第3話「最低評価」
それぞれ1年の廊下まで案内された。手前から順にAからDまであるようだ。分かれを告げた後、各教室へと入っていった。
ガラガラ
(失礼しまーす)
扉を開けると騒がしい音が漏れ出してきた。中には静かに座っている子と騒いでいる子で二分している。と言っても静かな方はごく少数派でほぼ混沌と化していた。
「おりゃ!俺の紙飛行機すげーだろ!」
「どけ!邪魔だ邪魔だ!」
「ヒャッホー!」
「こら、あんた達邪魔でしょ?ここは女子の陣地よ!」
「うぇーーん。何か当たったよー」
「ぶつぶつぶつぶつ……」
「これでもくらえ!」
「全く、これだからバカ達は」
「ねー。あの子かっこいいよねー」
(誰も気にしてない…。っていうか小学校って最初こんなんだっけ?)
きっとクラス崩壊したらこんな感じなんだろうとゼクシオは思いながら空いている席に座った。外側の後ろ端は女子軍団が占拠し、廊下側の後ろ端は静かそうな子がポツポツ。前ではうるさそうな男子が騒いでいた。男子達は追いかけっこやプロレスごっこのようなもの、黒板に落書きしたり紙飛行機飛ばし、紙くずやボールでキャッチボールをしていた。それに比べれば女子軍団は世間話にかっこいい子の話などまだ可愛い方だった。その中には1人だけ男子に注意している子がいるが誰も聞こうとしていなかった。
ゼクシオは、廊下側の後ろ端スペースで空いているところに座っていた。
「あ、ゼクシオ君…」
名前を呼ばれて振り向くと、そこには見知った友達がいて安心した。そこにはとてもまともなリーフィがいたのだ。
(おおー、神よ!俺を助けてくれてありがと〜)
「あの、そろそろ私に言うことない?」
「一緒のクラスになってくれてありがとー」
そう言って手を取ろうとしたらリーフィに手を叩かれてそっぽを向かれた。いつもゼクシオは目を合わせてくれないと思っていたが、ここまで嫌われていると思わなかった。
(前からこの子の俺に対する反応はなんだ?明らかにおかしい。覚醒前に何かやったとしか説明がつかないが、それじゃどうしようもないな。分からないから今日聞いておくか。もう嫌われるのは嫌だし)
記憶のずれで怪しまれたくなかったゼクシオは、リーフィに渋々質問した。
「あのー、前からなんでそんなに俺の事嫌いになってんのかと思ったけど、俺なんかした?」
その言葉を聞いてリーフィは体をビクつかせ、徐々に顔を赤くした。そしていきなり立ち上がると、振り返って叫んだ。
「ゼクシオ君が!わ、わ、私のパンツ見て謝らないからじゃない!」
その言葉で教室は静まり帰った。皆驚いて2人を凝視している。
「森事件の一週間前、風が吹いてスカートめくれた時にゼクシオ君に見られたの!それなのに…、ずっと何も言ってこないし、………グス。わだしが今までずぐににげでだから今日こそとおもっでやっとぎいだのに、わからないっで、うぇーーん」
途中からリーフィは泣き出した。周りの反応が引いていくのをゼクシオは感じながらもう一度向き合った。そのまま放置しておけばどんどん周りの評価が下がり、リーフィとの関係も危うくなってしまうと考えたからだ。
「ごめん。そんなに嫌がっていたなんて思わなかった」
「忘れてなかったの?」
「ああ、逃げられていたのは別の理由で、その理由を俺が忘れていたと思ったんだ。そんなに傷つけていたなんて知らなかった。ごめん」
「ほんと?」
涙目でこちらを向いて来た。
(まさかそんなことで避けられていたなんて…。もう仕方がない。ここはごまかしてなんとかしなきゃ)
「ああ。もうそんな事しない。今まで本当にごめん」
すると周りから笑いが一斉に起こった。
「アハハ、あいつ女の子にパンツ見たって怒られてるぜ」
「キモ、顔はかっこいいのに。こっちこないで!」
「パンツ!パンツ!」
『パンツ!パンツ!』
「男子もサイテー」
『サイテー』
変なコールが始まってゼクシオは困惑した。リーフィは再び泣き出し、クラスは本当にめちゃくちゃだった。
ガラガラ
「無音」
「……………」
誰かがいきなり入ってきて声が、音が教室から存在を消した。みんな動いたり声を出そうとしたりするが全くの無音だった。
「はい、みんな席に着くように。そうしないと今度はもっと怖い目に合うよ」
その男は、朝ゼクシオが会った先生と呼ばれる男性だった。彼は笑顔で言うが、教室から音を奪ったのは誰が見てもはっきりしていた。その張本人がまだ何かしてくると言葉を発したので、皆本能的に従った。
「よし、いい子達だ。これからこのクラスの担任をします、ミデルゼ・ルディルクと申します。得意魔術は光です。私の息子は皆さんと同じで今年から入学しました。仲良くしてやってくださいね。これからいろいろあると思いますが、間違える事は大いに結構。しかし、責任の取れる人に成長してくださいね。それではよろしくお願いします」
『…………』
ミデルゼ・ルディルクと言った男性はいきなり教室に入って来て笑顔で自己紹介をした。もちろん生徒達は誰1人追いつけておらず、一瞬で置き去りにされた。まず、目が笑っていない。その怒ったら何をするか分からない怖さが生徒達を支配していた。
(ルディルクって、じゃあこの朝の人がヘーゼルのお父さんか。全然性格似てないな)
ゼクシオがそう思っているとまた勝手に話し始めた。
「皆さん既にお揃いのようですので、これから整列して入学式のため体育館へと向かいます。式中は静かにしてくださいね。まだ来てばっかりで、じっとしておく事はきついでしょうが大丈夫。その時は私が教えて差し上げます。さぁ、廊下に並んで並んで!」
『はぁ?』
すっかりミデルゼのペースに飲まれ、生徒達は混乱するしかなかった。だが何をされるかわからないので、大人しく整列した。その後、体育館へ入ると在校生が迎えてくれてくれた。入学生が椅子に座って校長の話を聞いた後、教室へ戻った。その式の約1時間半の間、新入生達はソワソワしながらも騒がず時が過ぎ去るのを待つことができていた。
(なんか前世と変わんなくてつまんないなぁ)
ゼクシオは終わり頃にそんな事を思っていた。教室へ帰った頃、流石に疲れたのか再び朝のようにCクラスは騒ぎ出した。するとゼクシオが知らない子から声をかけられた。
「なぁパンツマン!」
ゼクシオはもう静かに過ごそうと思ったが、見つけられていじられる。
「おいおい、パンツマンはどんなパンツ見たんだ?教えてくれよー!」
「サイテー。男子なんてみんな魔物よ!」
「何だとー!」
ゼクシオを中心に会話が発展して、とうとう男vs女の戦いへと発展しようとしていた。互いに対立する様に陣取り、最初の1人が動き出して周りも動き出した。教室中で物を投げ合ったり押し合ったり追いかけ回したり、それぞれ思い思いに攻撃しあっていた。ミデルゼがまだ帰って来ていないので教室は再び混沌と化す。すると
「ハァ、全くこれからが思いやれれるよ」
いつの間にか教室の真ん中へミデルゼは姿を晒していた。現れたその場所へ1人の投げた石が当たりミデルゼはそっちへ顔を向けた。投げたのは騒がしい少年の様で、当ててしまったことに焦っていた。
「お、俺は先生目掛けて投げてねえからな!」
「おやおや、『投げてしまった石が私に偶然当たった』と言うのですか?」
「そ、そうそう」
石を当ててしまった少年は首を縦に振り肯定した。実際投げた場所にいきなり現れたのでそのとうりではあった。
「それなら仕方ありませんね」
ミデルゼの顔は微笑んでいた。そのため少年は怒られずに済んだと思って胸を撫で下ろしていた。しかし、それは最後の一言で少し違う結果となった。
「ならば、責任を取りましょう!私もこれから毎朝早く来るので、一緒に教室掃除をしましょう!間違えたとは言え、物を投げる事はいけません。掃除をする事で心を綺麗にしましょう!」
「お、俺だけじゃないし!みんなも物投げてたし!」
少年は自分1人では無いと叫び始めた。その言葉を聞いて周りの男女がそれぞれ声を上げた。
「私達何もしてないしー。ねぇみんな?」
「彼女はしてたけど僕たちまで巻き込む事はしないでくれ」
「はぁ?私達は何もしーてーまーせーんー!」
「まぁまぁ、誰もが最初は間違える事はあります。知らない顔をして見ているだけなのも陰で悪口を言うのもそれぞれ誰かを助けていることにはなりません。ですからこのクラスはこれから朝早くに学校へ来て掃除をしましょう!サボっても知りませんよ?」
しかし、今回は声を聞き受ける者は少なかった。
「私しーらない」
「そんなの誰がやるか!」
「まぁ、いいでしょう。帰りにもう一度言いますので、今は皆さん座ってください」
ミデルゼは手のひらを広げて輝かせた。魔術だと分かったので、嫌々全員着席した。
「皆まだ素直で助かりました。このまま座らなければ掃除を追加する所でした」
全員『脅しだろ』と思いながらも話を聞いていた。
「それでは私の自己紹介はもう終えているので今から皆さんの自己紹介時間にしようと思います。右前の人から1人ずつ前に出て名前と好きな食べ物。それから覚えたい魔術を言っていきましょう!」
順々に自己紹介を終え、次はゼクシオの番が回って来る。
(フー。ここは一発、人生の先輩としてお手本を見せるか)
前に出ると堂々と自己紹介を始めた。
「僕の名前はゼクシオ・アロンスフォートです。みんなからゼクって呼ばれたりするので気軽に呼んで下さい」
「違う!こいつはパンツマンだ!」
『パーンツマン!』
『男子サイテー』
自己紹介が途中で終わり、またコールが始まった。ゼクシオはここまでアウェイ環境にいるといじめられている気分になった。
(俺はこの世界ではいじめられっ子なのか…。知らない間に積んでるなんて)
ゼクシオは目に涙を浮かべていると、ミデルゼが声を発した。
「こらこら、いじめるのはいけませんよ」
この言葉を聞いてゼクシオは安心した。先生が意外とまともで、先に希望が見えた時、この掛け声の流れを作った少年が声を上げた。
「コイツ女の子のパンツ見たんだって。それでさっき女の子泣かせたんだ。パンツ見たからパンツマンだ!」
「そーだそーだ!」
「サイテー」
「いーなー」
また始まって騒がしくなった。そこでミデルゼはまた話始める。
「知ってますよ。ずっと外から教室の話は聞いてました。しかし、彼はきちんと謝りました。きちんと謝って、見てしまった責任を取りました。彼の態度を見れば心から謝っていることは分かります」
その言葉を聞いて皆沈黙した。ゼクシオも助けられて感激していた。
(見てしまった記憶はないけどきちんと謝ってよかった!良い先生だ!)
「しかし、レディーに対してそのような行為は失礼です。それにまだまだ釣り合いは取れていないでしょう。仕方がありません。やはり奉仕活動は欠かせませんね」
その言葉を聞いてゼクシオは少し落胆した。
「さぁ、ゼクシオ君。自己紹介を続けて」
「…はい」
自己紹介を終わらせ席に戻るが、すでに周りからの視線が痛く、友達ができるか分からなくなった。最後の1人が終わったが、ゼクシオはあまり名前を覚えることが出来なかった。出来たのはさっきから先生と会話していた少年のラドと途中途中で仲裁に入っていたケイラのみ。
「では今日はすることもないので解散です。明日掃除に来る様に!皆さんさようなら」
『さようなら!』
ミデルゼが退室するとみんなが再び騒いだり帰ったりし始めた。
(1クラスは30人か。名前は少しず覚えるか。友達できるかな…)
ゼクシオは小さな体でそんなことを1人、机の上で悩んでいると背中を叩かれた。顔を上げるとリーフィがいた。
「さっきは悪者にしてごめんなさい。あ、朝謝ってくれたのに私が泣いちゃってゼクシオ君がもっと変態って思われちゃったから。その…、私もごめんなさい」
(もっと変態って。元からそうだったような言い方だな。でもまだ嫌われていなくてよかった。ん?でも俺が見た時期が半年前だから…、執念深!)
ゼクシオは脳内でいろいろ評価を改めていると、無言だったのでリーフィがまた泣きそうになった。
「も、もしかして嫌いになった?ご、ごめんなさい!」
「あー、いやいや全然いいよ。俺が悪かったんだし」
(ッチ、どうせ謝るならやっぱり見ておかないと俺が不憫じゃないかー。それにこの子ちょっとめんどくさ)
「よかった。私はもうパンツ見られたのは許すからゼクシオ君も見た事忘れてね。それじゃまた明日!」
そう言って別の子達と帰って行った。
「キモいねー」
「リーフィちゃんは悪くないよ」
リーフィについて行った子達がそんな会話をするのが聞こえてゼクシオは精神が削げていった。
(どうせだったら見たかったー)
しかし、その後リーフィが俺を庇う声も聞こえてきたので少しほっとした。
「はぁ、周りの子は知らない子ばかりだし帰るか。レルロ達待ってくれてるかな?」
ゼクシオは1人で呟いて席を立つと、そこら辺の男子達がやってきた。
「なーなー、パンツマンは何色見たんだ?」
「やっぱり白だよな」
「でも刺繍入りの可愛い系もあり!」
そんな事を聞いて来る変な2人が来た。
「あ、あー。半年前で覚えてないんだ。それに俺はそんなレベルのは興味ないし…」
ゼクシオは自分の趣味がズレているのと、実際には見ていないので特に話せることもなかった。
「忘れるわけないだろ!正直に話せ!」
「レベルってなんだ!至高の存在の素晴らしさがわからないのか!」
(めんどくせー、コイツら)
2人が騒ぎ出し周りの男子がまた集まってきた。その後、ゼクシオは苦労しながらも外へ出た。