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異世界大陸  作者: キィ
第二章 魔学舎入門
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第1話「道端での復讐」

 目を開けると、そこにはもう見慣れた天井があった。アメルの足に蹴られる毎朝、たまに早起きして鍛える日々、そして話し相手となるメメに大切な家族。村の友達に村のみんな。この世界で様々なものが増えた。時には危険もあり迷惑もかけるが、それでも前世より真っ当に、真直ぐに成長している実感がゼクシオにはあった。


 もうすぐ最初に支えてくれた内の1人、今の父親のリオとは離れて暮らす事になるが会うたびに驚かれる様な成長をする事を目標に掲げた。そして今日、この日はその為の大きな節目となるだろう。


 今年から7歳になる子ども達はこれから6年間、世界で生きて行く為の最低限必要な知識や魔学などを魔学舎で学ぶ。その後12歳から15歳の間、発展期と呼ばれる将来を決めて行く期間に入りそのまま就職する者、魔学園で更に魔学や知識を蓄える者、冒険者として生きながら様々な仕事をこなす者、兵士として国を守る者と様々な道に分かれて行く。つまり、ゼクシオは今人生で初の学校に行くのだ。


「おはよう、メメ」


「……」


 目を眠そうにして開けるが再び閉じてしまった


「今日から学校だね。前世のはそんなに楽しい思い出なんて、本当に低学年の頃の方が多かったけど、今回はしっかり楽しめるよう頑張るよ!」


「……」


「可愛い子もいないかな〜?」


 そう呟くと、メメに睨まれゼクシオは黙り込んだ。枕元に置いているメメに話しかけ終えると肩に乗せ、朝日に照らされている部屋を後にした。


 これからリオが離れてしまうから家ではメイドのお手伝いさんを1人雇っている。だから部屋ではルザーネとメイドのヘレンが朝の家事をしていた。


「おはようございます、ゼクシオ様」


「おはよう、ゼク」


 ゼクシオはメイドからの態度に慣れずに愛称で呼ぶ許可や敬語不使用の許可を出したがなかなか受け入れてくれない様だ。


「おはよう。それと、ゼクシオ様じゃ調子狂うからゼクって呼んでほしいな。ね、お願い?」


「結構です。私は仕事で来ているので」


「もぅ、調子狂うなぁー」


 今日は可愛いに徹しようと思い作戦に出たゼクシオだったが結果は変わらなかった。その後、ヘレンのまだ幼さが残る凛とした姿を見てゼクシオは気合を入れて今日一日を始める。


 リオとアメルが起きて朝ご飯をみんなで食べた。ヘレンは『私は後で食事を取るので』っと言って他の作業に移った。


「一緒に食べればいいのになぁ」


「そうね、でも仕方がないわ。仕事で来ているからこの家で気を緩めても他の所で役に立たなくなってしまうだけだから」


「そうゆうものかなぁ」


「ま、確かに頑張りすぎるのも心配だけど。ゼクは他人思いのいい子ね」


(ただ気になるだけなのにな)


 カルチャーショックを受けつつも仕方なく納得して食事へ移った。今日は入学式のため、ゼクシオの好きな料理の内の一つでパンに肉を挟んだ料理だった。それを食べ終えると魔学舎へ行く支度をした。魔学舎では貴族も平民と平等にするため差のつかないよう各学舎ごとに制服指定なのでその服に着替え、カバンを持った。そして、いよいよ新人生初登校日を迎える。


「行ってきます!」


『言ってらっしゃーい』


「行ってらっしゃいませ」


 みんなに出送りをして貰っていよいよ魔学舎へ行く。入学式は村の仕事もあるので親は不参加だった。リオは息子の最初の晴れ舞台を見にいけないことを昨夜嘆いていたことを思い出した。


(昨日の父さんほんとおかしかったな。やけくそで飲みまくって酔っ払いながら叫んでたし。よし、俺がしっかりして安心させてやるか。俺の魔道人生の支えだしな)


 レウィグ村は村の規模が大きく村では普通1、2校舎なのが5校舎もある。町と少ししか変わらない規模だ。

校舎は少し歩いた所にあるので、ゼクシオは歩いて登校していた。


「っよ!ゼク。俺たちも今日から立派な魔学生だな」


 レルロと最初に会った。お互い初登校日で心がウキウキしていた。2人とも魔学を学びたくて疼いていたので、本当に念願の登校日だった。


「っよ!制服似合ってるな」


「だろだろ?」


「うん!」


 ここ半年でゼクシオはレルロとの接し方は学んでいた。大抵褒めておけば上機嫌で気のいいやつなのだ。それにゼクシオは意外と気が合うので、みんなにいじられてる時にちょっと同情してあげたりする様になった。


「ゼク!こっちこっち!」


 振り向くとセナも近くにいた。ゼクシオを見つけることができて嬉しそうにしながら近寄ってきた。その姿は制服も似合っており可愛らしい姿だった。


「今日もセナは可愛いなー。ッチ、またゼクかよ。いーなー」


「まぁまぁ、そんなこと言わないの。今日から立派な魔学生なんでしょ?」


「当たり前だろ?って今度はカイかよ」


「後ろから失礼」


「………」


 後ろからいきなり話しかけられて気づいたらカイとヘーゼルもいた。2人も加わり男グループが完成した。気づけばチラホラ同世代の子ども達も家を出始めたり登校する人数が増えてきている。初登校という日であるため、他の子は緊張している子が多い様だ。もちろん他学年は入学式に参加するためこの中にもいる。その群集の中に1人、ゼクシオ達とよく遊ぶ子がいた。


「……ダイ、ジョウブ。……ダイ、ジョウブ」


 その子は人形を抱きしめながら1人で何かを呟いて歩き、ガチガチに緊張していた。ゼクシオだけが気付き、みんなを待たせてその子に声をかけに行った。


「おーい、リゼー。ゼクシオだよ。ゼクシオ!」


 少女は聞き覚えのある声を探してその姿を目で捉えると安心して息をつき、てくてく近づいてきた。


「…ン、探シタ。ゼク君有能」


「有能なんて難しい言葉使うね。それより大丈夫?ガチガチだったよ?緊張してるの?」


「…大丈夫。モウダイブ落ち着いた」


 言葉の片言は少し抜けて、女の子は成長が早いとゼクシオは実感していた。しかし、言葉は成長を見せても体がまだ震えていた。


(俺は鈍感主人公じゃないから見逃さないぜ!)


 そう思って震えている原因を排除してあげようと一発芸を考えていると、上から影がかかった。上を見上げると、そこには少し身長の高い上級生らしき少年が3人いた。リゼは3人の存在に気づき、ゼクシオの後ろに隠れて怯えていた。


「よぉ、また会ったなチビ。この前、ぬいぐるみを俺たちが魔術の実験台として使ってやったのによくも仲間を呼んだな。でも今は2人の様だな。この前はちょっと強い女魔物がいたが、こんなヘナチョコ坊主なら余裕だぜ。おい、お前ら、こいつの人形を取れ。俺様が有効活用してやる」


「ヘイ兄貴」


「おっしゅ」


(こいつらはレルロと違って中身までガキ大将な様だな。それにリゼ相手だなんて弱い物いじめにも程がある!デカイガキに親のスネかじってそうなガキ。それにちょっと体型がポッチャリのガキか。こんな弱い者いじめをするようなガキじゃなくて、俺はどうやら最初の友達には恵まれていたらしい)


 主犯格らしき少年は2人を使って近寄って来る。そこで今まで冷静になってはいたが、今までいじめっ子への対処経験がないことに気づき、焦り始める。


(やべ、俺怖そうな子に言い返したことない。でも、こんな小さな女の子をほっとくなんて、俺の前世の学校生活の思い出よりも災厄な思い出を作ってしまう。それに、やっぱり異世界来たからには人助けは宿命ですから!)


 変な自信の付け方をしたものの、その場から立ち去ろうとした弱い心は押し殺すことができた。


「お、俺は!魔術が使えるぞ!それ以上近づいたら発動するからな!」


今は魔術しか頼る事は出来ないので、魔術の存在を知らせる。しかし、少年は全く動じない。


「っへ、そんなのあり得ねだろ。普通魔学舎に入って魔術を覚えるんだ。それにもし使える奴がいてもまだ半端な魔術しか使えねえんだろ?」


 そう言ってあしらわれた。他に出来る事は拳で勝負だが体格差的にも今の技術的にも難しいそうだったので、魔術で対処する覚悟を決める。


「…だったら来てみろよ」


 ゼクシオはそこで少し落ち着き、雰囲気が変わった。今は周りの子達がこちらを気にしてチラチラ見たりしているが、入学生のような子が多く、関わろうとしてこなかった。


「ほう、入学生のくせに肝が座ってるな。気にくわね、俺様自ら魔術を使ってやる」


「それは不味いですよ!魔術を使って怪我させたことがバレればせっかく貰った色賞が減っちゃう!」


そこで初めてリーダー格の少年の近くにいた1人の少年が反対した。リーダー格の少年はギロッと睨んですぐに自分を肯定し返した。


「そんなの天才の俺様ならすぐ取り返して見せる!」


「で、でも…」


「いいから黙ってみとけ」


 そう言って目を瞑りリーダー格の少年は沈黙した。呆気に取られてゼクシオは顔で「ハ?」と言う顔をしてた。


「あ、あのー。何してらっしゃるの?」


「静かにしろ。魔学舎の6歳の中で去年最初に魔術を習得したバニラ様が魔術を使うために集中してるんだ。こんな神聖な儀式を拝められることに感謝するんだ」


「ッハ、ッハハ」


 魔術に時間を掛けていることが分かり、ゼクシオは肩の力が少し抜けて緊張感も薄くなった。


(恐れ損だな。俺なら今すぐに魔術を発動させることが出来るが、この少年は発動までまだ時間がかかるらしい。発動の差で俺が後出ししても打ち消す行動が可能だ。でも、相手に当てて怪我されても困るから恐れさせる程度で…。どうやっておそれさせる?)


 そう思っているとリゼが左手を握ってきた。


「どうした?最初はビビったけど俺も魔術使えるからきっと大丈夫」


「あいつの魔術は爆発する。前も人形爆発させられた…」


「そうなのか。そんなの自分も危ないのになんで使うんだ?アホじゃん」


「赤い粒が飛んできて、当たったらそれが爆発しちゃう。でもあんまり大きな爆発じゃなかった。前は音でみんな気付いて来てくれたけど…、ぬいぐるみが……」


「爆発系は厄介だな。でも大丈夫。他の子も近くにいるし、俺が氷でリゼも人形も守るよ」


「…ウン」


(爆発は食らうと厄介だな。離れて受けるか…)

 

 話し終えると、少年の準備もできた様だ。目を見開くと、叫びながら放った。


「くらえ!必殺、衝撃弾(ショックバレット)!」


 手から赤黒い小さな点が一直線に速くもなく遅くもなく飛んできた。


(氷炎(フリズレイム)!)


 ゼクシオは心の中で詠唱し、右手から氷炎を出した。それを前方で腕を振って空気を凍らせた。一瞬で氷の壁ができ、赤黒い点は氷に当たって破裂した。思ったより衝撃はなかったがびっくりする程度ではあった。しかし、氷はまだ薄かったため壁も壊されていた。


「思ったよりやるな。よし、お前らも魔術を使え!」


「や、やってやるよ。もうどうにでもなれ!」


「おっしゅ!」


(クソ、手数の多い時は捌くの大変なのに…)


「待ちなさい」


 そこに1人の大人の男性がいきなり間に入った。


「あなた達、何をしているの?」


「っへ、俺様に楯突くから魔術を見せてやっただけですよ。センセ」


「「うん、うん」」


 相手の3人は悪魔でただ魔術を見せただけだと言うようだ。


「しかし、監視無しの危険な魔術の使用は指導対象ですよ?」


「ッチ、センセ。俺達はただ教えていただけですよ。俺たちでビビるくらいなら、先に進まない方がいいぞって言う」


「ハァ、あなた達はまだ見たところ今年から二色生ですね?そんなに修羅場をくぐって来たんですか?」


「もちろん!」


『………』


 周りに沈黙が流れた。


「………、兄貴、俺達も流石にそれはないと、」


「おっしゅ!」


 少年は仲間に否定され、逆ギレしながらも話を続けた。


「うるせえ!それで俺たちはどうなるんだ?」


「そうですね、あなた方はどうやっても再び同じ事をするでしょう。ですから今日から2週間、周辺地域への奉仕活動にしましょう!」


「「ええーーーー!」」


「おっしゅーー!」


「それでは、この子達に用があるのであなた達はこの後呼びますね。では先に学校へどうぞ」


「めんどくさいことになったな。ッチ、もういい、いくぞ!」


 そう言って3人は行ってしまった。周りの子達も騒動を見ていて、気づいたセナ達も近寄って来るのが見えた。男性は近寄って来る子どもに気づいた。


「どうやら友達が一緒の様ですね。話したかった事はありますが、それでは後ほど魔学舎で」


「あ、まってください!」


 ゼクシオが言い終わる頃には、先生と呼ばれた男性は光となって消えてしまった。一瞬の出来事に2人が困惑していると、セナ達がやって来た。


「ゼクとリゼちゃん、大丈夫?」


「うん、なんとか」


「………コク」


「良かった。入学式に怪我したらみんなに心配するよ?」


「そうだね。心配させてごめんな」


「本当だよ。それになんでリゼと手を繋いでるんだよ!」


 レルロがそう言うと、ゼクシオはやっと気付いて手を離そうとするがリゼは離さなかった。


「まだ怖い?」


「…もう少しダケ」


「分かった。ならそのままにするね」


 ゼクシオは微笑むとそのまま手を握っていた。セナもカイも暖かい目で見ているが、レルロだけは黙らなかった。


「俺は分かってねーぞ、ゼク!おい聞け!」


「………、うるさいな、立ったまま寝れないじゃないか」


『アハハは』


「何も面白くねぇ!」


 こうしてゼクシオは初日の登校を迎えていた。

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