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異世界大陸  作者: キィ
第二章 魔学舎入門
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第5話「変わらない呼び名」

 窓の外では青と白の花吹雪が村の景色を綺麗に彩り、春風が優しく包み込んで眠気を誘う季節。ゼクシオは机で頬杖をついていた。教室内では算術の授業が行われていて、生徒達が一生懸命ノートをとっている。一部の生徒は騒がしくしなったりして注意されていた。ゼクシオの記憶の中ではとても見慣れた光景に加え、既に知っている知識の授業であるため、とても退屈な環境が広がっていた。


「おい、パンツ。ここどうやってするの?」


 肩を叩かれ振り向くと隣の席のクラスメイトが計算方法を質問してきた。教室の男子内ではパンツマンから略式のパンツに呼び名が勝手に改名されていた。魔学舎に来てまだ数十日、一向に呼び名が変わることのない事に内心諦めながらもゼクシオは呼び名の正当化を呼びかけながら相手をしていた。


「はいはい、俺の名前はゼクシオ。ゼクでいいよ」


「分かったから。それでさ、パンツここ教えて?」


(それでさってなんだよそれでさって。人の名前は大事なんだって。上司や先輩の名前間違えてそのうち痛い目みやがれ!)


 ゼクシオは名前をきちんと呼ばれるまで対応しないでおこうと思ったが、それではほとんどの男子の誰とも交流が取れなくなりぼっちになってしまう。それに自分は17歳+5歳のプライドがあるため5歳児に正面から無視することができなかった。だから、嫌々ながら教えていた。


「…はぁ、ここはこうするから3だよ」


「おお!すげー!ありがと、パンツ!」


「はいはーい。お礼はいいから名前で呼んでね!」


 今回はインパクトをつけるためピースを目に持ってきてたが既に向こうを向いてしまい努力が空振りした。


(教えてあげたのに恩知らずめ!)


 同じレベルにならないために歳上としての対応をしているつもりが、いつの間にか同じレベルに成り下がっていた。ゼクシオが隣の席のクラスメイトに気を取られている間にミデルゼは黒板に新たな問題を書き終えた。


「はい、じゃあこの問題をゼクシオ君」


「5です」


「正解。じゃあ次行くね」


ミデルゼは微笑むとサクサクと授業を進めていく。


(いつも俺が別の事してる時にあてに来てるだろミデルゼ先生。それはいいけどそろそろ飽きたな。魔学とか生物の授業になんないかなー)


 算術の授業が終わるまで、ゼクシオは周りの子から聞かれる度に計算方法を教えていた。授業の終わりのチャイムが鳴ると、生徒達は次の授業の準備をし始めた。


「皆さん、次は外で魔植(ティリム)観察をするのでスケッチボードを持って門の前まで移動してくださいね」


『はーい!』


 ミデルゼが次の授業の呼びかけをして出ていくと、教室ではそれぞれ魔植(ティリム)についての話で盛り上がった。


「俺はカッケーの見つけてやるぜ!」


「私、綺麗なのがいいなー」


「ねーねー、私の家に育ててるのがあるから一緒に探そ?」


 時間が経つにつれ、ガヤガヤ騒ぐクラスも1人、また1人と外へ出て行き、次第に寂しくなる。すると最後の方まで出て行かない女の子がいた。


「君は行かないの?」


 ゼクシオは気になり声をかけた。声に気づくも、少女はあからさまに嫌そうな顔をしてゼクシオの方へ1度目をやり、再び手元へ視線を戻した。


(ムカッ。せっかく話しかけたのに嫌なやつだな。でも、何か怒ってる理由があるのかも)


 1度腹を立てるも、再度静かな教室の中で話しかける事を続けた。


「みんな言っちゃうよ?早く行こう!俺もついていくからさ」


「変態さんは結構です」


 そうハッキリ言われ、彼女は1人で教室を出て行った。訳がわからずゼクシオは混乱した。そこへ授業中、隣でいつも話しかけてくるガラディーが教室へ戻ってきた。


「おいパンツ!早く来ないと先行くぞ!」


(…意外といいやつなんだな)


 ガラディーがわざわざ呼び戻りに来てくれたので、ゼクシオは誰かと一緒に教室を出ることが出来た。先へ行くと他にも2人の少年がいた。


「ガラディー君、早くしないとダメだよ?」


「お前らパンツマンがいたら最強だぞ!きっと魔植(ティリム)だってたくさん見つけてくれるさ」


 少し小さ目の少年が時間を注意すると、ガラディーがゼクシオを褒めだした。それに対してもう1人の少年が疑うように聞いてきた。


「本当にそうなのか?」


「ああ!算術ぜーんぶこいつに教えてもらってるんだ!こいつは天才だ!」


(やっぱりこいつアホだ)


「「?」」


 ゼクシオは最後に聞いてきた少年と共にガラディーの評価を再確定した。しかし、最初に聞いてきた少年と本人のガラディーは全く分かっていなかった。ゼクシオはその少年と互いに目が合い、何か共通する考えを感じて腕を組み自己紹介をした。


「俺はゼクシオだ。ゼクでもいいよ」


「分かった。俺はムランだ。なんだかお前とは気が合う気がする」


「ああ、俺もだ」


「こいつが言ってるパンツマンみたいなアホな名前は可愛そうだから俺はちゃんとお前の名前を言ってやる。これからよろしくなゼク」


「ああ!」


 こうして名前で呼んでくれる男子の友達が出来たゼクシオは喜んでいた。その時、少し先で1人歩くさっきの少女の姿が視界に入り、少女の事に気が散り始めた。


(あ、さっきの子だ。いやいや気にすんなって俺。さっきちゃんと助けてやろうとしたし、今は新たな友達が出来たんだ。あんなやつ放っておけ)


 廊下に移動する生徒や休憩中の生徒の笑い声が響く中、少女は1人、歩き続けた。

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