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異世界大陸  作者: キィ
第一章 記憶覚醒
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第24話「春の訪れ」

「ふぅ、よし!風呂に入るか。メメも入るだろ?」


「……」


 メメは目を開いて目を細め、また閉じてしまった。そのままゼクシオはメメを触り、意思疎通をしていた。ゼクシオがメメによく話しかけているので、以前より目を開く機会が増えた。今は季節の関係か雪に近い氷になったりしていた。


 まだ肌寒い朝の訓練を終え風呂へと向かう。風呂を上がったらルザーネがレイアを子守しているので、リオと朝の準備をする。リオは春開けに向かうのでゼクシオが魔学舎に行くまで家にいる。


 朝の食事を終え、リオとゼクシオは家事をささっと始めだし、アメルは友達がやって来て遊びに行った。アメルは同世代であるユミーユとフォルテ達と最近よく遊んでいた。ゼクシオは家事の手伝いを終えるとレルロ達と遊びに出た。


「それじゃ、行ってきまーす」


「お兄ちゃん達は遊びに行っちゃったわね。あら、寝ちゃった?上の子の成長が早いからってレイアは焦ったりしないといいけど…」


 ルザーネは上の子の成長に焦ってレイアが焦らないか心配だった。


「この子はマイペースの様だし、自分のペースでやっていくさ。でも確かにそうだな。森で魔物に襲われた時も立ち直るのが早かったし、精神の成長スピード速いよな。さすが俺たちの子だ。ハッハッハ」


 リオはそう言い、騒がしかった家でスヤスヤ寝入ったレイアを見つめ、子どもに帰った様に笑った。


「そうね。私達はいつもあの子達に助けられるわね」


「ああ、元気な姿を見ると昔の辛い事からも救われる」


 そう言って少し寂しそうな顔で、窓から暗くなった遠い空の先を見つめ、昔を思い出していた。


「忘れるわけでは無いけどあの頃を引きずりすぎても、誰も報われないわ」


「ああ。それに、あいつらのことだ。俺達みんなが前に進む事を望んでいる」


 リオは窓から振り返り、少し顔を明るくした。明るい未来を見据える様に。


「…そうだといいわ」


「きっとそうさ」


「ええ…。私もそう思われている事を望んでいる。みんな自分にやれる事は全てやったものね」


「後出来ることは、子ども達を守ってやることと、俺達があいつらみたいになる奴を少しでも減らしてやる事だ。王都に行ってやれる事はやるさ」


「張り切りすぎていじめちゃダメよ?あと、上の人に敬意とか払ってね」


「俺は子供じゃないんだ。そう心配すんな」


「成長したのね」


 彼女にとってその変化を感じることができるのは嬉しかった。そう思うと自然に笑みが溢れる。


「…時間の問題さ。人は慣れていく生き物だ。それに、成長出来なきゃは人も周りも変えられない」


「子どもができて変わったのかしら?でも私は好きだよ?昔のあなたも、今のあなたも」


「俺もお前には感謝している。こんなに幸せな家庭を作ってくれて、一緒に同じ道を歩んでくれて」


「あら?感謝するだけでいいの?」


 わざとらしく惚けて欲しい言葉をリオの口から求める。


「…愛してるよ」


 少し間が空いたあと、はっきり口に出した。


「よろしい」


 満足そうにしてうなずいた。その後互いにしばらく見つめると、再びルザーネが話し始めた。


「そう言えば、私もあなたに似て少し抜けることが増えたわ。あなたの影響かしら?」


「ハハ、勘弁してくれ。俺は何もしてないぞ」


「私はそういう所も支えてあげたいと思ってたのに、一緒になってちゃ本末転倒ね」


 互いに笑い、落ち着いたら窓の外が次第に明るくなった。村の景色を2人は眺め、息をする様に呟く。


「もう春か…」


「そうね…」


「「…………」」


「…これからって時に一緒に長く居られなくてごめんな」


「何よ今更。しっかり話し合って決めたでしょ?」


「…お前は強いな」


「これもあなたの影響よ?」


「ハハ、まいった。これは一杯食わされたな。お前が嫁で俺は救われてるな」


「私もあなたに救われたわ。お互い様よ」


 この笑い合える日常がどれだけ平和で尊い物か、これからの先を見据えつつ2人は子どもたちの元気な様子をいつまでも思い浮かべた。



 ****

『おー!』


 昼前の村の広場で魔術を目の当たりにした子ども達は声を上げていた。


「ゼクも使えていいな〜」


「毎日練習してたからね」


 カイとレルロが真っ先に言葉を発した。周りの皆は今日ゼクシオの魔術を初めて見るメンツが多い。そして、ゼクシオが知らない近所の子達も近寄って大きな輪となり、1つのショーと化していた。見られているというやりにくさの中、ヘーゼルは既に慣れているのかササっと発動した。ゼクシオは念願の魔術が使えて、みんなにも羨ましがられとても上機嫌になっていた。そしてもう1人、魔術を発動している子がいた。


発芽植生(ネオライフ)!」


 可愛い掛け声と共に小さな芽が地面から2、3つ程生まれた。その声の主はセナだった。セナの家はこの周辺領地の領主であるため、ここ半年で英才教育の様な生活が始まった。と言っても他と比べると、セナが自分から進んで取り組んでいる為それ程過酷なものでもなかった。


 魔術は必ず遺伝するわけでは無いが、半分の確率で親のどちらかの魂色が遺伝する。もし親の2人のどちらかが多色者、もしくは両方の場合は高い確率でその中の一色以上を子どもが継いで産まれる。セナの家サードント家は代々青の色を受け継ぎ、今の代まで至る。貴族ではその家の当主を継ぐには、その家に合った色持ちでないと難しかった。そのため冒険者協会が冒険ギルドに置いている色計測を行える魔道具を購入し、産まれてすぐに測るのが普通だった。だから、村や町の民間人はそんな高価な物は購入できず、あるものも貴族がほぼ買い占めていた。最近病院で導入しようとする動きがあるがなかなか市場に回らず、需要と供給が間に合わなくなり世間を騒がせていた。


 サードント家は建国時より勢力が大きかったため、セナはいち早く確認でき、練習を効率よく行えていた。ちなみにセナの弟サラッドも色持ちの子であったため、今のところはサラッドが次期当主となっている。


 場所は広場に戻るが、今この3人は周りの要求に応えるべく魔術を一度だけ見せていた。もちろん魔術は魔学舎を卒業するまで意図的な発動を行う権利を貰えないが、今時そんな事を気にする者など他者を陥れようとする貴族か、意地悪な奴以外はいない。つまるところ、『危ないけど便利だから良い子は大人がいる範囲で使用しようね』と言う配慮としての解釈であった。


 既に世の中に『6歳までで決まる!幼少期から学ぶ魔学講座』と言う本や、『貴族に負けるな!』がキャッチコピーの民間魔学教育会なども出来ていた。貴族は国の戦力の象徴としての意味や政治的意味以外、公平に扱う社会に革新しようと先代の王が広め、次第に全世界へとその風潮は行き渡って行った。戦争中の国でもその考えには同意し、他国、多種族国家も取り入れ始めた。


 現在の王様も先王の意思を受け継ぎ、アクラナ王国は幼児期魔学の庶民化活動を最前線で行っている。この基盤を作ったのはこの話を聞いて、現在から見た先王と思う人は少なく無いと思う。

 しかし、これは『普通の子では魔学園が必要とする知識が足りなかったり、機会が与えられずに入学すらできず、公平で無い』と考え、魔学舎政策を行ったネロ・サードントの思想が基盤なのだ。彼もまた先王と同じく幼少期魔学を推奨して、満5歳から皆平等に魔学を学ぶすべを提供した。先王はそれを『もっと身近に、より早く』と考えただけなのだ。


 しかし、こうして魔学を早く勉強しても、魂色は12歳から登録できる冒険ギルドでしか分からないため、魔学舎でも魔術を身近に感じれる規模の魔術は習えても自分の色に合った魔術が分からないと言う現状であった。だからこの3人の内2人は自分の魂色を理解し、集中的に練習したから既に使えるのだ。


「もう魔学舎入りが待ちきれないぜ!よし、今すぐ行こう!」


「レルロはアホだね」


『うん、うん』


 レルロは魔術が使いたい衝動で魔学舎に入りに行こうと提案するもの、 ティアリスと、その他の同意した女子達によってアホ認定をくらってしまった。


「うるせえ!ならお前達は魔術が早く使いたく無いのかよ?」


「今、魔学舎ハ入学式ノ準備チュウ…」


「そうだよ。だから今行ったら迷惑だよ?」


「お主は敵で例えるならゴブリンだな!」


 リゼとリーフィとソニアにまで追撃され、レルロは弱ってしまった。


「まーあー、みんなで攻めなくても、ね?レルロは思った事を言っちゃうだけだから気にしないで」


 そこで、イケメンのカイがレルロを守ってあげた。レルロは庇うなと言いつつも、心の中で安堵し、その滑稽な姿を見てみんなが爆笑していた。しばらくして、周りの子は、自分も早く魔術を使いたくなり、一目散に親の元へ走った。


「ほら、ほらな!みんな本当は使いたかったんだ」


 笑われて恥ずかしいそうな顔をしながらも泣くことはなく、みんなの行動から自分を肯定し続けた。そして、広場には少数のグループがちらほら集まったり、既に魔学舎で魔術を習って互いに見せ合いをする歳上以外は、アメルを除く以前の追いかけっこメンバー10人が残っていた。


「またみんなが残ったね」


 静かになって、カイがポツリと呟いた。


「ならまた始めるか。今度こそ逃げ切ってやる!」


「ゼク君がまた魔物になったら嫌だなー。すぐ捕まっちゃうし」


 レルロの発言に対し、プルームは今までのゼクシオの戦績を思い出して、嘆いていた。周りのメンツもゼクシオとヘーゼルには魔物になって欲しく無いと願うばかりだった。


「ヘーゼル君もすごいしねー。」


『うん、うん』


「おい!俺が魔物になった時の心配はねーのかよ?」


「レルロ君はー、だってアホでずーっと同じところグルグル回ってるもん!遠くから『まだ来ないかなー』って待ってるくらいだよ?」


「へ、へー。そんなの信じないしー。それに、そうだとしても、カイも一緒って事だろ?」


「カイ君は違うよ?女の子を逃すために囮になるし、足も早くて中々すぐに捕まらなくてかっこいいもん。ねー?」


「ハハ、大袈裟だなー」


 プルームがズバズバ気にせずレルロに思った事を言うので、すっかり自信が無くなってしまった。


「…………」


「レルロ、気にすんな」


「気にしてないし…」


 ゼクシオは遊びでの運動音痴の苦しさや、感の鋭さの無い苦痛を唯一分かってあげられるので、肩を叩いて励ました。レルロは嫌がるが、手を跳ね除けることは無かった。


「やるなら、あれで決めましょう」


「セナがやるなら仕方ないね」


 ティアリスは同意を示し、周りも参加する空気になった。


『せーの、ほい!』


 魔物役はゼクシオとヘーゼルだった。


『……………逃げろ!』


 カイとレルロはいつも通り逃げていたが、女子達はキャッキャ言いながら一目散に逃げていった。


「……」


「また一緒だね」


「…うん」


 ヘーゼルはいつも何を考えているか分からないが、悪い奴ではないと言うことをゼクシオは確信していた。


(無言だと、調子狂うなー。悪い奴では無いんだけど…)


「…魔術、使えるようになってよかったね」


「えっ?」


「…これで失う物が無くなる、…といいね」


「う、うん」


 ヘーゼルは少し顔に影がかかったが、一瞬で元に戻り平常運転に戻った。ゼクシオは何を言っているか分からなかったが、『魔術をただ褒めてくれてるのかな?』と思い、話の内容を流した。


「いこ」


「そうだね。よし!俺は右側行くからヘーゼルは左側よろしく!」


「…分かった」


 こうして2人は走り始め、先へと進んだ。

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