7話 追跡者
「最高です! どんどん釣れます!」
床が軋むような安い宿に泊まる日々、俺たちは例の砂浜でいつものように【釣り】に興じていた。
「……似たようなゴミばっかりだけどな」
この前釣った上等そうな革靴は大当たりで、水属性攻撃に対する耐性が少しあるらしくて本来は百リパスもするんだと道具屋の店主から打ち明けられたが、最近は良さそうなものがまったく釣れなかった。その中でも、釣り場が海なのが影響しているのか貝殻系が異常に多くて処分に困る。余程のものでない限り一リパスもしないって言われたしな……。
「で、でも、塵も積もれば山となるといいますし……」
「一応ゴミなのは認めてるんだな」
「……い、意地悪……あ、また釣れてますよ!」
「お……」
珍しく小魚が釣れた。魚屋に売ることもできるが、道具屋と行き来するのはさすがに面倒だし食費も浮くしで自分たちで食べることにしている。
「こらっ! じっとしていてください!」
「……」
俺の足元で飛び跳ねる小魚を必死に掴もうとするコレット。こうして、俺たちの【釣り】の時間はどんどん過ぎていった。魚が二匹出るまでは空腹でも我慢して、出たらこの子と一緒に食事をするという決まりだったが、それ自体ほとんどなくて結局一匹を分け合うことになるんだ。もちろんそれで満足できるはずもなくて、ガラクタを売った金で食べ物を買うことが多かった。そんなわけで、二人分の食費や宿代で、一日の稼ぎのほとんどは消えてしまっていた。
「……いつか、おうちを建てたいですね!」
「……家? いつになるやら。王都内なら土地代も高いし夢のまた夢になりそうだな」
「い、いつかですから……! 必ず立派なおうちを建てます!」
「……」
コレットは両手に拳を作ってやる気満々の様子。
「てか、なんで家が欲しいんだ? 宿に泊まれるならそれでいいだろ」
「……それは……二人だけで暮らす家です……」
「……かっ、からかうなよ!」
「あー、本気ですよ……?」
「……い、家なんて建てたいなら、ほかのやつを頼れよ。俺はただの貧しい釣り人なんだから……」
「貧しい釣り人……なんだか格好いいです! 浪漫ってやつですね……!」
「……なぁ」
「はい?」
思わせぶりな発言なら誰にでも言える。それが最終的に人を傷つけることになったとしても。
「一つ聞きたい。コレットは本気で俺と一緒になりたいのか? ふざけてるわけじゃないなら……俺なんかのどこに惚れたんだよ。人間不信者なんて、俺が言うのもなんだが底辺の部類だろ」
「……カレルさんは、私のことはお嫌いですか?」
「こっちの質問から先に答えろよ」
「……どうして人を好きになったのかなんて、おバカな私にはよくわからないっていうのが正直なところです。カレルさんのいいところは、強情だけどなんだかんだで優しいとか、年齢の割に渋いとか幾つでも言えますけど……」
「……」
ただ捻くれてるだけなんだけどな。俺なんて色んな意味でまだまだガキなんだ……。
「でも、これだけはわかります」
「……これだけ?」
「……はい。カレルさんの側にいたいってことです! いけませんか……?」
「……い、いいけど、別に……」
「やったー! じゃあ、今度は私からの質問です。コホン……カレルさんは、私のことをどう思ってますか?」
「……よ、よくわからないよ。ごめん……」
「……い、いいんです。私が勝手に側にいたいだけですから。ある意味、ストーカーってやつです。ククク……」
「でも、側にいると安心する」
「……本当、ですか?」
「……あ、ああ……って、いつの間にか……!」
「わああっ!」
どうやら無心で【釣り】スキルを使ってたみたいで、俺たちはガラクタの山に囲まれてしまっていた。
「……こんなに釣れてたのに二人とも気付かないなんて……俺たち、ある意味お似合いなのかもな」
「ですね!」
戦利品のガラクタたちから祝福される中、俺はコレットと小さく笑い合った。