第21話「魔災発生!襲来!」
ゼクシオが、厳密にはゼクシオの魂が今存在しているこの世界、シャウスには、存在する全ての物に魔力が宿る。故に人間と同様に魔力を使う魔物と呼ばれる生き物と、魔植と呼ばれる植物がいる。彼らはそれぞれの生態に合った魔力を操り、時には魔法を人と同じく使用することができる。
ゼクシオ達が以前遭遇したディアマントは、風を操り加速を行なったり、翼の強度を高くして頑丈にしている。
クモドリは少し特殊で、成体となった個体は水辺の上空から目に見えないほど小さな卵を霧のように噴射して産み落とす。幼体は水中で育ち、魚のように鳥類の魔物などに喰われていく。幼体は皆同じく雲の上で泳ぐことを夢見ながらどんどん数を減らし、その中で生き残り成体となったクモドリは交尾を終えるとオスメス関係無く念願の空へ泳ぐように飛ぶことが可能となり、上空で暮らし始め、雲を凍らせて寝る。凍らされた氷は何故か地上に降り落ちることはなく、クモドリが離れると、再びゆっくりと雲の性質へ戻る。
この生まれ落ちて再び雲に戻る生態からクモドリと名づけられた。クモドリは、この雲を凍らせるための氷魔法、雲がない時や己の表皮を乾燥から守るために水を生成する水魔法、風を操ることで空を飛べるようになった風魔法を操る。また、顔が成体になる頃には首より前方が硬く変形して、魔法で強化されている。魚でいる時、特に成体前の個体はディアマントが好んで食べにやってくるため、成体となったクモドリはエラは、ディアマントが仲間を呼ぶ声を聞き取れる器官へと成長し、上空ではディアマントの群れを貪り尽くしている。また群れの中で効率的に捕獲出来る様に、前方の前ヒレは鋭い手の様に成長する。もちろん他の生物も食べる。ディアマントに特化した成長を見て、とにかくクモドリは執念深いことが分かるだろう。だから冒険者の中ではディアマントキラーや空のギャングと呼び、恐れられている。
世界はこの様に魔法が深く関わり合っている。そして今この時、レウィグ村への脅威も魔法が深く関わっていた。現在のアロンスフォート家ではその脅威、魔災の対策のため、外に干していた洗濯物を急いで取り込んでいた。
『魔災警告。魔災警告。本日昼過ぎより暴風がレウィグ村に襲来します。速かに対策してください。魔災警告。魔災警告。本日……』
「父さん、魔災ってなに?」
「魔災ってのはな、魔力の力場が歪んで周辺に災害が発生する自然現象だ。特に天候が変わる魔災は風に運ばれて移動するから予測して対策出来る。だからこうして魔道具、拡声透過器で村の人たちに呼びかけることができるんだ」
今レウィグ村では魔道具で拡声させられた声が、障害物を無視して範囲内全ての住民に、魔災襲来の警告が届けられていた。
「今から家に魔力障壁を張るから外に出るなよー」
リオはそう言って、テーブルの上に置いてある凹みのある置物に青いボールの様な物を置いた。するとボールから青い光がボールを中心に広がり始めた。
「「わ、わぁぁ、」」
ゼクシオとアメルはこのボールから発せられた青い光が迫り、声を上げて目をつぶった。しかし何も変化がなく再び目を開けると、青い光は断続的に発生して広がって来るが、体をすり抜けてなにも起こらなかった。
「ハッハッハ、毎回同じ反応するな。ゼクシオは前回慣れていたけど、完全には慣れてなかったみたいだな」
「父さん、これが魔力障壁?」
「そうさ。この凹みがある装置、通称キューさんは周りの魔力を吸収して凹みに溜め込み、一点発射で再び周りへ魔力を返す。その凹みに魔力障壁発生装置のボール、バリムアウトを置くと凹みから魔力が噴出されずにバリムアウトに魔力が送り込まれる。こうして魔力を送り込まれたバリムアウトは対象の周辺に障壁を発生させることができる。バリムアウトが発する障壁の光は、対象の周辺を覆うと数秒で効果が消え、光が薄れる。でも消える前に次を出して効果切れを防いでるんだ」
「へー、すごい仕組みだね!でも村全体にかけれないの?」
「大きいバリムアウトならできるけど、王都とかにしかないな。だから町や村には家庭用しかない」
「そっか」
そう言ってゼクシオは青い光を発し続けるバリムアウトを見つめていた。
「本当にこんな光で守れるの?」
「おう。この青い光は固まった魔力を分散させる、例えるなら網みたいな物だ。魔法とかは魔力を強制的に集めているから、光を通ると分散させられ効果が薄れる。多少熱気とか風とかは感じるかもしれないが、魔法は魔力を維持できず効果が激減する。見とけよ。ほれ!」
リオは向かって来る障壁の光にいきなり火の魔法を出した。光に当たった部分から魔法は消えていき全て消滅した。そこから微かに熱風がゼクシオに来て、声を上げた。
「おおーー。本当に消えちゃった。これなら安心だね」
「まぁ、家は壊れないが、民間用のバリムアウトは大量生産だから網が粗いな。それに魔災は自然現象だから還元力は働らきにくく、威力も高くて力で押されるから、弱める事で精一杯。かなり色が濃ゆくて、たまにオーラも見えるほどだから完全には消えんぞ」
「え?」
「なに、ちょっと家が揺れるくらいさ」
直後轟音が近づいてくるのが分かった。
「お、もう近くまで来たいみたいだな」
「なにこの音?やばくない?」
「多分大丈夫だ」
「多分?」
不安になっていると、物凄い音と揺れが家を襲って来た。地震の様に揺れ、窓がギシギシ、外の景色は竜巻が何十本も通っているのが見え、地形が荒らされていく。リオもそれを見て、呟いた。
「作物ダメになっちまうな。また配給か。この村も大変だな」
「そうねぇ。でもまた協力すればいいでしょ?復興も前回は2週間で済んだから今回の規模だと家が壊れなければ1週間くらいかしら?」
「そうだな。またみんなで協力すればいいか」
そう言って、リオもルザーネも揺れる机でゆっくりお茶を飲んでいた。
(こんなの絶対災害大国の日本人でもびびるよ!この2人のリアクションおかしくないですか?)
アメルはゼクシオと共に震えていたが、ゼクシオはこんな子もいつかこの魔災に慣れるのかと想像して、もう考えることをやめ、ぼーっと窓の外を見ていた。
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数時間後、天候は嘘の様に晴れ、後には抉れた大地だけが残っていた。森の木は何本か倒れていないものがあった。
「父さん、なんで森はあんなに無事なの?」
「生命の象徴でもある木は、並大抵の自然災害じゃやられない」
「どうして?」
「生命の発する魔法は、体内に魔力を取り込んで、目にはほぼ見えないを命脈を通る。その時、生命が持つ魂塊を介して流れた魔力にイメージが反映され、初めて魔法が発動できる。この時、本来すぐに分散しちまう魔力を押さえつけている。
だから、魔力分散の効果が高い木だと威力を自分で弱めることができる。年月をかけないと効果が強くならないから、きっとあの中でも年寄の木が多かったんだろうな。火災とかもたまに分散効果が高い木が止めてしまうぞ」
ゼクシオはその後魔法に対する興味が深まり、魔災の話より魔法の話で盛り上がっていった。
凹んでいる装置命名しました。
魔力を一点に集中して吸収し、発射するので「魔力吸点射出装置」。優れ物で愛称キューさん!
今回のは凹型キューさん