゼレカだ!」
「………コク」
「リーダーは俺だ!勝手に入隊させんな!」
こうして、ゼレカメンバーは新規を迎えて魔術練習を開始した。
「っは!っは!ギバル!」
レルロは精一杯掛け声を出し、リオの真似などしながら発動の練習を行なっていた。
「っふ!っは!っせい!」
謎の三段発声をしながらカイも隣で魔術の練習を行なっていた。
「ちなみに2人はどんな魔術選んだの?」
使いたい魔術を選ぶ際に有名な魔術が様々載っている辞典をもらったが、まだ習いたてで文字が読めないゼクシオだけは内容が把握出来なかった。文字は本を読んで半分ほどマスターするのが普通でその状態で入学する子がほとんどだが、魔学舎は皆に平等を与える事が目的でもあるので、きちんと最初から習う事ができる。だから、怪しまれることは無かった。
このように文字があまり読めず辞典の中身が少しでも知りたくて聞いたのも事実だが、純粋に彼らの事について知りたい気持ちもあった。すると、すぐさまレルロから答えてくれた。
「俺様はもちろん雷、 火炎、紫電!」
「……最後のはリオさんのオリジナル術」
「しかも全部中級以上じゃないか!ちなみに僕は火種、水泡、木版だね。手堅く行かなきゃ、段階飛ばしいても何も出来ないよ?」
カイは諭すように優しい顔で言うとレルロはまた声を上げた。
「うるせー!俺はやると決めたらやるんだー!」
「「あはは…」」
「……」
その場ではレルロを信じる者は居らず、彼は声が枯れるまでその日は粘った。
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初日の魔術基礎訓練、生徒間での通称マジュ連は2ヶ月に突入していた。その頃には最初の魔術を使える物がポツポツ現れた。ゼクシオはその間に新たな事が出来る様になっていた。
「っふ!」
手の平の上に広げた氷炎を拳で握り潰すと氷炎の光が漏れ出て来た。そのまま魔術に新た魔力を込め続けると、氷炎に変化をもたらし次第に光が真直ぐに伸びて剣の形になった。体に合うように小さめに作ってあり、まだ完成と言うにはデザインも耐久性も備わっていないが壊しながら使える氷の棒としては優秀だった。それにゼクシオとの間接的な接触、つまり氷炎の棒が折れるまで触れている箇所から徐々に氷化するので意外と侮れない武器になった。この魔術の名前は氷炎剣。まだそのままのネーミングだが、ゼクシオは完成するまで決めるつもりがないらしい。周囲ではそのままでもいいとの声が多数だった。
氷炎剣をここまでの物にするには時間が約1、2分かかるし、行う際の力の入れ方で両方の親指と小指が拳から浮かび、左腕は後ろに反るように伸ばす姿になっていた。なんとも不格好なポーズだがこれで意識を集中していた。ゼクシオはまだ不器用で拙い技術だが2ヶ月でここまで来たのだ。魔術の向上には段階があり、その中でも最初は小規模の魔術を沢山身につけ得意分野の模索と技術向上をする。だから、この成長スピードと赤に特化した鍛え方はアリデラも驚いた。しかし、その後に発した言葉が悪かった。『魔力を込めて具象化する事は凄い技術だけど利用する人は結構いるよ!』
これを聞いた時ゼクシオは酷く落胆した。アリデラも後悔の表情を晒した。だが、利用者は実力が高い人が多く、魔術の具象化武器、通称魔術武器は通称に由来する様に杖が無くても素早くその場で作れる。その威力は形態次第だが効果は千差万別で応用が効くのでとても便利だ。だから元気付けるために『利用者は上級者が多いから大丈夫。今使える様になっただけでも凄いよ!』とアリデラが追加で説明するとゼクシオは再び立ち上がった。
この大きくて早すぎる成果がゼクシオの成果である。あとは小技が副産物としてできたぐらいだ。内容は元々出来ていた空気を凍らせて作る氷壁が最初のものと比べて耐久が上がった事に加え、効果は無いが氷炎剣を作ろうとして出来た氷柱をクナイのように飛び道具として使えるようになった。
第一目標であった氷炎剣が完成体にならず、それも使用者が多いと聞いていたのでゼクシオは気にしていなかったが、戦いではしっかり役に立つ素晴らしい魔術であった。
続々と魔術を習得する物が現れたので、魔術の演習場所が解放された。解放されるとゼクシオは氷炎剣のボロ具合を確認しつつ氷柱のクナイである氷芯の命中率上げの練習を行っていた。今のところ的命中率は20メートル程離れて3割と5歳にしては高い方だった。
一方、その頃カイは有言実行に迫り、木版以外は全て使えるようになっていた。火種は火力が少しずつ上がっているので更に火力上昇と魔力操作ができれば火炎を使える日が来るのも数年はかかると思われるが遠く無いだろう。
レルロは順調ではないと言えば順調ではないが進歩はしていた。宣言した雷、火炎、紫電は何もできていなかったが、下位互換のような火種と小電が使えるようになっていた。そして給食で使うランチマットを忘れた時に『ランチマットが飛んでくればいいのにな』なんて言って魔術を使おうと力を込めて机に両手を向けると何故か木版が発動した。
その日のレルロはとても機嫌が良かったが、魔術基礎訓練の時間では思った魔術が使えず駄々をこね、機嫌が元に戻った。その間、手から様々な形の木片が出てきたのは伝説となり“木片の魔災”が学年での通り名になった。
学校の側にはレルロの生成した木片を集めて“木片の魔災展覧会”なる物が開かれ、日に日に知名度が上がっていた。
魔学舎生活は魔術基礎訓練が中心で周り、皆それを楽しみにしていた。しかし、授業は魔術基礎訓練以外に、魔学、算学、語学、生物学、大陸学、地学の勉強に加え、高学年5、6年から行う対人戦(魔)(武)の2つが必修科目だった。レベルは勿論低めから始めるが、高学年はとても詰め込みできついと噂でゼクシオ達も怯えて、楽しい時間である魔学基礎訓練に逃げていた。