第25話「人員補給」
魔学舎入学目前に迫って、アロンスフォート家ではある家族会議が行われていた。
「と言う事でメイドさんを雇います」
「はい!」
「ええーー!」
リオのその一言に対し、ゼクシオは歓喜し、アメルは拒絶の声を上げていた。
「いーらーなーいーそんなの!私がちゃんと手伝うのー!」
「母さんは大変だろうから賛成だよ!でもメイドを選ぶときはこの僕もぜひお誘いください」
ゲス顔でそう言った。普通ならこのゼクシオの姿を見てもただの下心丸出しの変態に見えるだろうが、容姿は幼く可愛らしいので親達は特に気にすることもなかった。アメルだけはその異変に勘で気づいて理由がないが必死で止めようとした。
「実はもうある程度決めてあるのよ」
「やったー!」
「ええー!」
そう言って、三枚の少し幼い少女の写真を並べた。
「この子達の中から1人だけ選ぶわよ」
「母さん、みんなまだ子どもだよ?」
「そうよ。みんな今年から発展期入りなの。あなた達と歳も近くて頼りやすいかなーって思って」
ゼクシオは心の中である考えが蠢いていた。メイドはまだ幼く12程度、ゼクシオはまだ6歳。そして相手はメイドとしてやってくる。つまりこれは完全に合法的な出会いなのだ。前世の知識がある分、想像がどんどんピンク色に染まっていき、その過程をアメルだけは感じ取り、寒気を覚えていた。
「さぁ、一緒に選びましょ?」
まだ文字が読めなくて情報は分からないので、ゼクシオは好みで選ぶことにした。
「「えっと…、この子」」
アメルは1番しっかりしてそうな子、そしてゼクシオは好みで選び、同じ子を指名した。
「この子は……、隣町のヘレン・モールドちゃんね。魔学舎の成績優秀、家事全般ほぼ完璧、礼儀作法もマスター済み。ワオ、パーフェクトだわ。この子、この歳でほとんどできちゃう。とっても良い子そうだしこの子に決定ね?」
「母さんは内容は確認済みじゃなかったの?」
「町にお父さんが行って、発展期入りの優秀なメイドさんを紹介してもらっただけで私も今見たわ」
「そうなんだ。でも、その子凄いね。なんでもできちゃうじゃん!」
「あの、そのことなんだが…、実はその子だけ優秀だが難ありの様で……」
リオがそう絞り出して言うと周りの視線を一斉に集めた。ある者は『なんで?』と言う疑問の目で、ある者は『こんなに優良物件見逃せるか!』と憤怒の目で、ある者は『こんな優秀でしっかりしてる子以外この家の適任者は居ないのに!』とまたも憤怒の目で。その中でリオは町で聞いた話をした。
「この子には優秀で完璧過ぎる故に人との交流が苦手らしいんだ。だから家に呼んでも空気が悪くなって普通の家からは追い出さすだろうって。魔学舎でも貴族にいきなり手を上げ、何をするか分からないと。でも彼女は口数は少ないが少数の友達はいる様だ。しかし、俺が居ない時に何かあったら…」
「気に入った!」
「え?」
「ゼクシオ、アメル。あなた達はこの子の友達になってあげて。友達は多い方がいい事をよく知っているでしょう?」
「「はーい!」」
「よし、決定ね」
「話を聞いていたのか?だからもしもの事が」
「心配ないは。それより私はこの子に助けてもらいたいし、助けてあげたい。あなたをここまで変えた私よ?不可能は無いわ」
「………、ハァ。そこまで言うならいいか。ゼクシオ、アメル。この子に頼りすぎもダメだぞ?しっかり母さんを支えてくれよな」
「「はーい」」
こうしてリオは再び町へ向かい、数日後家にメイドがやっっきた。
「初めまして。私はメイド見習いのヘレン・モールドと申します。これからお世話になります。以後お見知り置きを」
そう言って右足を左足の後ろに回し、スカートを持ち上げ軽く会釈をした。髪は春風でそよぎ、春の陽射しが彼女を照らす。そのカーテシー姿はあまりにも綺麗で皆見惚れていた。
(綺麗……)
「初めまして。ヘレンちゃん。私がここの家の主人の妻、ルザーネよ。よろしくね」
そこでルザーネが初めて言葉を発した。
「こちらこそ、奥様」
「それにしても綺麗な挨拶ね。この歳でここまで堂に入ってるなんて凄いわ!私も見入っちゃった」
この言葉を肯定する様にゼクシオとアメルは頷いていた。リオも嬉しそうにしながら話し始める。
「本当によくできた子だよな。この子なら家は任せそうで安心したよ。よし、外にずっといるわけにもいかないし家の中に入るか」
そうして新たな人物を招き入れた。その後すぐに仕事を覚えるためテキパキとルザーネやリオの家事の助手をし、次の日には既に1人でなんでもこなしていた。食事もメニューを作っていつ何を食べたかチェックをつけて健康に気を使ってくれる。しかし、レイアのあやし方だけは苦手な様だった。
「オギャァ、オギャァ」
「ヨシヨシ、ダイジョブですよ」
「そんなに硬くならなくてもいいよ。もっと優しく」
「ヨシヨシ」
(初めの挨拶もそうだったけど、ヘレンは無愛想と言うか無機質な機械と言うか…、笑えば可愛いのになぁ)
ゼクシオはそう思いながら眺めていた。ヘレンはとても美しくなんでもこなしてしまうが、今の所無愛想と赤ちゃんのあやし方が欠点だった。
「ほら貸してみて、やってみるから」
「……はい」
「よしよし、いい子ね」
すると次第に落ち着き寝入ってしまった。ヘレンは目を丸くしてレイアを見つめていた。
「赤ちゃん好き?」
「…分かりません。でも不思議です。こんなに小さいのに笑ったり泣いたりして。本当にこんな生き物から、私の様な人間が生まれて来るのでしょうか?」
「生き物って、あなた面白いわね」
そう言ってクスクス笑いながらルザーネは言うと、ヘレンは不思議そうにした。
「私が面白いですか?」
「ええ」
しばらく笑って落ち着いたら話し始めた。
「ごめんなさい、お詫びにあなたの質問に答えるわね。」
ルザーネはレイアを見つめながら様々な事を考えていた。そして再びヘレンの方へ向くと、優しく微笑んで語りかけた。
「赤ちゃんは、産まれればいずれあなたの様に成長して行くわ。その生い立ちは様々でも産まれてきてくれたことに誰かからは必ず感謝される。…それが親でも親じゃなかったとしてもね」
そう呟くとヘレンは何か分かったのかホッとした様な、そう言う顔を浮かべた。
「さぁ、もうお昼ね。ヘレンちゃんご飯の支度をお願いできるかしら?」
「…はい。喜んで」
弱点を克服するのはまだ先かもしれないが、ヘレンは少しずつこの家に馴染もうとしていた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。まだ初心者でいろいろ試行錯誤をしているのでおかしなところがあれば遠慮無く言ってください。
これからもよろしくお願いします^_^