6話 首輪
「凄いですっ!」
「……」
また何か釣れたと思ったら、上等そうな革靴だった。少し傷んではいるものの、そこそこの値段で道具屋が買い取ってくれそうだ。
「いっぱい出ましたねえ」
「だな……」
俺たちは【釣り】スキルで手に入れた戦利品を砂浜に並べていた。ボロボロのケープ、そこそこ綺麗な貝殻の山、錆びた短剣、小魚、ワカメ、亀の甲羅、何かの鍵……様々なものが手に入った。いずれも大したものじゃなさそうだが、高確率でどんどん釣れるので刺激になるし、今のところはメリットばかりのように思えた。
「お宝ザックザクです!」
「あはは……」
何よりも釣れるたびにコレットが喜んでくれるのが嬉しい……って、また俺流されちゃってるな。幼馴染に裏切られたあの悲劇を繰り返さないためにも、他人を軽々しく信用したらいけないっていうのに……。
「何々、売りたいものがあるって? ……おおっ、お客さんたち随分色んなもの持ってるねえ。そうだなあ、これはまあまあだ……」
釣り場最寄りの道具屋『パワースポット』のオヤジが、俺たちの戦利品を一つ一つ片眼鏡に近付けて丹念に調べている。結構ドキドキするなあ……。
「――よし、まとめて百リパスでどうだい?」
「……んー……」
一日の食費や宿代が、安く見積もって二人分で百リパス超えるか超えないかってところだから厳しいな。
「イケメンのおじさん、もっとサービスしてくださいっ! 私たちお金に困ってて……」
俺の渋い表情を見て察したのか、コレットが必死の形相で懇願している。
「……わ、わかったよ。それじゃ、お嬢ちゃんに免じて百五十リパスでどうだい!?」
「もうちょっとお願いします!」
「じゃあ、百七十だ!」
「わーい、ありがとうです!」
「はっはっは。お嬢ちゃんには参ったよ……」
百七十リパスか。予想以上に高く売ることができた。人懐っこいコレットの交渉術のおかげでもあるんだけど。
「よかったですね、ご主人様!」
道具屋から出て、コレットはとんでもないことを口にした。
「ご、ご主人様って……コレットは俺の奴隷かよ」
「……カレルさんがそれで私を信じていただけるなら、喜んで奴隷にだってなります!」
「……」
この子はいつもほんわかな感じなのに、時々ドキッとするようなことを言う。まるで俺の心の中を見透かされているかのようだ。
「わかっちゃうんだな」
「……はい。でも当然だと思います。あんなことをされたんですから……」
「……俺は別にあいつらを恨んではいないよ。もちろん、腹は立ったけどな。そもそも俺が無能で、人間不信になるほど弱いのが悪い……」
「あの……よかったら私に首輪をつけてください!」
「……え?」
「私もそうですが、奴隷の方々はみんな奴隷商人さんから刻印を押されていて、首輪をつけた人には絶対に逆らえないし、嘘をつけないような仕組みになってるそうですから……」
「……そう、なのか……」
「ですよー」
知らなかった……。なるほど、だからみんな自分だけの奴隷を欲しがるわけだ。以前の俺は、なんで奴隷なんか買うんだって本気で思ってたけど、今は購入するやつの気持ちもわかる気がした。俺みたいに人間不信になったやつに特に需要が高いんだろう……。
「首輪は安いもので三十リパスもあれば買えると思います。私、カレルさんに信じていただけるなら喜んでしたいです」
コレットは、いつものなんら濁りのない笑顔を見せてくれた。
「……そうか。俺のために窮屈な首輪をするのか」
「大丈夫ですよ! すぐ慣れると思います」
「……できない」
「……え?」
「確かに、今の俺は信じられる相手が欲しい。でも、そういうやり方はなんか対等じゃないっていうか……俺頭悪いからどういう風に言っていいかわからないけど……心を縛りたくないんだ。コレットみたいに優しい子の心は、特に……」
「……カレルさん……」
「だから……ごめん。今はそんな簡単に誰かを深く信じることなんてできる状態じゃないけど、待っててほしいんだ。自然にコレットのことが信じられるようになるまで……」
「……はいっ! いつまでも、首をながーくしてお待ちしております!」
「……ありがとう」
「どういたしまして!」
きっといつかはコレットを信じられる日が来るはずだ。俺はこの子の嬉しそうな顔を見ながら、心の奥底からそう思った。