第12話「ハードモード」
近くに誰もいなくなった俺は、肩に乗ったメメに話しかけていた。
「みんな逃げちまったよ、なぁメメ」
「……」
「よし、追いかけるか」
「……」
村の探索開始!どうやらみんな隠れているようで、なかなか見つけられない。
「ハァ、ハァ。なんで、見つかんないんだ…」
まだ3日しか経っていない小さな体に、慣れていない地形で追う側となっては、先に住み慣れた者と比べて差があった。
それにしても普通は見かけるぐらいはできる。と高を括っていると全く見つからなかった。
1人でずっと周りをさまようがこの地は規模が広く労力が追いつかない。
息が上がり、それでも尚周囲を探索していると、ガラっと上から音がした。顔を上げると、家の上にカイとヘーゼルがいた。
「ありゃ、見つかっちゃったね。みんなにもバレないように隠れてやり過ごしてたのに。おーい、ヘーゼルおきろー。見つかっちゃったよー」
「……」
「上とか卑怯じゃん!」
「えー、そうだったの?いっちゃダメな場所とか聞いてないからみんないろんなところ行ったと思うよ?」
(やべ、場所を決めて無かった。だから周りに全然いなかったのか)
しかし、もうすぐ日も真上に上がる頃で、ご飯の時間になりそうだ。みんなを見つけて一時解散を伝えるため、この2人に手伝ってもらうことにしよう。
「ねー、もうすぐお昼ご飯だから遊びは一旦やめて、後でやろー」
「そうだね。もうすぐ僕も帰らなきゃ。また後でね」
「みんなにも知らせたいから探すの手伝って。お願い」
「分かった。なら一緒に探そうか。みんなの場所は上から見てて大体わかるよ」
「ありがとう」
「ね、ヘーゼルも行くよね?」
「…もう帰るの?」
「今からみんなを探してから帰るよ」
「えー、めんどいなー。…ハァ、分かったよ」
2人は屋根から降りてきて、一緒に探してくれることになった。子どもで屋根から飛び降りたりすることに驚いた。
「2人ともいつもこんなことしてるの?」
「僕はまぁ、ヘーゼルの昼寝について来る以外はあんまりかな。ヘーゼルは注意されるけどよく上に登って寝てるよ、ね?」
「まあね」
「て言うかゼクもこの前一緒に寝てたじゃん。忘れちゃった?」
「あ、あったね。そうゆうの。アハ、アハハハ…」
記憶覚醒以前の記憶は曖昧だから危なかった。
(バレても問題は出ないけど、変に浮いて馴染めなくなるのは嫌だな。ちゃんと友達になりたいし)
2人と一緒に探しに行ったらいろんなところに隠れていた。家の裏や畑に家畜小屋。
遊んでいることを忘れて別の子と遊んでいた子もいた。みんな見つけても逃げるし、変な子は変なことを大声で言い出してこっちが恥ずかしかった。
1人ではできないことだったから、2人に手伝ってもらえてよかった。あとはアメルやセナ達3人だけだ。
「森にはいないかな?」
「森はちょっと危険だから子どもだけでは近づかないはずだよ?抜け出してたまに行くけれど、それでも大抵は割と安全なこっち側に近い森の方に行っちゃうよ。反対側はちょっと深いし危険だからね」
(あれって顔でこっちを見て首を傾げている気がする。やべ、またズレたかも)
ゼクシオはリオが森に連れて行ってくれたので少しずれていた。魔物がいるぐらいしか知らなかったし、まだ見ていないから、半信半疑でもあった。
「まぁ大人達ががしょっちゅう魔物退治で周辺の魔物を倒しているし、村には結界が張られて居るから中は安全なんだけどね。その効果は多少なりとも周りに影響するからみんな外に行くんだけどね?」
どうやら彼は前科持ちだったらしい。イケメンでヤンチャな少年だ。
「…森の昼寝も気持ちい」
こっちもだったらしい。
「じゃあ、北の方に行こう」
こうして3人を探しにリオと行っていた森の方へと行った。みんな森に行くのに親にバレたら面倒だから、こっそり探しに行くことにした。
****
こうして子どもだけでいると、少し不気味だった。最初はこっちの世界に来てばっかりでワクワクもしていたしリオもいたから怖い気持ちなんて無かった。
魔物もいるかもと聞いている今は、子供だけでもあるため余計に不安になっているのかもしれない。
見たことは無いが、前世のアニメによく出てたゴブリンとか想像して、あってみたかったり最初はしたが、今は5歳だと気づいてちょっと怖くなったゼクシオは考えるのをやめた。
(2人の話だと、みんな抜け出して遊んだりしてるようだし、今はリオ達が魔物退治に行っているから、遭遇するリスクは少ないと思うけど…、考えるだけ無駄か。ちょっといっていなさそうなら帰ろう)
少し奥に進むと、足跡があった。
「なぁなぁ、これ。小さな足跡だから3人のだよねきっと」
「そうだね。お昼ももうすぐだから少し急ごう」
足跡があったので引けなくなったがカイの口調は幼さをあまり感じさせないため謎の安心感があった。
(カイは精神の成長が早いな)
「……お腹すい…」
(こっちは相応らしい)
少し急いで奥へ行くと、異変があった。周りが騒がしい感じがする。雰囲気だけだけど、いっそう不気味になった。俺たちは少し気を引き締めて先に進んだ。
……
怖くてずっと話していたが、ついに3人の間にも静寂が訪れた。流石にここまでは来ないだろうと思われるとこまで来たけど、3人はいない。すると、奥から音がした。
「来るなぁ!えい、やぁ!」
急いで駆けつけたら、レルロがアメルとセナを庇い、木の棒で鳥みたいな魔物を追い払おうと振り回していた。その鳥は鳴くたびに口が4つに裂けたりして開き、羽を広げて威嚇をしていた。中からは3本の触手がうねうねして木気持ち悪かった。
「レルロ!」
カイは近くの木の棒を取り、声を出して勢いよく突っ込んで行った。ヘーゼルも付いて行ったからゼクシオも後をついて行った。
「ジゥァーブ!ジゥァーブ!」
羽をバサバサはためかせてこっちにも鳥が注意を向けた。
「大丈夫かい?レルロ」
「う、うっせい!こ、こ、こ、こんなの俺一人で十分!うぅ」
後ろをチラッと見て、レルロは強がっていた。だが、レルロには本当に助けられた。レルロが後ろのアメルとセナを守るように前にいたことで、誰も怪我をしていなかった。アメルはセナに抱きつき、セナは守るようにアメルを抱き上げ、レルロを見守っていた。
「ニーニー!」
泣きそうな顔で俺に気づいたアメルは、抱きついて来た。
「よしよし、怖かったな。俺たちが来たからもう大丈夫」
「う、うぅ」
俺に顔をうずめ、泣くのは我慢しているようだが、強がっているだけで体が震えている。すると、セナが俺達の方を見て聞いてきた。
「みんな、なんでこんなところに?」
「もうご飯だから探しに来たんだよ。セナ達こそ何故ここに?」
「止めたけど2人が森に行くって言い出して、危ないから私もついていくって言っちゃって…。でも奥まで行かずにすぐ帰って来ようとしたら、どんどん先に行っちゃってみんなが心配で…」
「2人を止めてくれたんだな。それにアメルと一緒にいてくれてありがと。きっと2人だけならもっと危険になってたと思うから」
会話を終えて、鳥の方を見ると、3人に囲まれて、鳴いているだけで、お互い睨み合っていた。
「カイ、こいつ早くどっか行かせろ!」
「無理だって。近づいても、攻撃されちゃうよ!」
森でも冷静だったカイも、焦って棒を振り回すことしかできなかった。鳥は怪我をしているのか、右の羽が焦げているように半分黒くなっていた。
「……」
何かをボソっと言っているが、ヘーゼルは棒を持っているだけで、ぼーっと鳥を見て何もしていなかった。
「おい、ヘーゼル!お前あれ使えよ!」
レルロが声を上げて、ヘーゼルに叫んだ。
「……」
「誰がこいつなんとかできんだ。このままじゃみんなへんてこりんな鳥に食べられちゃうぞ!」
「…うん」
そう言って、ヘーゼルは手を前に出す。何をするのかと思えば瞬時に、その手から炎が現れた。これはルザーネが料理で使ってたやつだ。
ヘーゼルはまるで炎を持っているかのようにたたずみ、手中に現れた炎はヘーゼルが飛ばすと鳥めがけて飛んでいき、その目的を遂げる。
「ジゥァァァーーー………」
そのまま鳥の魔物は悲痛な声を上げて焼け死んだ。
凄い、これが魔術か。と最初は驚愕したが、魔物の断末魔でなんとも言えない虚ろな気持ちになった。
目の前の出来事に皆騒然としていた。
その後、落ち着くと男性陣は魔術に驚くことなく息をつき、セナは安心したのかホッとしたような顔をしていた。
「それにしてもヘーゼルの火炎はすげーな。俺も早く魔術使いたいなー」
「来年になったら魔学舎で詳しく習うけど、早く使えるようになってるのは羨ましいよね」
どうやら男性陣はヘーゼルが魔術を使えることを事前に知っていたらしい。
ゼクシオも早く使えるようになりたいと少し心で焦りが出てきた。すると、ヘーゼルはいきなり後ろにいるアメルの元へ近づくと、目線を合わせて、
「…もう大丈夫。だから泣かなくていいよ。……みんなで帰ろう」
そう言って、またフラッと眠そうに向こうに行った。アメルは気づいたら我慢もせずに涙を流していた。
兄の自分ではなく、ヘーゼルに妹が慰められて少し情けないと羞恥心に駆られた。そんな自体などはいざ知らず、辺りは再び静かになった。その中、ヘーゼルはただ1人、魔物の処理らしきことをしていた。
「何してるの?」
「…後処理。必要だから」
ヘーゼルは黙々と焼け死体を埋めていた。さっきは魔術や鳥の叫びで呆気に取られていたが、よく考えると凄く子供離れしていて少し不気味でもある。
5歳の子どもが平気に死体を触るなんて、普通出来ない。そこで、ゼクシオはカイを呼び出して聞いた。
「カイ、ヘーゼルって前からこんなことしてたの?」
「んー、去年からこの村に来て仲良くなったけど、その前のことはあんまり」
「そっか」
処理を終えたヘーゼルは、トコトコ戻って来て、また眠そうにしていた。みんな危険が去り安心して来た道を戻っていた。ゼクシオの隣にはセナが近づき話しかける。
「少し帰るのが遅くなるね」
「うん、でも仕方ないよね。追いかけっこで森を禁止していなかった俺が悪かった。次からは安全に遊ぼうね」
「またお家来てくれる?」
「もちろん」
「次は俺も混ぜろよ!」
「僕“ら”もね」
「ええ!」
緊張も緩み、同じ森でもみんな明るくなっていた。アメルは疲れていたからおんぶをすると寝てしまった。
この体には相当きついが、気合で踏ん張っていた。しばらく進んでいると、ヘーゼルが何かに気付いて急に走り出した。
「…走って!」
ヘーゼルが珍しく声を上げて、みんな驚いたが急ぐことはなかった。
「いきなりどうしたの、ヘーゼル」
カイが聞くと、ヘーゼルは答えた
「…ごめん。今思い出した。あの魔物はディラマント…前父さんが言ってた。話すから走りながらで。速く!」
みんな慌てて走ったが、ゼクシオはアメルをおんぶするだけで精一杯、スピードが出せなかった。
「待って!ゼクが走れない。森に置いて行ったらダメよ!」
セナが気づいてそばに来た。
「ハァ、ハァ、ごめん。走れそうに無いからみんな先行ってて。俺は大丈夫だから」
(ここで踏ん張らないでいつ能力を覚醒できる?凡人に成り下がってる暇はねえ。死ぬにしても速すぎるしこのまま止まれるか!)
「…ダメ。アイツは自分が危険な時や弱った時、鳴き声を周りに響かせる。それに、魔力がこもってていてよく届くから仲間がすぐにそれに気づいて集まってくる。…それが他の群れにも伝わってどんどんくる。そうすれば、結界の意味も無くなる。だから!」
そこで、レルロが目の前で屈み込み背を見せる。
「ゼク!俺が変わる!お前よりでっかいから少し速いぞ」
「ハァ、ハァ。お、俺がアメルを守る。レルロはもう守ってくれたよ」
(クソ、結構やばいじゃねえか。こんな時に力がねえなんて主人公になれねえな。だが、アメルだけは!)
「バカ!もう倒れそうじゃん。変われよ!」
周りから見ても一目瞭然。汗だくでもう僅かな歩数でしか動かないゼクシオは疲れていた。皆が促し、ゼクシオはついに折れた。
「ッ、すまねぇ。…また頼らせてもらう」
「任せとけ!」
(クソ、異世界でも無力じゃねえか俺!)
この世界で最初に支えてもらった内の1人を救うことができない自分の力を悔やみ歯軋りをした。
その後はゼクシオも走ることができ、レルロがアメルを背負うとみんなで森の出口に向かって走り出した。しかし、次第にディラマントの鳴き声が大勢聞こえた。
ジゥァーブ! ジゥァーブ! ジゥァーブ! ジゥァーブ!
「…急いげ。もうすぐそこまで…」
「わ、分かってる。ちょ、ちょっとま、待て。ハァ、ハァ」
もうレルロも限界が近い。やはり5歳児では体力に大差など無いのだ。
「僕が変わるよ」
カイが次に変わろうとしたら、アメルが起きてしまった。
「ん、どうしたの?」
「起こしてごめんな。ちょっとまた変な鳥が来るみたいなんだ。しっかり守るから、村まで走れるか?」
「また来るの?」
「ああ、だけど、村までみんなが守るから頑張れ」
「大丈夫、アメル強いモン!」
アメルのおかげでみんなに力が入り、ペースもさっきより早くなった。
(ここは最初の鬼ごで逃げてた時に来た川。あと少し、あと少しだ)
みんなが必死で走った。大きくなる鳴き声を跳ね除けて一歩づつ前へ。
ドズ、、、ドス。
「カハァ、」
右から鈍い音がした。隣を向くと居たはずのカイは居なかった。カイはディラマントに飛ばされ、木近くの木まで吹き飛んでいた。
もう来てしまったのだ。
「…ディラマントはとても仲間思い。だから仕返しに来たんだ!」
ヘーゼルの叫びが聞こえた時、ゼクシオは既視感を覚えた。空中にいて、時間がゆっくりで、目の前に地面がどんどん近づく。アメルと手が離れたと気づいた時には、地面に当たっていた。
「ゥ、ゴホ、、、ガヘ、」
声にならない声を上げながら地面を転がる。体は潰れないが、どんどん壊れていく。
(頭が痛い、耳が痛い、腕が痛い、背中が痛い、足が痛い、痛い、痛い。、、、………)
動きが止まって前を見ると、ヘーゼルがアメルの方に飛んでいくディラマントへ魔術で追い払ったり、迎撃を行なっている。
彼はは自分へ魔術は回さず、迫るディラマントには体捌きだけで対処していた。
その中、アメルは再びセナに抱えられていた。しかし、周囲にはレルロの姿が見当たらない。
状況確認は可能で意識はまだはっきりするが、痛くて動けない。今自分にできることをひたすら考え、何度も何度も魔術を使おうと試みるが、結局何も起こらない。
(クソ、クソ、クソ!やっと努力するって決めたのに。頑張れると思ったのに…。異世界転生で、魔術もある世界なのに…。クソ、俺の身体、動け動け動け!こんなところでまだ死ねない…)
何度も奇跡が起きることを願い続けるが、結局はご都合主義など存在しない人生。
自分の無力を痛感する以外に、彼はこの場で何も出来なかった。
そんな中でも、次第にこの周囲へディラマントが近寄ってる気配を感じる。耳はゴンゴン鳴り響き、音ははハッキリと聞こえないが感じ取ることはできた。
空中にも周囲にも、見渡せば全方向を埋め尽くすほどの無数の鳥の化け物。新たな仲間は吹き飛んだり、震えたり、抗ったり…。ゼクシオはそれでも痛みを必死に堪え、ただ見ることしか出来なかった。