第23話「初めての冬」
ゼクシオが最初に魔術が発動できたのは、レウィグ村に初めて雪が降り始めた日だった。その日は同時に魔災が襲来した日でもあり、皆家の中にいた。
『魔災警告。魔災警告。本日昼過ぎよりブリザードがレウィグ村に襲来します。速かに対策してください。魔災警告。魔災警告。速かに…』
その頃のルザーネはお腹がだいぶ大きくなっていた。
「パパー!」
だからめいいっぱいアメルはリオに構ってもらっていた。勿論ゼクシオも面倒を見ていた。
「…ッハ!」
魔災へ備え終えたゼクシオは最近のリオの提案で、魔術を使う属性を絞って練習をすることを実行していた。赤と緑の魂色があってもそれぞれ個人差があるため、どちらかが扱いやすいなど多少な差があることが多い。使い慣れたりすればある程度は差を埋めることができるが、まだゼクシオは幼く、それほど器用でもなかったため火と水に絞って練習をしていた。以前、氷のイメージで冷気を少し出せたが、最近では火の熱気も強くなり、イメージし易かったのはヘーゼルが使う火だったので火を選んでいた。
「…ッハ!」
しかし、未だイメージが現象化することはなく、気温が上がったり、霧吹きの様な水が僅かに出る程度だった。
外ではすでに魔災が襲来し、窓はうるさい音を立て、勢いが少し弱まっている雪が家に降りつけ、外は真っ白で何も見えなかった。
「水はもう出てくる様にはなってるし、火もパチパチ音がなる様になったからもう少しだな」
「ゼクは頑張るわね。みんなより先に魔術を練習するなんて」
「ママ、パパ、ニーニー見てて!火種!」
可愛い掛け声で詠唱するとアメルは魔術がすでに使える様になっていた。アメルは兄のプライドを傷つけていることは知らず、ゼクシオも可愛い妹の嬉しそうな顔を見ると何も言えず、「綺麗な火だね」と褒めてさらにアメルのやる気を上げていた。
魔災中はする事もなく、リオは子ども達の魔術の特訓に付き、ルザーネは生まれてくる子用の裁縫をしていた。
外の音が大ききくなって気になり始め、少しずつ外に意識が散っていたゼクシオは、いつの間にか窓の外の白い世界を見つめてた。そこには火の様な赤い揺らぎが見え、白い炎に見えていた。
「父さん、雪の中に赤いのが見えるよ。これがオーラ?」
「ん?」
リオが外を見つめるが、大して異変はなかった。
「父さんには見えないな。オーラは魂色が薄いほど自分の色の濃さとの差が出て見えやすくなるんだ。魔術が使える様になれば魔災からオーラを見かける事はだいぶ減るが、ゼクシオならまだ見える時期なのかもな」
ゼクシオは窓の雪を嬉しそうに見るアメルを見たが、彼女も異変は見つけられないようだ。
(俺だけか…。いや、今日こそ使ってやる!)
ゼクシオはそう心に決め、もう一度魔術の為のイメージをするために再び目を瞑った。
(周りから力を取り込むことを意識して、それを体全体に巡らせる。そして次は火をイメージするんだ。ヘーゼルのような力強い火、さっきのオーラの様な揺らぐ火…)
その火のイメージをするときにオーラと同時に見ていた雪も思い出し、氷の意識も入ってしまった。しかしゼクシオは気にせずそのまま意識を集中する。
(もっと深く、もっと深く。集中するんだ。今度こそ使ってやる。揺らぎ、炎、赤、氷、熱さ、寒さ、暖かさ、エネルギー…)
深く潜る程イメージに入り込んだ異物に気づかず、そのままイメージを完結させる。そして詠唱で気持ちを高めて、言葉にすることでより明確に意識する。
「火炎!」
最初に見たヘーゼルの火の魔術の詠唱を真似して、最後の一押しをした。手を広げ、そこに体中を巡っている力を収束してイメージを乗せると、一気に放った。すると手から青白く透き通った炎の様な魔術が発動した。
「え?」
ゼクシオはイメージした火と形態は一緒でも色が違い、成功したのか疑問に思った。しかし、そのまま手から青白く透き通った炎の様なものを消す事は出来なかった。もしこれが成功していていて、消してしまったら二度と使えなくなる様な気がしたからだ。何も出来ずゼクシオはただ眺めていた。
「パパー。ニーニーが綺麗な魔術出したよー!」
奥にちょうど行っていたリオはアメルの呼びかけでゆっくりやって来ると、ゼクシオの青白く透き通った炎を見て驚いていた。
「ついにやったな!ゼクシオも魔術が使える様になったか!」
「でも、これがなんなのか分からなくて…。本当に成功したの?」
「初めて魔術を使えたときはみんなそんなもんだ。出しっ放しなところを見ると、消したら二度と使えないかもなんて思ってるんだろう?大丈夫。1度使えれば体が大体覚えて今回より簡単に使える様になっていく。それよりその魔術だな。火の様な魔術だな。どんな性質だ?」
リオは珍しそうに近寄ってマジマジと見つめた。
「よし、ちょっとこれに当ててみろ」
そう言うと、リオは一瞬で土版を生み出した。ゼクシオは青白く透き通った炎を土版に触れる様に近付けると触れた箇所から氷結していった。
「氷属性なのか。イメージは火だったんだろ?」
「うん」
「なら氷の炎で氷炎…、氷炎だな」
「「おー!」」
こうしてゼクシオは新たな魔術が使える様になった。しかし、ここでリオがやっと重大な事に気づく。
「ん?待てよ。さっきから音が激しくなりだした。それに、この土版は緑の具象化だから消されることは無いが、ゼクシオが発しているのは赤のエネルギー、つまり魔術障壁にかかって消えるはず…。あーー!」
リオが気づいた時にはアメルがバリムアウト手に持って遊んでいた。
「綺麗な宝石!」
「アメル、返せー!」
「どうして?」
「早く!」
ゼクシオもやっとことの重大さに気づいた。しかしアメルはニヤっと笑うとこう答えた。
「綺麗な物は私のもの!」
「「なぁ、、、」」
2人は急いでアメルを捕まえようとするが逃げ回られ、少し時間がかかった。家は軋みだし、窓が割れそうな音をし始めた。
「これは大変!エイ!」
そこで咄嗟にルザーネが家に強化の魔術をかけ、なんとか保ったが、再び魔術障壁を発動する頃には隙間風が吹いていた。その後、捕まったアメルは親に叱られていた。
「この前触ったらダメって言っただろ?なんで今回触ったんだ?」
「だってパパがニーニーに魔術を使えない場所で魔術の練習させてて、でも今日ならニーニーは魔術が使えると思ったからニーニーを邪魔するこの綺麗な石は私がもらったの!ニーニー助けてアメルも綺麗な物がもらえる。ね?すごいでしょ?ちゃんと考えたの!」
リオは自分が行っていた事に今頃気づいた。ルザーネもその事に気がつけなくて少し静かになった。この2人は戦場でこそ昔は輝いていたらしいが、日常では大事な事がたまに抜ける事がある事をゼクシオは理解した。
「この中で1番周りを見えていてたのはアメルのようだよ?父さん、母さん」
「……そうだな」
「……そうね」
ゼクシオが親を抑えると、アメルは「えっへん」と胸を張って兄の魔術の使用を助けた事に誇りを抱いているが、自分の周りが見えているだけで自分の家の安全までは目が届かなかった様だ。
「だから今回は気付けなかった、そして間違って動いたみんなが悪い。みんなで反省しよう」
『はーい』
それからアロンスフォート邸はリオが一瞬で簡易工事して、魔災の残り時間を3人正座をして過ごした。流石にルザーネは妊娠中なので、心の中で反省していた。
ゼクシオはその後、力が抜け続けているように感じ、脱力感を感じながら生活したので夜はぐっすり眠れた。