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異世界大陸  作者: キィ
第一章 記憶覚醒
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第14話「ちょっとした成長」

 目の前に迫った化け物に怯えていた。だが、抗う力もなくただ見ていた。1人を除いて。ヘーゼルは魔術で化け物から飛来してくる氷の柱を相殺して、時間を稼いでいた。しかし、化け物自身も近づいてくるため、本当に時間稼ぎだった。そこで1人で化け物をおびき寄せるため、一発化け物に魔術を当てるとそのまま村の反対側に走り出した。


「ヘーゼル…何を」


 ゼクシオの言葉は届かず空に消えた。だが、その身を呈した行動を化け物は笑っているように鳴き、ヘーゼルを無視してゼクシオたちの元に来た。


「バジュゥゥン!」


 もはや氷の攻撃をやめて、自らで喰らおうと迫った。


「見向きすらしねのか、クソ!間に合ってくれ…」


 ヘーゼルは何度も魔術を当てながら戻ろうとしたが化け物の方がスピードは速かった。何もできないと悟るとその場で互いに寄せ集まり、覚悟した。


(1人で死なないのことだけは救いだが、おいおい!もう終わりかよ!本当に何も俺にくれないのか?それともこれが運命…)


 せめて最後だけはこの目に焼き付けようと、リオから褒められた防衛本能を脱ぎ捨て目を見開く。


(はっ、結局運命やら才能やら人生“運ゲー”じゃねえか)


 バチバチ、



紫電(ギバル)!」


 虚しく涙が流れ落ちた時、豪音と共に目の前が真っ白になった。


(死んだ?真っ白の世界。やっと天国か?)


 耳は轟音が反響し視界は眩んで何も見えない。


 そして、気がつくと化け物は地に落ちて倒れていた。動く気配のない化け物の上には1人の男、リオが立っていた。その姿を森の天井からさす一筋の光が照らした。


「…ここか」


 轟音の後の静寂に包まれた空間に、リオのその重くて小さな呟きはこの場の全ての耳に届いた。リオは顔をしかめ、周りを見渡した。ゼクシオたちを確認すると息をついて、少し顔を緩めて会話を交わすことなく次の動作に入った。


炸裂電流(バリスタ)


 リオの手から放たれた電気の玉は1匹のディラマントに当たると、周りに一瞬で広がり全て地に落ちてきた。その一瞬の出来事に誰も反応が追いつくことが出来なかった。その後、リオはゆっくりと子どもの元に近づいた。辿りつくとこの場にいる全員を抱きしめて優しい顔で、力強く、


「よく生きててくれた。ありがとう!」


 子ども達はみんな泣いていた。その後に奥にいるヘーゼルも抱きつかれて少し照れ臭そうにしながらも、安心した顔をした。しばらくすると、村の方から大人達が大勢やって来た。ルザーネも来ていた。セナはメイドさんが迎えに来ていた。


「リオ、やっぱりさっきのはお前のだったのか。よかった、本当によかった。お前のおかげで、ほんとに…、ありがとう!」


「なに、当たり前のことだろこんなこと。子どもは俺たちの宝だからな!ハッハッハ」


 その男は涙しながら、レルロの元へと駆け寄っていた。他の子も親が寄って来て、それぞれ怒られたり、安堵の声が上がっていた。俺とアメルにもリオとルザーネがやってきた。


 べシン、


 俺はルザーネに頬を叩かれた。


「なんで、なんでこんなところに来たの!それに魔物にまで襲われて。でも本当に良かった。生きてる。また失わずに済むのね…」


 ルザーネは泣いて、ゼクシオを抱き寄せた。リオは一言、「母さんをもう泣かせんなよ」とだけ言って泣いているアメルを抱えていた。前世でも親の涙は卒業式と祖母の葬式にしか見たことがなく、悲しみで親を泣かせるなんてもうしたくないと思った。気づけば死の恐怖から開放されて一気に疲れが襲い、いつの間にか眠っていた。



 ****

 帰りが遅い子ども達の親と、戻ってきた数人の男、すぐ出られる者を森に送った村では、多くの者が家から出て森を見守っていた。


「ゼクくん達大丈夫かな?」


「フン、男なんてシーラない。セナ達は大丈夫かな?」


「愚か者どもめ、暗黒の森に立ち入るとは!グハッ」


「…ちゃんと心配してる?」


「「ご、ごめんなさい」」


「みーんな無事だよ!ね、きっと?」


 1人だけ能天気だが、おかげで少し場が和んだ。


 誰かが別の方向の森から村に猛スピードでやって来た。気づいて振り向くと、リオが立っていた。


「さっきクモドリなんかいるから心配して戻ったが…、みんな森ばっか見てどうした?」


「リオさん、大変なんだ!子ども達が森にいるらしいんだ。あんたの子ども達も!」


「なんだと?」


「それに、ディアマントも撃ち漏らしたとこがあって森に群れが!」


「ッチ、もう群れか…」


「そして、その群れの方向にさっきのクモドリが向かったんだ」


「子ども達はどっちだ?」


「領主様の近くの森から入ったと…」


「クモドリが向かった方じゃねえか!」


 すると、リオは地面を蹴り森の方へ猛スピードで飛んで行った。しばらくして村に雷鳴届き、皆リオの到着を悟った。


「リオさんならきっと助けてくれるよ」


「間に合っているといいけど…」


「縁起の悪いこと言わないの!」


 村は、不安と心配で溢れていた。が、しばらくするとその心配も杞憂に終わり森から続々と人が戻って来た。その中には子どもの姿も確認でき、少し立ち話をして安全を確認した人々はそれぞれ散って行った。




 ****

「領主様、無事娘様はお帰りになされました」


「本当か!それで他の子も?」


「はい」


「了解した。もういいぞ」


「失礼いたします」


 ガチャ


「リオにまた借りが出来たな。それにクモドリの討伐をしたことなどいろいろ報告書かなければ。ハー、これから大変になるのに…」


 男が見つめる先には、対魔族戦争人員招集の書類があった。




 ****

 起きたら前方に暖かさを感じた。背負われているようだ。


「ん、どこ?」


「起きたかゼクシオ」


 リオの声だ。


「あの後どうしたの?」


「鳥は一ヶ所に集めて冷却(フリーズ)、でっかい細長もみんなで冷却(フリーズ)して村に持って帰ったぞ。よく持ち堪えたな」


「ヘーゼルが俺たちを守ってくれたんだよ。魔術使えるのに俺たちを守るために…。だから、まず自分を守れるぐらい強くなってその後周りも守れるようになりたいんだ!」


(これが力をつける意になるのか。確かに凡人でも努力する気が起きるな)


 ゼクシオは納得しているとリオが見えない向こう側から声をかけ続けた。


「力をつけることで周りを守れる。それは間違ったことじゃない」


「うん、だから…」


「そうなんだが、それ以前に状況を判断する目が必要だ。力があればある程度はなんとかなるが、それでも届く範囲に限界はある。力でなんでも解決できるなんて思ってちゃ、それこそそこらじゅうで喧嘩ばっかりだろ?」


(…確かに。でも力無しでどうしろと?)


 そこで、リオは質問に答えるように言った。


「だから判断する目が必要なんだ。選択を間違えなければ力なんて無くても解決出来る。危険も減る。生きながらえる事もできる。お前はまだ小さくて今は分からないかもしれないが、よく覚えておけ。力も必要だが目も鍛えろ。そのために多くを経験して多くを学ぶんだ」


(たしかに今回他にできたことはあった。大人を1人でも連れて来ていれば変わったのかもしれない。そこに気が回らなかったのは俺の落ち度だ)


「…うん。分かった」


「そんなしんみりすんなって。もう終わったし、子どもは笑ってなんぼだろ?ハッハッハ」


 ゼクシオの頭を乱暴にかき回しながらリオは笑う。以前ならこのままズルズル引きずって別のことへ逃げることを考えていただろう。しかし、ゼクシオは今回の事件をしっかり受け止めて前進する前向きな気持ちを抱いていた。そして、リオとの今日の昼ご飯についての話で、笑うことが出来ていた。

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